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4. カントリー・プロファイル:EU未加盟国
 欧州のEU非加盟国の中で、海事産業の盛んな国のプロファイルを以下に紹介する。
 
4.1 トルコ
(トルコ経済概況)
 トルコは近年、機能する市場経済体制を築きつつあるが、マクロ経済の不均衡是正が課題となっている。2004年の対内直接投資は大幅に増加したが、それでも経済規模に比較して低い水準に止まっている。一方、プラス面としては、インフレ率が1999年の65%から、2004年半ばには一桁台に低下した。経済成長率も高い伸びを示しており、2004年上半期には12%を記録、通年では8%が予想されている。これは2001年経済危機以降の経済政策の成功によるものである。
 
 経済は好調であるが、トルコはいまだに経常赤字とGDPの75%という多大な政府債務を持っている。トルコ政府は公的部門の透明性と効率の向上に努めており、高成長率、インフレ率低下、財政引締め策等により、トルコ経済の安定性は以前より増している。しかし、2004年5月と9月、2005年3月に経済が再び不安定化したことにより、トルコ経済の脆弱性が露見し、投資家心理に悪影響を与えている。
 
 雇用市場面では、最近の経済回復により、2001年経済危機で失われたとされている100万人分の雇用にも幾分回復の兆しが見えている。2004年の雇用成長率は2%で、同年第4四半期の失業率は10%に低下した。また、2000年以来初めて、公的部門、民間部門とも実質賃金が3%上昇した。
 
 1995年にトルコはEU関税同盟に加盟し、トルコ−EU間の貿易は増加した。現在EUはトルコにとって最大の貿易相手であるが、トルコの貿易赤字幅は依然として大きい。関税同盟は工業製品の貿易に適用され、トルコはEU政策に部分的に従わなければならない。トルコ−EU間の農作物及び鉄鋼製品の貿易は、別の特恵協定が適用されている。サービス及び公的調達に関しては、現在2国間協定は存在しない。
 
 トルコのEUからの主要輸入品目は、工業製品では機械、自動車、化学及び鉄鋼、農作物では穀類である。一方、EUはトルコから、繊維、機械及び輸送機器を主に輸入している。インフレ率の低下により、2005年1月、トルコは通貨を切り下げた。1新トルコ・リラは1,000,000旧トルコ・リラに相当する。
 
(トルコの造船業)
【Gemak Shipbuilding Industry and Trading S.A.】
 1969年創業のGemak Shipbuilding Industry and Trading S.A.(以下「Gemak造船所」)は、イスタンブール郊外マルマラ海北東部、ボスポラス海峡入り口のTuzlaに位置するトルコで最も古い造船所のひとつである。Gemakは創業当初はイスタンブールの金角湾に位置する小規模な造船所であったが、1981年、トルコ政府が新たに造船・船舶修繕地区に定めたイスタンブール近郊の工業都市Tuzlaに完全移転した。
 
 同造船所の主要業務は、ケーブル敷設船、LPG/LNG船、クルーズ船、カタマラン、調査船を含むあらゆる船種の乾ドック、修繕、改造であるが、2000年にTuzla Shipbuilding Industry S.A.を買収し、新造船建造にも進出した。
 
 船舶修繕バースの全長は300m、喫水は12mである。また、2本の浮きドックを持ち、9,000〜28,000トンまで対応が可能である。同造船所は年間約75隻、計1,500,000DWTの修繕を手がけている。
 
 Gemak造船所の船舶改造は、幅広い建造済み部品の利用と高度な計画により、短期間で仕上げることが可能である。船体延長とリエンジニアリング、セメント船改造、シングルハル・タンカーのダブルハル化等を専門としている。
 
【ÇEKSAN Inc.】
 1960年にBayrak家がイスタンブールに創立したÇEKSAN Inc.は、小型船舶の建造と木造船の修繕及びメンテナンスを専門としている。同造船所は1979年に再編、法人化され、建造業も拡大した。現在ÇEKSAN Inc.はTuzlaに位置し、従業員数は400人である。
 
【Çeliktrans Deniz naat Ltd. ti.】
 1958年、ボスポラス湾に設立されたÇeliktrans Deniz naat Ltd. ti.(以下「Çeliktrans造船所」)は、創業当時から複数の船台を持つ民間造船所のリーダーである。これまで58種の異なる船種の建造実績があり、船舶修繕事業も広範囲に渡っている。
 
 Çeliktrans造船所も、1984年にトルコ政府主導で新工業都市Tuzlaに移転した。1992年、現在の所有者Çeliktrans Deniz naat Ltd.に買収された後、大規模な設備近代化と投資を行った。近年では、外国船主向けの新造船建造も手がけている。61
 
 
【RMK MARINE】
 1984年に設立され、1984年にTuzlaに移転したRMK造船所は、1997年にトルコの大財閥Koç Groupに買収され、社名をRMK MARINEに変更した。現在、艦艇、商船、ヨットの建造、及び修繕とメンテナンス業務を行っている。全長40mまでの船舶及び構造物の建造、修繕が可能である。62
 
 
【Selah Industries Inc.】
 1982年、Selah Industries Inc.によりTuzlaに設立された造船所は、敷地面積が5,000m2、年間10,000トンの鉄鋼処理が可能な近代的設備を持つトルコ最大の造船・造修所のひとつである。
 
