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高速三胴船の性能に及ぼすアウトリガー配置の影響
(第3報:操縦性)
正員 安川宏紀*  正員 平田法隆*
正員 小瀬邦治*
 
* 広島大学大学院工学研究科
原稿受理 平成17年6月3日
 
Influence of Outrigger Position on the Performaces of a High Speed Trimaran
(3rd Report: Maneuverability)
 
by Hironori Yasukawa, Member
Noritaka Hirata, Member
Kuniji Kose, Member
 
Summary
 Influence of outrigger position of a high speed trimaran on the maneuverability was investigated. The trimaran is composed of the center hull with L/B = 8.0 and B/T = 3.57 where L, B and T denote the length, breadth and draft respectively, and the outriggers with l/L = 0.375 where l denotes the outrigger length. The captive model tests were conducted at Fn = 0.35 in towing tank of Hiroshima University to capture the hydrodynamic force characteristics of the trimaran with 3 different outrigger positions. Baesd on the force characteristics, maneuvering simulations were carried out. We found that with shifting the outrigger position rearward, the turning circle becomes large and the course-keeping ability is improved. The change comes from increase of lateral resistance at the stern part.
 
1. 緒言
 先に,高速三胴船の抵抗性能と曳き波性能ならびに正面向波中での波浪動揺に及ぼすアウトリガー配置の影響について報告した1)2)。本報では,三胴船の操縦性に及ぼすアウトリガー配置の影響について考える。
 三胴船の操縦性に関する研究例として,Shigehiro等による小型三胴船の操縦性に関する研究3),寺尾による三胴型ボートの操縦性に関する研究4)がある。しかしこれらの研究で対象としている船は,本報で対象とする高速三胴船とは船型的に大きく異なっている。Lee等は,艦艇を対象とした三胴船模型を用いて,PMM試験によって操縦流体力を計測し,操縦性能について議論している5)。これによると,三胴船は針路安定性に優れていることが示されている。しかし,アウトリガー配置によって,操縦流体力微係数がどのように変化し,その結果操縦運動がどのように変化するのかを示した例はないようである。
 本論文では,L/B=8.0, B/T=3.57(ただしL,B,Tは三胴船主船体部の長さ,幅,喫水)と比較的幅広な主船体部を持つ三胴船の模型船を用いて,アウトリガー配置を3通り変更させて斜航試験やCMT(Circular Motion Test)を行い,主船体に関する操縦流体力特性を把握した。その特性を用いて,操縦運動シミュレーション計算を行い,操縦運動に及ぼすアウトリガー配置の影響について調査検討した。
 
2. 操縦運動方程式
 Fig. 1に示すような船尾に2基のWater jet推進器を備えた三胴船を考える。Water jetノズルのバケット角δを動かすことにより,Water jetによる推力TWの向きを変えて操船しているものとする。
 Fig. 1に本論文で使用する座標系を示す。まず空間に固定された座標系O-X0Y0Z0を考える。X0-Y0平面を静水面に一致させ,Z0軸を鉛直下方にとる。X0軸に対し方位ψを定義する。船の重心位置Gに原点を一致させ,船の前方にx軸方向を,船体横方向にy軸をとり,空間に対し鉛直下向きにz軸をとる。図中,u,v,rは船の前進方向速度成分,横方向速度成分,回頭角速度を表す。βは船体斜航角,Uは船速でありと定義される。
 
Fig. 1 Coordinate systems
 
 次に,シミュレーション計算の基礎となる運動方程式ならびに流体力の数学モデルについて述べる。船体固定系で定義される船の操縦運動方程式は次のように表される。
 
 
 式中,m、Izzは船の質量と慣性モーメント,mx,my,Jzzは付加質量ならびに付加慣性モーメントである。この(1)式を数値的に解くことにより,操縦運動を求めることができる。
 運動方程式の外力成分X,Y,Nの表示にあたり,船体ミドシップ位置における流体力成分を用い,次のように表す。
 
