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4.3 等蓄熱量線図
 4.2では、理科年表に記載の平年値から様々な環境条件を設定して、作業者の蓄熱量を求めたが、実際には日によって環境条件は平年値から異なっている。したがって、その状況に応じて作業者の人体蓄熱量を把握し、様々な対策を講じる必要がある。その人体蓄熱量を把握する方法の一つとして、WBGTと代謝量から人体蓄熱量を推定する等蓄熱量線図を作成した。
 まず、実験や計測で得られたデータなどからWBGTを算出し、それぞれの環境条件における1時間当たりの人体蓄熱量を計算した。この結果に基づき、人体蓄熱量の範囲-0.2〜0.6[MJ/(m2・hour)]を0.1[MJ/(m2・hour)]刻みで環境条件を抽出し、横軸にWBGT、縦軸に代謝量をとってプロットするとFig. 12のようになる。人体蓄熱量が等しくなる点の近似曲線を引くことにより等蓄熱量線図(Fig. 13)を得ている。
 この等蓄熱量線図を用いることにより、様々な状況において人体蓄熱量を容易に把握でき、それらに応じた熱対策を講じることで、日射のある暑熱環境下での作業の労働安全性を確保できる。
 
Fig. 12  Relation between WGBT, metabolic heat and thermal storage
 
Fig. 13  Contour line of thermal storage related to WGBT and metabolic heat
 
5 結論
 暑熱環境下の日射による受熱の項を人体熱平衡方程式に新たに加えた式を作成し、人体蓄熱量を計算し、人体蓄熱量と種々の温熱環境要因との関係を調べ、熱的許容限界内に維持するための熱対策やその効果について評価して、以下の結論を得た。
1)造船所での作業を模した作業者蓄熱量の計算では、連続4時間の作業を考えると、厳しい環境条件下では軽度作業でも人体蓄熱量は許容値をはるかに超える。しかし、対策を取ることで無対策の場合比べて人体蓄熱量を最大で2/3以下に抑えることができ、熱的条件に応じた効果的な対策を取ることにより十分に人体蓄熱量を抑制できることが分かった。
2)熱対策としては、“遮光ネット、“冷却ファンによる送風”はほぼ同程度の効果であるが、遮光ネットは日射の多い場合のみの対策である。また冷却ファンは作業に支障をきたさない範囲でファンの気流速を増加させれば、大きな効果が期待できる。また、“休憩”は、工程管理上予め休憩時間・間隔を考慮し、休憩室を設置すれば最も効果的な熱的対策となる。
3)これらの結果から、“対策レベル”を設定し、過去のデータなどから横浜、神戸、福岡の6〜9月における対策レベルを調べた。さらに、実験や計測等で得られたデータを基に等蓄熱量線図を作成し、様々な環境条件においてWBGTと代謝量から容易に人体蓄熱量を把握できる。
 
 なお、これらの結論は限られた計測と実験に基づくものあり、実活用のためには、さらに多くの計測と実験により精度を高める必要がある。
 
参考文献
1)福地信義、竹内淳:労働安全のための目射下の温熱環境評価と熱対策に関する研究(その1 暑熱環境と人体蓄熱), 日本船舶海洋工学会論文集、第1号、pp.97-109(2005)
2)菅民郎:多変量解析の実践、現代数学社(1993)
3)中山昭雄(編):温熱生理学、理工学社(1995)
4)人間―熱環境系編集委員会編:人間―熱環境系、日刊工業新聞社(1989)
5)村山雅己、福地信義、中橋美智子:暑熱環境下の海洋作業における熱的限界と温熱対策に関する研究(その2)、日本造船学会論文集、第182号、pp.507-519(1997)
6)村山雅己、福地信義、中橋美智子:海洋暴露作業における人体への熱的影響と温熱対策の評価、日本造船学会論文集、第183号、pp.499-508(1998)
7)Fanger, P.O.: Thermal Confort, 2nd ed., McGraw-Hill, New York (1972)
8)南幸治(編):建築計画原論・建築設備、共立出版(1957)
9)社団法人 日本溶接協会:溶接作業環境管理基準WES9007(1982)
10)社団法人 日本溶接協会:アーク溶接の安全衛生管理WES9009(1998)
11)国立天文台編:理科年表、丸善(2003)


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