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5. 推定精度の評価
 本推定法(Present)及び既に提案されているIsherwood2)、山野ら3)、米田ら4)、著者らの前推定法5)6)(Previous)により計算された結果と実験値との比較を行い、推定精度を検証した。Ro-Ro旅客船の結果を例にとりFig. 14に示す。グラフの上段には対象船の主要目、側面形状を示す。概ね本推定法による結果は、著者らの前推定法と同程度に実験結果とよく一致していることがわかる。
 
Fig. 14  Calculated results compared with experimental results on wind force and moment coefficients for Ro-Ro passenger ship
 
 次に全船を対象として各風圧力係数の実験結果と推定結果との差を標準誤差でFig. 15に示す。図中、CNは10倍した値で示している点に注意する。標準誤差ESTは、全風向角の平均とし前項までの方法と同様に計算する。CXの場合を例にとると次式になる。
 
 
 ただし、CXijは実験値、Xijは推定値である。
 
Fig. 15  Averaged standard errors of wind force and moment coefficients for estimation
 
 CX、CYに関して、本推定法は5つの方法の内で最も平均的に誤差が小さいレベルにあることがわかる。CNでは著者らの前推定法に比べ、本推定法はやや大きな推定誤差を持つ。前推定法は一推定式によりCNを求めていたが、本推定法はCYの推定値と推定モーメントレバーの積となっており誤差が含みやすい。
 さらに詳細に調べるために船種ごとの標準誤差をFig. 16に示す。「Oth」を除く船種に対してCNは著者らの前推定法に比べやや推定精度の劣化が見受けられるが、全般的に他の推定法と比べて本推定法は非常に誤差が小さいレベルにある。
 
Fig. 16  Averaged standard errors of wind force and moment coefficients for estimation on each ship type
 
 各推定法の必要船型パラメータPN、サンプル数nS、推定式を構成する項数NTについて比較し、Table 4に示す。本推定法で利用したサンプル数は最大である。また、推定式の項数については前推定法の半数程度であり、全体的に見ても少ないレベルにある。効率的に有効なパラメータの選定が行われたと言える。
 
Table 4  Specification of estimation methods for wind forces and moments
Present Previous Isherwood Yamano Yoneta
PN 8 9 8 5 6
nS 71 68 49 38 68
NT on CX, CY, CN 32 66 219 36 21
NT on CK 10 30 - - -
PN; Number of parameters to represent ship form
ns; Number of samples
NT; Number of terms of the estimating equations
 
 標準誤差を使った本項での検討は、推定式を求める上で利用した全船から得られた結果である。したがって、本定法の標準誤差が他の方法より少なくなることは妥当な結果であるが、最も多くのサンプルを利用した上での結果であり多種多様な船に対して本推定法は有効であると言える。
 さらに著者らの前推定法に対する本推定法の有効性をタンカー型箱模型の風洞実験結果を使って調査した。Fig. 17に使用した実験模型を示す。ブリッジの高さをH1からH3の3通り、前後位置をP1からP3の3通りに変更させ、風圧力の計測を行った。模型の寸法は、全長0.6m、幅0.09m、H3状態で高さが0.15mである。上方から見て主船体に相当する部分の前後は、先端からLOA/12に渡って角が丸められた楕円形状である。一例として、回頭モーメント係数CNの推定誤差について異なるブリッジの高さ間の結果を平均し、Fig. 18に示す。なお、推定誤差の計算方法は、(27)式に従う。
 
Fig. 17 Geometric form of sample models
 
Fig. 18  Averaged standard errors of yaw moment coefficient for sample models
 
 今回使用した箱模型の本推定法での推定誤差はFig. 16で示された「Tan」の平均誤差に対して大きく異なるものではない。このとき、本推定法ではブリッジの移動影響による推定精度は保証されているが、前推定法ではP3で推定誤差が非常に大きくなっている。解析を行う際のサンプルに無い特異な形状の船型に対して推定を行っていることが主たる原因であるが、本推定法では回頭モーメントを横力とモーメントレバーの積から求めており、より広範な形状の船型に対して精度を劣化させず推定していることがわかる。Fig. 15で本推定法のCNの精度が前推定法よりもやや悪くなっていたが、様々な船型に対して安定な解が得られる点で本推定法の方が有効であると考えられる。
 
6. 結言
 船の安全性や運航経済性を検討する上で重要となる風の影響について、より合理的に、精度良く推定する方法を検討した。その結果として、推定式を構成する要素の物理的意味合いが明確であり、構成要素の検討を個別に行うことが可能な成分分離型モデルにより新しい風圧力推定法を提案した。得られた成果とまとめると以下の通りである。
 
・船体に作用する風圧力は主流抗力、クロスフロー抗力、揚力、誘導抗力により構成されると仮定し、定式化を行った。本方法は、従来著者らが提案した級数表現による風圧力推定法と同程度の精度を有し、船体外観形状から容易に得られる8パラメータからのみから風圧力係数を求めることが可能である、
・本推定法を用いることにより過去に提案された他の風圧力推定法よりも模型実験値に対して概ね精度良く推定することができる。
・著者らの前推定法に比べより広範な船型に対して精度良く風圧力の推定を行うことが可能である。
 
謝辞
 本論文及び付属書で示された風圧力実験データの計測に際し、海上技術安全研究所輸送高度化研究領域二村正主任研究員に御協力頂いた。ここに深く感謝致します。
 
参考文献
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3)山野惟夫、斉藤泰夫:船体に働く風圧力の一推定法、関西造船協会誌第228号、1997、pp.91-100(1971年に講演)
4)米田国三郎、蛇沼俊二、烏野慶一:船舶風圧力データの力学モデルによる解析、日本航海学会論文集第83号、1990、pp.185-192、及び、船舶風圧力データの力学モデルによる解析−II、同第86号、1992、pp.169-177
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8)梅田直哉、山越康行:低速操船時の前後非対称な船体に働く流体力について、関西造船協会誌第211号、1989、pp127-137
9)烏野慶一、米田国三郎、蛇沼俊二:低速時における主船体操縦流体力の新しい数学モデルについて−斜航時の場合−、関西造船協会誌第209号、1988、pp111-122
10)鳥野慶一、米田国三郎:ある漁船模型の風圧力とその解析モデルについて、関西造船協会誌第212号、1989、pp 133- 143
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