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2.4 デンマーク
(デーク経済概況)
 デンマークは人口540万人(2003年)で、拡大EUの中でも最も人口の少ない国のひとつである。デンマークの経済及び生活水準は高く、国民一人当たりGDPは過去5年間、EU25カ国の平均よりも約20%高い。また、デンマークの実質経済成長率は、2000年に3.3%を記録後、2001年には僅か0.7%に低下したが、2004年以降は2%台に回復している。一方、EU全体の雇用は増加しているにもかかわらず、デンマークの雇用者数は2002年、2003年と続けて減少した。(表2-4-1)
 
表2-4-1A  デンマークの国民1人当りのGDP比較
(1995〜2006年)
'95 '96 '97 '98 '99 '00 '01 '02 '03 '04 '05 '06
EU25 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0
EU15 111.1 110.8 110.5 110.4 110.2 110.1 110.2 110.0 109.7 109.3 109.0 108.8
デンマーク 125.3 126.1 126.3 125.0 127.3 127.3 126.2 120.8 121.2 121.6 121.9 121.6
米国 152.5 153.7 154.6 154.9 155.8 154.1 151.1 150.9 152.4 154.8 155.9 155.6
日本 123.7 125.5 124.3 119.3 116.1 115.0 113.3 111.7 113.4 115.8 114.9 114.4
出典:Eurostat、各年のEU25の国民1人当りのGDPを100とした
 
表2-4-1B デンマークの経済成長率比較(1995〜2006年)
'95 '96 '97 '98 '99 '00 '01 '02 '03 '04 '05 '06
EU25 : 1.8 2.7 3.0 2.9 3.7 1.8 1.1 1.1 2.4 2.0 2.3
EU15 2.6 1.7 2.6 3.0 2.9 3.7 1.7 1.0 1.0 2.3 1.9 2.2
デンマーク 2.9 2.5 2.7 1.8 2.8 3.3 0.7 0.6 0.7 2.4 2.3 2.1
米国 2.5 3.7 4.5 4.2 4.4 3.7 0.8 1.6 2.7 4.2 3.6 3.0
日本 2.0 3.4 1.8 -1.0 -0.1 2.4 0.2 -0.3 1.4 2.7 1.1 1.7
出典:Eurostat
 
表2-4-1C デンマークの雇用成長率比較(1993〜2004年)
'93 '94 '95 '96 '97 '98 '99 '00 '01 '02 '03 '04
EU25 : : : : 1.0 1.7 1.2 1.5 1.3 0.4 0.3 0.6
EU15 -1.6 -0.1 0.8 0.5 0.9 1.8 1.8 2.0 1.4 0.6 0.3 0.7
デンマーク -1.5 1.4 1.7 0.4 0.8 1.6 2.1 0.3 0.3 -0.4 -0.9 0.1
米国 1.8 2.3 1.9 1.7 2.2 2.4 2.2 2.2 -0.1 -0.8 0.0 1.1
日本 0.4 0.1 0.1 0.4 1.0 -0.7 -0.8 -0.1 -0.6 -1.4 -0.3 0.2
出典:Eurostat
 
(デンマーク造船業)
 2004年は、AP Møller-Maersk(APM)グループの造船部門で、デンマークで唯一存続している大造船所であるオーデンセ造船所にとって困難な年であった。同年に竣工したのは親会社APM向けのコンテナ船3隻、及び同じくグループ企業であるSafmarine Container Lines向けのコンテナ船1隻のみである。オーデンセ造船所の収益は、2003年の税引き前利益2億9,530万クローネ(5,150万ドル)から、2004年には3億7,960万クローネの赤字に転落した。2005年にも更なる損失が予想されている。2005年4月のAPMグループ総会では、生産性が向上しなければ同造船所の閉鎖もあり得るとの示唆がなされたが、受注残を考慮すると2009年以前の閉鎖の可能性は少ない。
 
 オーデンセ造船所の財政難は、生産性向上目標を達成できなかったことと、鉄鋼等の原材料の高騰が原因である。同造船所はデンマーク海軍向けの艦艇建造という新分野に進出したが、大きな成功はない。2005年3月には、同造船所初のAPMグループ以外の企業向けコンテナ船を竣工した。Deutsche Afrika-Linien向けの同船「DAL Kalahari」は4,500TEUで、ポスト・パナマックスの幅37.3mとパナマックス型より短い全長266.3mを組合せたオーデンセ造船所のLクラス船である。
 
 オーデンセ造船所の受注残は、APM向けの7,500TEUコンテナ船のシリーズであるが、ドル安により、昨年よりも低い船価で受注している。
 
 デンマークの中小造船所の中には、豪華ヨット建造に転向した造船所もある。Assens Skibsvaeftは、2004年6月に47m級調査探検船、引き続き地方政府向けバージ型フェリーを竣工し、現在は全長80mの屋内ドックで外国船主向けの豪華ヨットを建造中である。オーフス造船所もビジネスを同様の顧客べースに移行している。Orskov造船所の修繕業務は好調である。一方、85mと75mの乾ドック設備を持つSoby Vaerftは、ドイツ船主向け沿岸船市場に力を入れている。
 