 同造船所は、船主要望と船級協会基準に適合する30,000DWTまでの多目的コンテナ・乾貨物船、タンカー、バージ、ポンツーン、艦艇の建造を行っている。また、完成船に加え、部分建造や鋼製船体の建造等も行っている。63
 
【Yardimci Corporation】
 Yardimci Corporationは、1976年にSevket Yardimciにより設立された造船所兼船舶管理会社で、新造船建造が主なビジネスである。また、同社は多目的コンテナ船、ばら積み船、ケミカル・タンカーの船隊を所有し、運航も行っている。この船隊に加え、同社は平均船齢5年の船舶9隻を所有している。Yardimci Corporation所有の2造船所YardimciとTurkterは、近代的な設備を持つ造船所で、トルコ内外から新造船建造を受注している。
 
 さらに、Yardimci Corporationは、Gemsan造船所と共同で、2本の浮きドックを持ち、最大パナマックス型船の乾ドック、修繕、メンテナンスを行う企業Yardgem Shipping Inc.を設立した。Yardimci Corporationは、海外からの受注を獲得した最初のトルコ造船所のひとつでもある。
 
 トルコでは、実際の建造は、造船所の監督下、下請け企業チームが行うことが慣習となっている。造船所は、常に同じ下請け企業チームを使うことが多い。64
 
 
(トルコのEU加盟に向けた活動)
 トルコはEU加盟を長年の目標としている。既に1959年7月には、トルコは当時の欧州経済共同体(EEC)に加盟申請を提出した。加盟そのものは時期尚早とされたが、EECとトルコは1963年9月に、経済、貿易協力を目的としたアンカラ協定に合意した。
 
 1970年11月には、トルコ−EEC間の将来的な関税及び数量制限撤廃をめざした議定書がアンカラ協定に追加された。1980年には、トルコの軍事クーデタにより、トルコ−EEC関係は凍結されたが、1983年のトルコ議会選挙後、関係は修復された。1987年、トルコは正式にEC加盟を申請した。1990年、ECの欧州委員会は、トルコの加盟申請の権利は認めながらも、状況が改善するまで、申請の処理は延期するとの決断を下した。
 
 相互貿易は、トルコ−EU間の要である。1995年の関税同盟発足後、貿易量は増加し、1990年時点でトルコはEUの第9位の貿易相手国、現在ではEU25カ国の第7位の貿易相手国に上昇している。また、EUへの輸出国としては、トルコは1990年の17位から現在では13位に上昇した。2004年1〜9月のトルコのEUへの輸出は、前年同期比54.87%の増加、EUからの輸入は50.62%増加した。EUのトルコヘの輸出は、2001年のトルコ財政危機以降回復し、2004年にはEU総輸出の3.95%を占めている。また、トルコからの輸入は3.01%である。65
 
 1999年12月にヘルシンキで開催されたEU理事会(EUサミット)では、トルコは他のEU加盟希望国と同じ立場にある加盟候補国であると初めて公式に認められた。これにより、トルコはEU正式加盟に向けての改革を促進するための財政的援助、その他の協力の対象となった。同時に、トルコ政府は、EUの既存法体制に自国法を適合させるための国家計画を開始した。
 
 2003年5月のEUサミットは、加盟パートナーシップの改正を採択した。改正された加盟パートナーシップは、トルコ政府が既存EU法採択等のEU加盟条件を満たすことを援助し、特にトルコの政治体制の改革に重点が置かれている。2005年時点のその他の優先課題は、司法体制改革、自由と安全保障、トルコ国内最貧地域の経済的、社会的融和、環境問題等である。
 
 2003年7月、トルコは既存EU法採択のための国家計画を修正した。同計画と加盟パートナーシップは、改革の進展とともに定期的に見直され、新たな改革の優先順位が決定される。2004年12月17日、EUはトルコの加盟交渉開始への見通しを発表した。
 
 2005年4月26日には、第44回トルコ−EU加盟理事会がルクセンブルクで開催され、加盟交渉の見通しや両者関係の現状が協議された。また、トルコ議会と欧州議会の代表も、定期的にトルコ−EU関係に関する協議を行っている。
 
65 DG Trade
 
(EUによる財政援助)
 トルコは、2001年12月以来、EU加盟条件を満たすことを目的としたEUからの財政援助を受けている。それ以前は、トルコはEUが地中海諸国に対して出資している財政援助の対象国であった。
 
 1996〜2004年の間に、トルコはEUから総額11.5億ユーロの援助を受けており、2005年予算は3億ユーロ、2006年予算は5億ユーロとなっている。また2007〜2013年には、他のEU加盟候補国とともに、年間10億ユーロのEU援助が予定されている。
 
 EUからの財政援助は、トルコにとって大きな影響力を持っている。この援助は、トルコの基本教育、トレーニング、環境インフラ、経済改革等の重要分野への貴重な財源となっている。トルコはEUからの直接援助以外にも、1992〜2002年の10年間に、欧州投資銀行(EIB)から19億5,500万ユーロの融資を受けている。さらに、EUは世界銀行と密接に協力し、トルコ国内の開発プロジェクトに共同出資を行っている。


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