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大規模溶接シミュレーション手法の開発
正員 西川弘泰*  正員 芹澤 久**
正員 村川英一**
 
* 川崎重工業(株)
** 大阪大学接合科学研究所
原稿受理 平成17年10月13日
 
Development of Large-scaled FEM for Analysis of Mechanical Problems in Welding
 
by Hiroyasu Nishikawa, Member
Hisashi Serizawa, Member
Hidekazu Murakawa, Member
 
Summary
 Finite element method is a powerful tool for predicting welding distortion. However, the mechanical phenomena in welding are strong non-linear transient problems and thermal-elastic-plastic FE analysis requires very long computational times. To overcome this problem, an interactive substructure method is developed as a method to reduce the computational time in three-dimensional analysis. In this paper, by comparing with commercial software, the calculation accuracy and speed of this method is discussed. In order to confirm calculation efficiency for a large scale problem, calculation of the model with 670,000 degree of freedoms is performed. Further, calculation of the rotational distortion in FSW is performed and its applicability for practical problems is demonstrated.
 
1. 緒言
 熟練者不足を補い、人的誤差によるばらつき、試行錯誤による非効率性などを最小にし、科学的根拠に基づく工作・検査技術を確立することを目的として、近年、数値シミュレーション技術の工作加工分野への適用化研究が盛んに行われている。工作加工分野の中でも、プレス成形や鋳造等のシミュレーション技術は実用の域に達しているが、溶接におけるシミュレーションは未だ広く普及するに至っていない。この理由としては、溶接現象が強非線形の過渡問題であるため、膨大な計算時間を要する点が考えられる。
 溶接シミュレーションを高速化する研究も多数行われており、全体のソリッドモデルの中に溶接熱源近傍を表現するリファインメッシュというソリッド要素を埋め込み、そのリファインメッシュを動かすアダプティブメッシュ法1)や、全体構造のメッシュに溶接熱源近傍のメッシュを埋め込むコンポジットメッシュ法2)、全体構造から溶接部を再区分して、溶接熱源の移動とともに再分割する動的サブストラクチャー法3)などが報告されている。しかし、これらの方法でもまだ実用的な計算時間で溶接の力学現象を計算することは実現できていない。
 そこで、著者らは、生産技術者の問題解決ツールとしての適用を目的として、溶接の力学的現象の特徴に着目した高効率かつ高精度な大規模溶接シミュレーション手法の開発を行った4),5),6)。本報では、開発した手法の計算精度の検証と大規模問題の例題計算を行い、さらに、実際の溶接問題に適用してその実機適用性を検証した。
 
2. 反復サブストラクチャー法
 溶接シミュレーションを高速化するために、溶接の力学的現象に注目して、反復サブストラクチャー法(Iterative Substructure Method: 以下ISMと称す)を開発した4),5),6)。以下にISMの概要を述べる。
 溶接問題の最も大きな特徴は、熱弾塑性挙動に起因する強非線形性状態となる領域は、溶接トーチ周辺の狭い範囲に限られており、大部分を占める他の領域は弾性もしくは弱非線形状態であるという点である。第二の特徴は、強非線形領域が溶接トーチと伴に移動するという点である。
 通常のFEM解析では、モデルの一部だけが非線形挙動する場合でも、全体を非線形問題として解く必要があり、大規模な非線形問題を時刻歴にしたがって解くことになる。そこで、全体領域を弱非線形領域Aと強非線形領域Bに分離する方法を考案した。このとき、B領域が溶接トーチと伴に移動するので、A領域の剛性行列が時間とともに変化する。これを回避するために、Fig. 1に示すように、(A+B)領域の非線形問題を、(A'+B')領域の弱非線形問題と、B領域の強非線形問題の組み合わせとして解く方法を採用した。なお、(A'+B')領域は解析対象全体を意味するが、増分計算における剛性としては過去のステップの剛性を用いても計算可能である。この方法では、(A'+B')-(B)領域内とB領域内での平衡条件を満足させると同時に、(A'+B')-(B)領域とB領域の境界Γでは変位は常に連続するように定義し、境界における反力の釣合を反復計算により満足させる。
 
Fig. 1 Iterative substructure method.
 
 具体的な計算の流れは以下のようになる。
(a)(A'+B')領域を弱非線形問題として解き、境界Γの変位を求める。
(b)境界条件としてステップ(a)で求めた境界Γの変位を受けたB領域を強非線形問題として解く。
(c){(A'+B')-(B')}領域とB領域間の不均衡反力を計算する。
(d)上記の不均衡反力を(A'+B')領域に与えて、境界Γの変位の修正量を計算する。
(e)収束に到達するまで、(a)から(d)のステップを繰り返す。
 なお、この収束計算の間は(A'+B')領域の剛性は更新されないので、強非線形問題であるB領域に対応する小規模な連立方程式のみを繰り返し解けばよいことになる。さらに、温度ステップが進みB領域が移動しても、(A'+B')領域の剛性が大幅に変化しない間は同じ剛性を用いることが出来るので、大規模な連立方程式を解く回数を減らすことができ、全体としての計算時間が飛躍的に低減できる。
 また、B領域に含まれる要素の判定条件は、要素内の温度差が50℃以上の要素、要素温度が300℃以上の要素、または要素温度が200℃以上で塑性負荷中の要素としてプログラム内部で自動判定している。


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