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こども読書推進賞 選考委員会委員長挨拶
 
 「こども読書推進賞」選考委員長といたしまして選考についてご挨拶と報告をいたし、あわせていささかの所感をのべさせていただきます。
 まずご報告ですが、平成17年度のこども読書推進賞は252件の候補の中から3件を選びました。また本年度は、受賞した3件に次いで優れた活動をされている7件の候補に、こども読書推進賞の奨励賞を差し上げることにいたしました。
 今回受賞される3団体は、何れも子どもの読書推進の大変ユニークな活動が高く評価されました。まず、「国際児童文庫協会」は、子ども達が自国の文化と居住国の文化の双方をそれぞれの言語を通じてバランスよく身につけ、真の国際人になるお手伝いをするという活動を長年続けてこられました。また、「紫波町ほん太ネット」は、公立図書館も無く利用できる本の数が大変限られている地域において、町内の小中学校の蔵書をデータベース化してインターネットで繋げ、利用可能な図書の数を一挙に増大させると共に、そのシステムの維持に努めてこられました。そして、「こころにミルク編集部」は、子ども達やその周囲の方々が子どもの読書に適した優れた本を選ぶ際の手引きとして、工夫をこらしたガイドブックを定期的に発行・配布され、子ども達の読書の質の向上に貢献しておられます。こうした三者三様にユニークで、優れた活動をなさっているグループを今回表彰出来ますことは、選考に携わる者にとりまして大変喜ばしいことでございます。
 これまで3回のこども読書推進賞の選考の際に私ども委員が等しく感じておりましたことは、推薦を頂いた200件を超える候補の中から僅か3件を選ぶことの難しさでございます。それは、候補となった学校、団体、個人の殆どが、大変熱心に実施しておられる様々な読書推進活動の内容が比較的似通っているものが多いように感じられたためです。その中で、頭一つ抜きんでた、特徴のある活動をなさってきた受賞者3件を選び、残りの200件以上の候補には、今回は残念ながら選に洩れましたと申し上げなければなりませんでした。しかし選に洩れた候補の中にも大変優秀な候補が数多くみられます。そこで今年度は、受賞される3件に次いで優れた活動をしておられる候補7件を選び、こども読書推進賞の奨励賞を差し上げることにいたしました。7件の内訳は、小学校が2件、中学校が2件、個人が3件で、いずれも素晴らしい活動をなさっておられます。
 この賞の応募者はいずれも熱心に読書推進を試みておられ、それぞれに成果をあげておられます。しかし、最近私は一見定着したかに見える読書推進の在り方を今一度、検証しなおす時期がそろそろきているのではないか、と強く感じるようになりました。
 十月末の新聞報道によれば、近年絵本の読み聞かせ、朝の十分間読書、その他、さまざまな読書推進方法が50%近く普及しているということです。それは、まことに頼もしいことではありますが、その実態を知ると、実は憂うべき問題があることに気づきます。私は過去一年半ほど、各地からの要請で、話をさせていただき、現場で読書推進を実行しておられる方々から、その嘆かわしい現実の状況を伺う機会を得ました。時間が限られていますので、多くの例を紹介できませんが、例えば朝の読書では、好きなものを沢山読むことが奨励されているものの、現実には子どもが本当に心の栄養になるような本の選択を自ら行うことの困難があり、ただ時間つぶしに本の挿絵のみを眺めている、とか、また絵本の段階を卒業しても、テレビ時代に生きている子どもたちは、絵の魅力から抜け出せず、文字のみで作られている作品の世界に入り込めず、読みやすいというだけで、毒にも薬にもならない挿絵入りの本を大量に読むなど。一方大人たちが、先生方、図書館司書などの専門家を含めて、子どもにぜひ読んでもらいたい本についての知識を欠いているために、図書の購入や子どもに適切な選択の方法を教えることが不可能であること、またなによりも、家庭で親たちが読書している姿を子ども達が見ていないなど、数え切れないほどの問題があるようでございます。こういう状況をしっかり認識、検証し、問題をどのように克服できるかを改めて考え直すことが、今後の子ども読書の推進運動にとってまことに大きな課題であろうと痛感しております。
 それだけにこれまでの受賞者の功績が広く全国に知られ、より効果的な読書推進に役立つことを願ってやみません。これをもちましてご挨拶とご報告とさせて頂きます。
 
2005年11月16日
猪熊葉子
 
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