当工業会では、我が国の造船関係事業の振興に資するために、競艇公益資金による日本財団の助成を受けて、「造船関連海外情報収集及び海外業務協力事業」を実施しております。その一環としてジェトロ船舶関係海外事務所を拠点として海外の海事関係の情報収集を実施し、収集した情報の有効活用を図るため各種調査報告書を作成しております。

　

　本書は、当工業会が日本貿易振興機構と共同で運営しているジェトロ・ニューヨーク・センター舶用機械部にて実施した「米国の舶用機器市場（マリンレジャー関連）構造及び今後の動向に関する調査」をとりまとめたものです。

　関係各位に有効にご活用いただければ幸いです。

　

　

　米国のマリンレジャー市場は3兆円規模（約300億ドル）といわれ世界一の市場であり、舶用機器にとってはジョーンズアクト等により制限されない開放された市場です。そこには、新造船外機が2,500億円（約25億ドル）を始め、GPS、無線機等の航海機器など様々な舶用機器が使用されています。市場は、テロ後の景気の持ち直しと身近なレジャーが好まれるとの傾向から、需要は向上しつつある状況にあり、今後の拡大が期待されています。

　このような市場の中で、プレジャーボート業界1位のブランズウィックは、すべての種類のボート、エンジン、舶用機器等のメーカーを企業買収し、総合的にプレジャーボートビジネスを行うことで市場支配を行おうとしています。また、エンジンについては、最近の米国環境保護庁（EPA）の排ガス規制、騒音規制の強化やユーザーの志向（信頼性重視等）の変化により、従来の2ストロークエンジンから、より高度な技術が必要な4ストロークエンジンヘと大きな市場の変化が起こっています。4ストロークエンジンでは、米国メーカーが開発競争に遅れたため日本メーカーが優位に立っており、日本製船外機の輸入が増加しています。米国メーカーも技術開発を進める一方で、2004年、日本メーカーをダンピングで提訴する等、なりふり構わない市場防衛戦略を取っています。

　このように米国のマリンレジャー関連舶用機器市場は、ユーザーの志向の変化、排ガス規制等、市場を取巻く環境が大きく変化しており、これは米国メーカーの企業戦略と動向が大きな要因となっています。

　本調査では、

　「1.プレジャーボート市場」では、市場の概況とそれを形成するメーカーの概要を述べています。

　「2.企業戦略と各種施策」では、市場の動向を、取り得る企業戦略の施策ごとに「企業買収、企業提携」、「生産拠点の海外進出、流通システムの効率化」、「品質競争力の強化」「販売促進」、「ダンピング提訴」とに分け、それぞれについての動向を追跡することで各企業の戦略を浮き彫りにしました。

　「3.プレジャーボート市場の行方と日本企業」では、市場の行方を展望するとともに日本企業の関わりを考察しました。

　この報告書が、日本の舶用機器メーカーの米国市場戦略と今後の経営のあり方を検討する際の参考資料になれば幸いです。

　

　

　米国のプレジャーボート市場は大別すると、ボート本体、エンジン、そしてボートが売れたあとのアクセサリー（aftermarket accessories）及びトレイラー（ボート運搬用）に分けられる。ボート市場には一般的に、エンジン付きとエンジンなし（ヨットやカヤック）、さらに水上オートバイ（Personal Water Craft: PWC）が含まれる。エンジン市場は、主に船外機、船内機、そして船内外機に分類される。

　米国プレジャーボート製造者協会（National Marine Manufacturers Association: NMMA、会員数1,500社）が2005年5月に発表した「2004年　レクレーション　ボーティング統計概要（2004 Recreational Boating Statistical Abstract）」を基に、2004年の米国プレジャーボート市場に関する主要数字を概観すると次のとおりである。

　

　

　米国プレジャーボート市場の関係団体は、ボート市場が2004年から回復し、2005年はその傾向がもっと強まるだろうと期待している。NMMAが2005年5月3日に発表した「2004年　レクレーション　ボーティング統計概要」によると、2004年における新造ボートだけの売上高は前年比7%増の107億ドルに達した（PRニュースワイアー（PR Newswire）、5/03/2005）。

　

　主要統計の中から、米国ボート市場に関する主な数字を以下に列挙する。

　

　図1に示すとおり、プレジャーボート利用者数は、ピークだった1997年の7,840万人から減少したが2001年から増加に転じ、2003年には7,200万人になっている。

　

　

　図2に示すとおり、プレジャーボート隻数については、2004年に合計1,797万隻でそのうち、船外機ボートが884万隻で全体の49%、船内機ボートが175万隻で10%、船内外機ボートが182万隻で10%、水上オートバイが148万隻で8%となっている。

　

　

　図3に示すとおり、2002年のボートの種類別売上げで見てみると、隻数べースで、船外機ボートが24万1,200隻で、船内外機ボートが7万8,400隻、船内機ボートが1万300隻となっている。しかし、1隻当たりの単価が船内機ボートで367,505ドル、船内外機ボートで31,644ドル、船外機ボートで10,759ドルとなっており、売上高総額では、船内機ボートが43億3,656万ドル、船外機ボートが22億8,091万ドル、船内外機ボートが21億9,293万ドルとなっている。

　そして、最近の傾向として、大型クルーザーを含む船内機ボートの増加が顕著である。