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3.4 パラメトリック横揺れに及ぼすビルジキールの影響
 本実験で計測されたパラメトリック横揺れが、横波による時間的な復原力変動によって引き起こされたものであるとすると、その発生は波浪中復原力変動振幅と共に、横揺れ減衰力にも影響を受ける。そこで、本実験では横揺れ減衰力の大きさを変化させた時の実験を実施し、パラメトリック横揺れ発生の有無およびその振幅を調査した。横揺れ減衰力の大きさを変化させる方法としては、ビルジキールの長さ(船体後方の短いビルジキールのみ、船体前方の長いビルジキールのみ、両方のビルジキール)を変化させた。
 Fig. 14に横揺れ振幅の結果を示す。まず3種類のビルジキールをそれぞれ付けた状態での横揺れ同調時(Theave/Tn roll=1)の横揺れ振幅を、裸殻での結果と比較すると、全ビルジキール、長い方のビルジキールのみ、短い方のビルジキールのみを付けた場合で、それぞれ約50%, 35%, 22%程度横揺れ振幅が減少しており、横揺れ減衰力はそれぞれの状態で裸殻状態に比べ約2倍、1.5倍、1.3倍に増加しているものと考えられる。
 次に、パラメトリック横揺れの発生の有無を見ると、Theave/Tn rollが0.4付近の横揺れは減衰力の増加とともに小さくなり、減衰力が裸殻状態に比べ約1.5倍となる長いビルジキールのみを取り付けた状態ではパラメトリック横揺れは発生しなくなる結果が得られた。
 
Fig. 14  Measured rolling amplitudes for hulls with different bilge keel length in beam waves of 0.04m wave height.
 
4. 横波中の復原力変動
 周知のとおりパラメトリック横揺れは、波浪によって復原力が時間的に変動することが原因で発生する。そこで本研究で用いた巨大客船の横波中での復原力変動の計算を行った。
 Fig. 15に、パラメトリック横揺れが発生した波浪条件下における横復原力変動の計算結果を示す。同計算においては、上下揺れおよび縦揺れは、波長が船幅に比べて十分に大きいので(λ/B=3.14)、準静的に釣り合っていると仮定し、フルードクリロフの仮定に基づいて各傾斜角に対する復原力を計算している。同図から、船体が入射波の山に位置する場合と谷に位置する場合とで、復原力が大きく変動していることがわかる。またFig. 16には、同横波中における水線面の変動を図示した。この図から、Fig. 15に示す横波中の復原力変動が、平らな船尾形状と、大きな船首フレアによるものであることが理解できる。
 以上の結果からも、本実験で計測された大振幅横揺れは、船体と入射波との相対位置により、横揺れ固有周期の半分の周期で時々刻々と復原力が変動することによるパラメトリック横揺れであることの確証が得られたものと考えられる。この変動復原力係数を用いたパラメトリック横揺れのシミュレーション結果については、次報にて報告をする。
 
Fig. 15  Variation of GZ-curve in beam waves at the condition when large parametric roll occurs in the experiment. (Hw=0.04m and Tw=0.76sec).
 
Fig. 16  Variation of water plane area in beam waves at the condition when large parametric roll occurs in the experiment. (Hw=0.04m and Tw=0.76sec).
 
5. 結言
 巨大客船を対象とした横波中の船体運動計測実験を行い、以下の結論を得た。
1. バトックフロー船型を採用して、浅く平らな船尾船底を有し、かつ大きな船首フレアを持つ最近の巨大客船のような船型においては、十分な横揺れ減衰力がなければ、横揺れ固有周期の半分より若干短い周期の入射波において、同調時の横揺れよりも大きなパラメトリック横揺れが発生する可能性がある。
2. このパラメトリック横揺れが、横揺れ固有周期の半分よりも若干短い入射波周期で発生するのは、横漂流による出会い周期の変化と、復原力の非線形性によるものである。
3. このパラメトリック横揺れは、本研究の供試船では、実船で7〜10秒程度に対応する比較的広い周期で発生し、ビルジキールがない場合には4mの波高で最大27度にまで達する。
4. ビルジキールによって横揺れ減衰力を増加させることにより、パラメトリック横揺れの振幅は減少し、さらに完全に発生しなくすることができる。本研究の供試船に計画された寸法のビルジキールでは、パラメトリック横揺れは発生しない。
 
 今後、数値計算によってパラメトリック横揺れのシミュレーションを行って、その結果を実験値と比較し、さらにそれらの結果を利用して横波中での復原力変動量とパラメトリック横揺れを誘起させないために必要な横揺れ減衰力の大きさとの関係を明らかにする計画である。
 
謝辞
 本研究の遂行にあたって、大阪府立大学大学院学生の木本亮氏、中林恵美子氏、金子武史氏に実験にあたっての協力を得たことを記し、心から感謝する次第である。
 
参考文献
1) Yoshiho Ikeda, Seiichi Shimoda, Yuji Takeuchi: Experimental Studies on Transient Motion and Time to Sink of a Damaged Large Passenger Ship, Proc. of the 8th Int. Conf. On the Stability of Ships and Ocean Vehicles, 2003.9., pp.243-252
2)元良誠三、山越康行:船舶の安全性と非損傷時復原性規則の動向、運動性能研究委員会第3回シンポジウム(日本造船学会)、昭和61年10月、pp.23-60.
3)菅信、山越康行:船舶の横波中の転覆、運動性能研究委員会・第3回シンポジウム、昭和61年10月、pp.95-124
4)田才福造:Beam Seaにおける船体運動, 西部造船会会報, No.30, 1965,pp.83-103
5)定兼広行:大浪上の横揺れについて, 関西造船協会誌, No.169, 1978
6) W. Blocki: Ship Safety in Connection with Parametric Resonance of the Roll, International Shipbuilding Progress, 27-306, 1980
7)黒田貴子、池田良穂、片山徹、重廣律男:船舶の大振幅運動時非線形特性に関する研究(第1報)、日本造船学会論文集、第191号、平成14年6月、pp.97-103.
8)黒田貴子、池渕哲朗、池田良穂:船舶の大振幅運動時非線形特性に関する研究(第2報)、日本造船学会論文集、第192号、平成14年12月、pp.237-246.


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