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4.3 船体断面曲線群の曲率変化に着目した非平滑度の最小化
 前節のフェアリング後の船型に対してさらに3.2.3節に示した方法でフェアリングを行った結果を示す.
4.3.1 計算条件
 このフェアリング方法では,まず各フレームラインの変曲点数を指定した値まで減少させる.Fig. 4に示したように対象船型には6本のフレームラインが存在する.それぞれのフレームラインに許容する変曲点数は,最も船尾側より2,2,1,0,0,0個とした.3.2.3節に示した方法でフレームラインの変曲点数を減少させた後,(6)式の非平滑度関数の最小化を行った.非平滑度関数は全フレームラインを対象に算定し,設計変数は全オフセット点のy座標とした.オフセット点の船幅方向への移動量については初期状態の値から船体半幅に対して±0.17%以内とする制約条件を課している.なお,(6)式中の曲率の2階微分値の算定は差分近似で評価した.
4.3.2 計算結果
 Fig. 11にフェアリング前後でのフレームラインのポキュパインの比較を示す.前節のフェアリングで生じた,もっとも船尾に近いフレームラインのポキュパインの大きな凹凸は改善され,その他のフレームラインについても滑らかなポキュパイン形状が得られている.非平滑度関数の値は初期値を1として0.620まで減少した.Fig. 4の初期状態の船型のポキュパインと比較してみるとその差は歴然としており,初期的なフェアリングとしては満足できる結果が得られたと考える.
 
Fig. 11  Comparison of curvature distribution along frame lines between before and after fairing with the method shown in section 4.3.
 
4.4 フェアリング前後の船型の特徴比較
 フェアリングは船型を平滑化することだけが目的であって,フェアリングによって設計者が意図した船型の特徴を損なってしまっては意味がない.そこで本研究で行ったフェアリングによって船型の特徴が維持されているか検討を行った.Fig. 12に初期船型と4.3節で示したフェアリング後の船型のフレームラインとウォーターラインの比較を示す.これを見るとフレームライン,ウォーターラインともにフェアリング前の船型の傾向が維持され,局所的に平滑でなかった部分だけが修正されたことがわかる.排水量についてもフェアリング後の船型はフェアリング前に比べて0.053%減少しただけであった.
 
Fig. 12  Comparison of frame lines and water lines between initial and faired hull.
 
4.5 フェアリング手法の適用順序の影響
 本研究では3種類の非平滑度関数を用いたフェアリング手法を示したが,その適用順序の違いが結果に与える影響について考察する.4.1節で示したフェアリングと4.2節で示したものは元々適用する場所が異なるため,その適用順序によって結果に違いは現れない.そこで,計算条件は同一として,4.3節,4.1節,4.2節の方法の順でフェアリングを実施した結果を示す.Fig. 13はフレームライン上のポキュパイン分布である.Fig. 11で示した最終フェアリング結果と比較しているが,これを見ると本節で示した順序でフェアリングを行うとフレームラインのポキュパインの細かなうねり除去されておらず,変曲点数も指定した値にはなっていない.変曲点数が指定した値にならないのは,許容するオフセット点の移動量では,それが実現できなかったこと意味する.このことからも,4.3節で示したフェアリングはフレームラインの最終調節を行うことに適しており,最後に適用するのが適切であると考えられる.
 
Fig. 13  Comparison of curvature distribution along frame lines between after fairing with method in section 4.3 and after fairing with method in section 4.5.
 
5.結言
 本研究は3次元の船舶CAD内で自動的に船体表面の平滑化を行う,いわゆる自動フェアリング手法の構築を目指し,その第一段階として概略フェアリングの手法を示したものである.クーンズパッチを用いた簡易的な船型CADから出力される船体表面の幾何学的特徴を用いて3種類の非平滑度関数を定義し,その最小化によってフェアリングを実施する方法を示した.この非平滑度関数は,曲面のひずみエネルギのような物理的性質は用いていないため,最小化を実施しても初期船形の特徴を損なうことが少なく,なおかつクーンズパッチの複合曲面のように曲率がパッチ間で不連続となる曲面に対してもフェアリングが可能である.定義した3種類の非平滑度関数の最小化によって
1. 船体表面が比較的平坦な部位の局所的な凹凸の除去
2. 曲率変化が激しい部位での平均曲率の不連続性の軽減
3. 最終的なフレームラインの調整
が可能である.
 具体例として,タンカー船型の船尾のフェアリングに本手法を適用し,元の船型の特徴を損なうことなく概ね平滑な船型が得られることを示した.
 実用設計の観点から見れば本研究の結果は十分とは言えないが,概略フェアリングを行う上では有用な手法であると考えられる.今後はより大域的なフェアリングが可能な手法の構築,一般にフェアリングが難しいといわれる船首尾端のフェアリングヘの適用,多様な船種への適用を行っていく予定である.
 
謝辞
 本研究を実施するにあたり,国内造船所において船型設計に従事されている方々から船型フェアリングに関して熱心なご教授を賜りました.またNAPA OY日本事務所の水谷直樹氏ならびに副社長Mr. Ilmo Kuuttiには船型CADに関して多くのご教授を賜りました.ここに厚く御礼申し上げます.
 
参考文献
3) T. Rando and J. A. Roulier: Designing faired parametric surfaces, Computer-Aided Design, Vol. 23, No. 7, pp.492-497, 1991.
4) S. Park and K. Lee: Fairing B-spline surfaces using optimization technique, Proceedings of 6th International Conference on Engineering Computer Graphics and Descriptive Geometry, pp. 209-213, ASEE, 1994.
5)金井崇, 山口泰, 鈴木宏正, 木村文彦:拘束条件下でのBスプライン曲面の平滑化手法, 1996年度精密工学会秋季大会学術講演会論文集.
6)増田宏, 大和裕幸, 古川慈之:船型設計における高品質な曲面生成手法に関する研究, 日本造船学会論文集第187号, pp.309-319, 2000.
7) S. Harries, H. Nowacki: Form parameter approach to the design of fair hull shapes, Proc. of 10th international conference on computer applications in shipbuilding, l999.
8)山口富士夫:コンピュータディスプレイによる図形処理工学, 日刊工業新聞社, 1981.
9)茨木俊秀, 福島雅夫:FORTRAN77最適化プログラミング, 岩波書店, 1991.


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