2.5 英国
(英国海事産業)
 英国海事産業全体の売上げは25億ポンドに上る。これは英国GDPの約0.04%に過ぎないが、輸出市場では割合はもっと高くなる。艦艇部門を含む英国の造船・修繕業の2002年売上げは18億ポンドである。東欧や極東の造船所との競争激化により、欧州造船所にとって商船建造で生き残ることは困難で、英国でも大規模な造船所は少ない。しかし、英国海軍向けの艦艇建造プログラムは堅調で、今後数年間の需要が見込まれている。海軍向け大造船所は、ポーツマス、プリマス、クライド、バロー、タイン、ローサイスに位置している。
 
 2003年の船舶修繕・改造セクターの売上げは4億2,000万ユーロに上り、特に専門性の高い分野では、船舶改造は新造船建造に取って代わったことがわかる。欧州は船舶改造市場で40%のシェアを持っているが、英国の船舶改造業は欧州の中でも3本の指に入る。6
 
 ボート建造産業の年間売上高は6億6,200万ポンドで、うち付加価値額(GVA)は2億4,600万ポンド、同産業全体で1万人を雇用している7。同セクターは帆船及びモーターボートを含む小型ボートからスーパーヨット(全長24m以上の個人所有の遠洋レジャー・クラフト)まで多くの船種を建造しているが、付加価値の高いスーパーヨット市場は英国造船業にとって重要性を増している。
 
 英国の舶用機器製造業は、推進装置から航海機器、発電機、安全設備と多様性があり、商船、艦艇、レジャーボート用の機器を製造している。舶用機器産業の年間売上は約17億ポンドで、その内62%が輸出向けである。8
 
6 Shipbuilders and Ship Repairers Association
7 2002年統計、Annual Business Inquiry (ABI), 2004
8 Competitive Analysis of the UK Marine Equipment Sector, DTI 2001
 
(英国船舶修繕業)
【A & P Group】
 A & P Groupは欧州でも有数の船舶修繕企業で、改造とマリン・サービスも行っている。英国及び他の欧州諸国の主要航路沿いに計14本の乾ドックを持ち、修繕ヤードは、英国タイン川、ティーズ川、チャタム、ラムズゲート、ドーバー、サウザンプトン、ファーマスに位置する。それぞれのヤードは異なる市場向けのサービスを行っており、例えばタイン川とティーズ川のヤードは北海原油産業向けで、A & P Tyne社は最近ノルウェー企業との契約を獲得した。
 
【Northwestern Ship Repairers Limited】
 マーシー川沿いに位置するNorthwestern Ship Repairers社も、船舶修繕・改造の大手である。数箇所のヤードに7本の乾ドックを持ち、フェリー、オフショア船、タンカー、艦艇、アルミ製高速船、クルーズ船、沿岸船等各種船舶へのサービスを行っている。2002年11月から2003年10月の1年間に修繕した船舶数は100隻以上に上る。
 
(英国造船業)
【Appledore Shipbuilding Ltd.】
 デボンのAppledore Shipbuilding社は、20エーカーの敷地内に全ての造船サービスを持つ「シップ・ファクトリー」である。同造船所の屋内乾ドックは188×33.6mで、建造、艤装設備を持ち、10,000DWTまでの船舶建造が可能である。最近受注した新造船は、浚渫船、液体ガス運搬船、プロダクト船、バルク船、旅客・貨客フェリーである。また、英国海軍向けの漁業保護艇、調査艇等の建造実績もある。
 
【BAE Systems Marine (Barrow)】
 BAE Systems Marine社のバロー造船所はイングランド北西部に位置する。3,100人を雇用する総面積169エーカーの同造船所は、欧州でも最大規模の屋内造船設備を持ち、大型戦艦や潜水艦などワールドクラスの艦艇のデザイン、建造、実験を行っている。同造船所は英国政府の主幹海軍ベースのひとつで、英国国防省の艦艇新造計画の大きな役割を担っている。
 
 CESAの調べによると、英国造船所の新造船竣工量は2000年の13隻から2004年には僅か2隻に激減した。同じくCGTベースでは51,959CGTから3,550CGTに、輸出金額ベースでは1億8,000万ポンドから1,200万ポンドにそれぞれ減少した。
 
 現在の英国造船所の受注残は6隻である。うち、英国海軍向けが4隻で、グラスゴーのBAe Systems Naval Shipsと英国北部ウォールセンドのSwan Hunter Tyneside Ltd.が2隻ずつ受注している。4隻のトン数合計は52,000DWTで、2006年後半の竣工予定である。残りの2隻はグラスゴーのFerguson Shipbuilder Ltd.が受注したフェリー1隻とその他1隻で、合計トン数は870DWTである。9
 
