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4.4 表面き裂のアスペクト比の設定
 2.2で述べたように,多点から発生した表面き裂の成長・合体挙動の取り扱いのために等価表面き裂の概念を導入し,このアスペクト比変化を与える。なお,健全部から発生する表面き裂は,最初の結晶粒界に達するまでは半円状に進展すると仮定し,この結晶粒界に達した時点のき裂は,平均結晶粒径を半径とする半円であると設定する3)4)。文献3)4)に示されている手法は,板厚10mmの片側切欠試験片の切欠底から発生・成長する多点表面き裂及び角回し溶接継手の回し止端(表面き裂発生領域の溶接線長は,17mm,19mm,22mmの3種類)から発生・成長する多点表面き裂に対する観察結果より導出されたものである。本研究の解析対象である面内ガセット継手では,表面き裂の発生・成長箇所は長さ9mm(板厚)の溶接線部分であることを考慮すれば,過去に導出したアスペクト比変化推定式を適用しても問題ないと考えられる。
 上記手法に従いアスペクト比変化を求めた結果をFig. 9に示す。この手法を用いるためには,平均結晶粒径を与える必要があるため,結晶粒径を計測し,その平均値である30μmを使用した。き裂深さが0.4mm付近でアスベクト比が急変しているのは,この段階で表面き裂の表面長さが板厚に達したこと(表面き裂の表面でのき裂全長が板厚と等しくなった時点)を意味する。
 
Fig. 9  Supposed change of the aspect ratio of a equivalent fatigue surface crack
 
4.5 き裂長さと応力拡大係数の関係
 き裂伝播経路に沿う応力分布と疲労表面き裂のアスペクト比変化から,き裂深さと応力拡大係数の関係を求める。
 任意応力分布を受ける切欠底に存在する表面き裂の応力拡大係数の計算は,著者らが提案している近似法3)4)を用いた。また,き裂が成長して二次元貫通き裂になった時の応力拡大係数は,疲労き裂が溶接止端の片側から発生すると考えて,片側貫通き裂のき裂面に集中荷重が作用する場合の応力拡大係数13)を応力分布について積分することで与えた。
 Fig. 10は,以上の手順に従って計算したき裂長と応力拡大係数の関係である。Fig. 10の実線は単位外力振幅に対するものであり,破線は残留応力分布に対するものである。なお,表面き裂の段階では,横軸はき裂深さに相当する。
 それぞれの図中にはき裂長さ(深さ)が小さい場合を拡大して示している。これらの図中で応力拡大係数が不連続に変化している部分が,表面き裂から板厚貫通き裂に変化した部分(き裂深さ0.4mm付近)に相当する。
 
Fig. 10  Relationship between crack length and stress intensity factor
 
4.6 等価分布応力
 2.3で述べたように,疲労表面き裂のき裂開閉口現象を定量的に扱ってき裂成長シミュレーションするのは現時点で不可能であるため,等価分布応力を介して表面き裂の貫通き裂への置き換えを行っている。Fig. 10に示したき裂長さと応力拡大係数の関係を用いて計算された等価分布応力をFig. 11に示す。Fig. 11の実線は単位外力振幅に対するものであり,破線は残留応力分布に対するものである。
 
Fig. 11 Equivalent distributed stresses


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