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1. EU拡大の概要
1.1 背景及び経緯(EU既存15カ国加盟まで)
 何世紀もの間、近隣国家同士の紛争が絶えなかった欧州では、第二次世界大戦以後、真の平和を実現するために、主要国首脳が国境を越えた政治的、経済的な欧州統合の方法を模索した。最初の統合の動きは、1950年、フランスのシューマン外相が提案した西ヨーロッパ地域の石炭鉄鋼同盟である。1951年に創設された欧州石炭鉄鋼共同体(ECSE)の6加盟国は、ベルギー、西独、ルクセンブルク、フランス、イタリア、オランダである。
 
 ECSEの成功により、1957年、上記6カ国はローマ条約により、欧州核エネルギー共同体(EUROTOM)及び欧州経済共同体(EEC)を設立し、地域統合を更に進めた。これら2つの共同体設立により、加盟国間の貿易障害を取り除き、欧州単一市場を実現する方向性が定められた。1967年には、上記3欧州共同体が統合され、ひとつの委員会、閣僚理事会、欧州議会を持つ共同体となった。欧州議会議員は、5年毎に実施される直接選挙によって選出される。
 
 1992年、新ローマ条約となるマーストリヒト条約により、経済分野だけではなく、加盟国の司法、内政、国防等の分野での新たな協力体制が合意された。同条約の発効に伴い、欧州共同体(EC)は欧州連合(EU)と改称された。マーストリヒト条約では、農業から文化、消費者保護から競争原理、環境・エネルギーから貿易まで、幅広い分野における欧州共同政策と意思決定方法が制定されており、対外貿易及び他国への援助、欧州共同外交・防衛政策等についてはEU共同で意思決定を行う。
 
 1992年には、欧州単一市場が発足したが、ファイナンシャル・サービス分野での統合は未だ完全ではない。ほとんどの国境における旅券審査と税関は廃止され、EU国民の域内移動が容易になった。また、同年に欧州経済通貨同盟(EMU)が発足、2002年には欧州単一通貨ユーロが実現した。単一通貨は欧州中央銀行により管理され、ユーロはEU既存15カ国中12カ国の法定通貨となった(現在、英国、スウェーデン及びデンマークは自国通貨を保持)。
 
1.2 EU拡大の経緯
 EUは歴史的に拡大の一途をたどってきた。1951年のECSEの6カ国から、1973年にはデンマーク、アイルランド、英国、1981年にはギリシャ、1986年にはスペイン、ポルトガル、1996年にはオーストリア、フィンランド、スウェーデンがそれぞれEUに加盟した(本稿ではこれをEU既存15カ国とする)。最近では、2004年に中東欧、南欧の10カ国、即ちキプロス、チェコ、エストニア、ハンガリー、ラトビア、リトアニア、マルタ、ポーランド、スロバキア、スロベニアが加盟を果たした(現在、新規加盟国10カ国はユーロに加盟しておらず、自国通貨を保持)。また、2007年にはブルガリアとルーマニアの加盟が予定され、クロアチアとトルコもEU加盟交渉を開始しており、加盟候補国となっている。その他、将来的にはアルバニア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、マケドニア(旧ユーゴスラビア)、セルビア、モンテネグロ、及び国連安保理事会決議1244管理下のコソボもEU加盟の可能性がある。
 
 2004年5月1日の中東欧、南欧10カ国の加盟により、EUが15カ国から一挙に25カ国に拡大した際、多数の既存EU国民が、EU拡大は政治的、経済的失敗に終わるとの懸念を持っていた。拡大1年後のEUは、確かに政治的、経済的問題も経験しているが、多くのポジティブなトレンドも見られる。
 
 明らかな経済的恩恵としては、2004年の新規加盟国10カ国の平均経済成長率が、2003年の3.7%を上回る5%を記録したことにみられる。2005年の経済成長率も約5%と予測されおり、EU既存15カ国の倍以上の成長率である。国別に見ると、2004年のラトビアの経済成長率が8.5%で最も高い。一方、EU平均は2.4%である。他の高成長国は、リトアニア(6.7%)、エストニア(6.2%)、スロバキア(5.5%)、ポーランド(5.3%)である。2005年、2006年も、引き続き高成長が予測されている。1
 
 2004年には、新規加盟10カ国に対し、13億ユーロ以上のEU構造基金、及び補助金が給付された。このように新規加盟国は全てEUの恩恵享受国であり、EU予算への32億ユーロの支出に対し、給付金は60億ユーロに上る。即ち28億ユーロの恩恵を蒙っていることになる。EUからの給付金は、インフラ整備、研究、事業振興、観光、環境保護、トレーニング、技術開発、民主化促進等の分野に投資された。
 
 新規加盟国との貿易の大幅拡大等、新規加盟国だけではなく、既存国にもEU拡大の恩恵はある。もっとも、正式な拡大以前、1993年から2003年の10年間に新規加盟国向けのユーロ圏からの輸出は140%上昇しており、新規加盟国の経済と生活水準の改善に寄与していた。
 
 新規加盟国向けの外国からの直接投資(FDI)に関しては、EU既存15カ国の企業が最大の投資元である。例えばオーストリアは、対スロベニア、ルーマニア、ブルガリアへの最大の投資国であり、また対ハンガリー、スロバキア、チェコヘの第3位の投資国である。2004年には、EU既存15カ国による新規10カ国向けの投資総額は138億ユーロに上り、2003年の70億ユーロから大幅に増加した。なお、近年で投資額が最も大きかったのは、拡大以前の2001年の172億ユーロである。それでもこの額は、EU既存15カ国による2004年対内直接投資額1,560億ユーロに比較するとごく僅かに過ぎない。
 
 今回のEU拡大は、EU既存15カ国の国内総生産(GDP)を今後10年間で0.7%押し上げる効果があると予測されている。
 


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