9 Fair Play September 2005
 
(英国舶用産業)
 英国国防省からの受注が中心の英国造船業とは対照的に、英国の舶用産業は国際市場で引き続き活躍している。その例としては、タイン川沿いの造船所Swan Hunter Tyneside Ltd.が苦戦しているのに対し、同地域のSolar Solve Marine社は、船橋窓用太陽光反射防止スクリーン製造の世界最大手で、成長を続けている。同社製品の80%は韓国、中国、日本等極東市場を始めとする海外市場向けである。同社は近年、タイン川沿いに前工場の3倍の規模の新工場を建設した。
 
(英国海事クラスター)
 英国の海事関連産業は地域別のクラスターに分かれている。地理的主要クラスターは、イングランド南東部のソレント地方で、商業港、軍港、海事サービス、ハイテク舶用電子機器、マリン・レジャー産業等が集中している。また、南西部海岸沿いには、チチェスター、メッドウェー、ブライトンやケント州の港町等の小規模なクラスターが点在している。イングランド南西部は、英国のマリン・レジャー産業の中心で、2004年の売上げは7億6,920万ポンド、英国全体の38.6%に相当する。同産業の雇用者数は9,000人以上で、英国全体の31.8%となっている。10
 
 イングランド北部は、北東部、カンブリア、マージーサイドの3つの地理的クラスターに分かれている。北東部クラスターは、1994年に設立された企業主導のクラスターNEMROC (North East Marine and Offshore Cluster)を通じて活動している。NEMROCは、21世紀の海事産業に必要な全ての分野を代表する15余りの企業連合で、デザイン、溶接、鉄鋼、艤装、暖房、換気、空調、電気系統、委託業務、総合物流サポート、プロジェクト・サービスの主要企業から構成されている。
 
 リバプールとバーケンヘッドを中心とするマージーサイド・クラスターは、566企業からなり、売上げ合計は12億9,600万ポンドである。内、造船・修繕企業25社の売上げは3,800万ポンド、舶用エンジニアリング企業12社の売上げは6,200万ポンド、鉄鋼関連メーカー15社の売上げは600万ポンドである。11
 
 カンブリア地方バローでは、BAE Systemsのバロー造船所の直接雇用3,000人、間接雇用6,000人を含め、人口の30%近くが海軍関連の造船産業に雇用されており、地域経済を支えている。12
 
 スコットランド地方もひとつのクラスターとされ、イングランド南東部クラスターに次ぐ規模である。1997年当時は、原油・ガス及び造船関連産業で44,000人が雇用されていたが、その後全ての分野で雇用は減少傾向にある。内、10,000人が3つの大造船所、2つの中小造船所、及び複数の造修所に雇用されており、スコットランド・クラスターの中心産業である。また、北海沿岸には「ボート・ガレージ」と呼ばれる中小マリン・エンジニアリング企業が点在する。しかし、クライドの乾ドックのように、現在使用されていない設備も多い。
 
 スコットランドの造船業も、BAE Systemsの鋼製及びアルミ製、グラスファイバー製の戦艦及び支援艇の建造に独占されている。修繕業は北海で活動する小型船舶が対象である。舶用産業は、舶用機器製造、デザイン・サービス等がある。スコットランドの舶用産業の歴史は古く、労働力、管理実績、研究開発等で条件が整っている。
 
 首都ロンドンには造船業や船舶修繕業はほとんど存在しないが、保険、検査、仲買、司法等の海事関連サービス産業では世界の中心となっている。2001年には、司法サービスのみで売上高は2億ポンドに上り、海上保険の売上高も1.5億ポンドに達する。13
 
 英国はEU加盟国として、欧州単一市場への完全アクセスを享受しており、既に自由貿易協定を締結していた新規加盟国10カ国を受け入れたEU拡大による影響は、限定的であると見られる。
 
 また、英国は、北欧諸国に比べて地理的にバルト海沿岸の新規加盟国とは遠く、リトアニアの造船所を買収したデンマークのAPM社のようなバルト海沿岸諸国の造船所買収実績はない。
 
 現在の英国造船業は、東欧造船所等、他国の造船所の参入を許さない英国海軍向けビジネスが中心である。また、修繕業はユーザー・ベースに近いことが有利となっており、EU拡大の影響は少ない。
 
 労働力の安い東欧諸国がEU加盟したEU拡大により価格競争が激化した分野は、ボート建造セクターである。東欧造船所は下請けで力を強めているが、現在のところ、英国は研究開発やサプライ・チェーンで優位に立っている。
 
 伝統的に英国の海事産業は内国投資とファイナンスが中心であったが、近年オランダのEcodock社が英国北海沿岸における船舶解体ドックのネットワーク構築に向けて投資を行っている。英国の強みは環境基準の高さで、新規EU加盟国はその点で遅れをとっている。
 
10 South East Economic Development Agency
11 Fisher Associates 2003
12 BAE Systems
13 Fisher Associates


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