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4. [制御仕様2]を満足する制御系の設計
 ここで、時定数T(>0)の一次遅れ系を2個直列に連結した二次遅れ系1/(1+Ts2を考える。この系の特性方程式は、s2+2s/T+1/T2=0である。この系のステップ応答が定常値の63.2%に達する時間は27よりやや大きくなるが、約2Tと考えてよく、オーバーシュートも定常位置偏差も生じない。2Tを相当時定数と呼ぶことにし、Tc=2Tと置くと特性方程式は次式のように書き改められる。
 
 
 (8)式から得られる特性方程式と(9)式が等価であると仮定すると、TcとKγ及びTcとKφの関係は次式のような放物曲線として表される。
 
 
 また、KγとKφの関係も次式のように放物曲線として表され、その頂点の座標は(a21/(a31b21),0)である。
 
 
 (8)式から得られる特性方程式と(9)式を等価とみなすことは、制御システムの極を根軌跡の分離点に配置することと同義である。従って、制御仕様として応答速度(相当時定数)が与えられた時、[制御仕様2]を満足するためのフィードバックゲインは分離点において求められ、その時、Kβ、Kγ及びKφは(7)式及び(10)式として与えられる。
 船速U0時に[制御仕様2]を満足するように設計されたフィードバックゲインは、船速が変化すれば船の運動特性が変化するので、もはや[制御仕様2]を満足できなくなるが、(10)式を構成する運動方程式の係数が船速に比例する値であることから、任意の船速において、任意の応答速度を得ることのできる[制御仕様2]を満足するゲインを求めることができる。
 例えば、船速U0、相当時定数Tcにおける[制御仕様2]を満足するゲインKβ、Kγ、Kφを基準とした時、船速をU0からU0mへ、相当時定数をTcからTcnへ変更する時の[制御仕様2]を満足するゲインは次式によって求められる。
 
 
 ただし、U0m/U0=m、Tcn/Tc=n、A|U=U0は船速U0時にa21/(a31b21)で与えられる定数である。
 (12)式を用いれば、任意の船速において、[制御仕様2]満足するフィードバックゲインが連続的に得られることになる。言い換えれば、時不変システムに対して設計されたゲインが時変システムに対しても応用可能であることを示している。
 以上の議論は、流体力のモデル化にMMGモデルを採用し、システムが安定な最小位相推移系であるとして解析的に進めてきたので、船型が変わっても、制御対象が最小位相推移系であれば、上述の議論は一般性を失わない。
 
5. 計算機シミュレーションによる検証
5.1 [制御仕様2]を満足するゲイン
 一例として、計算対象船に船長175mのSR108コンテナー船4)を採用し、その計算機シミュレーション結果を示す。Table 1にその主要目を示す。
 Fig. 4に、船速6、12、24ノット時の[制御仕様2]を満足する相当時定数TcとゲインKγの関係を示し、Fig. 5に、TcとゲインKφの関係を示す。
 
Table 1  Principal particulars of the SR108 container ship
Items
Displacement W 24,742 ton
Length Lpp 175.00 m
Breadth B 25.40 m
Depth D 15.40 m
Draught d 9.50 m
Block coefficient CB 0.572
 
Fig. 4 Relation between Tc and Kγ
 
Fig. 5 Relation between Tc and Kφ
 
 [制御仕様2]を満足するKγは、Tcが大きくなると負の値を取るようになり、Fig. 3に示される3変数をフィードバックするシステムは、ネガティブフィードバックループとポジティブフィードバックループが混在するシステムとなることを示している。
 Fig. 6にKγとKφの関係を示す。
 
Fig. 6 Relation between Kγ and Kφ
 
 Tcが大きくなるにつれてKγとKφは小さくなり、Tcが+∞の時、放物曲線の頂点において、(Kγ,Kφ)=(a21/(a31b21),0)の値を取る。因みに、船速12ノット時の頂点の座標は(-45.9027,0)である。
 ただし、船速12ノット時の(4)式の係数は、
a11=0.034166、a12=-0.009979、b11=0.006396、
a21=0.100604、a22=-0.124170、b21=0.062129、
a31=-0.035276、
である。
 Table 2に、船速6、12、24ノット時において、相当時定数が10、20、40、80、160秒で与えられた場合、それぞれの組合わせにおける[制御仕様2]を満足するゲインの値を示す。
 (8)式と(9)式の特性方程式を等価とみなすことが、制御システムの極を分離点に配置することと同義であることを示す一例をFig. 7に示す。船速U0=12ノット、相当時定数Tc=40秒、Kβ=1.9986、Kφ=1.1407の時、Kγ(<0)を0から-∞に変化させた時の根軌跡である。負の実軸上の2つの極は分離点で出会い、その直後分離して共役複素根となる。更に、原点の零点を迂回し正の実軸上で再び出会う。その後、2つの特性根は正の実軸上を左右に別れ、1つは原点にある零点へ漸近し、もう1つは実軸上を+∞へ発散する。負の実軸上の分離点の位置は(1)式からs=-2/Tc=-0.05、その点におけるゲインはKγ=-0.2754と計算される。相殺される極と零点はs=-0.0469の位置にある。
 
Table 2  Feedback gain values which satisfy the control specifications (SR108 container ship)
U0 (knot) 6 12 24
Tc (sec) Kβ Kγ Kψ Kβ Kγ Kψ Kβ Kγ Kψ
10 1.9986 638.2322 73.0038 1.9986 136.6067 18.2509 1.9986 22.6760 4.5627
20 273.2134 18.2509 45.3520 4.5627 -0.1377 1.1407
40 90.7040 4.5627 -0.2754 1.1407 -11.5445 0.2852
80 -0.5507 1.1407 -23.0890 0.2852 -17.2479 0.0713
160 1.9986 -46.1781 0.2852 1.9986 -34.4959 0.0713 1.9986 -20.0996 0.0178
 
Fig. 7  Root loci for Kγ (<0)(U0=12knots, Tc=40 sec, Kφ=1.1407)


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