 
 ここで,XHは船体自身に作用する前後方向の流体力,YH,NHは船体自身に作用する横力と回頭モーメント,TWiはi番目のWater Jetの推力,(xTi,yTi)はミドシップを原点にとったときのi番目のWater Jetの位置を表す。xGも同様にミドシップを原点にとったときの重心の前後位置座標である。
 XH,YH,NHは次のように表される。
 
 
 式中,R0は直進時の船体抵抗,ρは水の密度,Lは船長,Tは喫水である。X'H,Y'H,N'Hが流体力係数に相当し,船の斜航角βmと無次元回頭角速度r'(=rL/U)の関数になる。なお,βmはミドシップ位置における斜航角であり,次式で定義される。
 
 
 X'H,Y'H,N'Hは,次のような微係数表示で表す。
 
 
 X'ββ,Y'β,Y'r,N'β,N'r等は操縦流体力微係数と呼ばれる。X'0はITTC1957の摩擦抵抗係数の式と剰余抵抗係数の組合せで計算する1)
 
3. 水槽試験の概要
 水槽試験は,広島大学工学部船型試験水槽で実施された。
 
3.1 供試模型船
 Table 1,2に水槽試験で使用した三同模型船の主船体およびアウトリガーの主要目を示す。要目は,主船体ならびにアウトリガーがそれぞれ単独の船とした場合の値である。従って,三胴船としての船の排水容積は主船体のそれとアウトリガーのそれの2倍の和となる。なお,主船体の方形係数は約0.42である。
 Fig. 2に主船体とアウトリガーのbody planを示す。S.S.1毎のフレームラインを図示している。垂線間長ベースのフルード数(Fn)で0.65を超えるような高速域を対象としているため,ハードチャイン船型とした。
 
Table 1 Principal dimensions of center hull
length (Lpp/L) 2.00m
max. breadth (B) 0.25m
draft (T) 0.07m
wetted surface area (S) 0.452m2
volume (∇m) 0.0130m3
L/B 8.00
B/T 3.57
 
Table 2 Principal dimensions of outrigger
length (l) 0.75m
max. breadth (Bo) 0.05m
draft (To) 0.031m
wetted surface area (So) 0.0487m2
volume (∇o) 0.00043m3
l/L 0.375
l/Bo 15.00
Bo/To 1.61
 
Fig. 2 Body plan of center hull and outriggers
 
3.2 アウトリガー位置
 アウトリガーの船幅方向位置はY/B=1.0とした。そのときの三胴船模型の最大幅は0.80mとなる。Yは主船体サイドからアウトリガーセンターまでの距離を意味する。船長方向には,X/Lpp=0.5,0.65,0.8125の3ヶ所変更した。Xは主船体FPからアウトリガーミッドシップまでの距離を意味する。本論文では,区別のため,
 
・X/Lpp=0.5を三胴船前(Tri-F)
・X/Lpp=0.65を三胴船中(Tri-M)
・X/Lpp=0.8125を三胴船後(Tri-A)
 
と記載する(Fig. 3参照)。それらは,前報1)における(2)(5)(8)を意味する。Tri-Fでは主船体とアウトリガーのミドシッブ位置が一致する。また,Tri-Aでは,主船体とアウトリガー後端立置が一致する。さらに比較のため,三胴船の主船体部だけを取り出して単胴船とみなした場合(単に,単胴船もしくはMonoと記載)の試験を実施した。
 
Fig. 3 Outrigger arrangements
 
3.3 計測と解析
 Fn=0.35において斜航試験とCMT(Circular Motion Test)を実施した。計測にあたり,船体のトリム変化は自由とし,船体の上下運動(船体沈下や浮上)と横傾斜(ヒール)は固定とした。
 試験では,船体ミドシップに設置した3分力で,船体に作用する前後力(XH),横力(YH),回頭モーメント(NH)を計測した。それらは,次式に従って無次元表示した。
 
 
 これらは,(4)式で表される微係数表示に従い,最小自乗法を用いて,操縦流体力微係数を求めた。


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