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4. 航海計画手法
 海象適応航法では、ウェザールーティングで使用されている等時間曲線法に比べ、目的関数、制約条件を容易に導入できる拡張ラグランジュ乗数法3)を用いる。そして、航海時間一定の制約条件のもと、目的関数を燃料消費量最小としてシミュレーション計算を行う。
(1)目的関数
 与えられた航海スケジュールの中での最小燃料消費量とする。
(2)設計変数
 設計変数は、船位、設定主機回転数とし、船位は指定した経度上での緯度を変数とする。
 航路を13区間に分割し、設計変数を25変数とする。
(3)制約条件
 以下4種類の制約条件を考える。
(1)境界条件(設計変数の上限、下限を制約)
緯度変数:航路となる可能性がある範囲(北緯35°から北緯57.5°の範囲)
設定回転数:連続運転可能範囲の下限である主機負荷50%に対応する回転数(87.7rpm)から、常用出力に対応する回転数(104.7rpm)の範囲。
(2)緯度変数の移動幅
 緯度変数の移動幅を制約し、問題を解きやすくする。
 直前の通過緯度から±3°以内とする。
(3)運航限界
 運航限界を超える海域は航行しないものとし、指標に船首部上下加速度を用いる。
 船体応答の短期分布がRayleigh分布に従うとし、遭遇海象下での船首部上下加速度の分散値σ2が限界分散値σ02以下とする。
 判断基準には限界値C0=0.8g、限界確率Q0=10-3を用いる。このとき、限界分散値σ02は(5)式で求められる。
 
 
(4)航海時間
 スケジュールを制約し、到着時間を確保する。
 設定スケジュールは、大圏航路長(約4,000NM)、対象船の計画速力(23.5knot)から、船速に5%余裕をとり、180時間と定める。
 航海時間の許容誤差を±2時間とする。
 なお、各区間での航行距離、針路は漸長緯度航法により求める。
 
5. 海象適応航法とその評価
5.1 評価対象
 WANによる燃料消費量削減効果を評価するために、
(a)大圏航路を設定主機回転数NP0=104.7rpmに設定して航行する場合(以下、GCR)
(b)WANを適用する場合
の2種類のシミュレーションを行い、比較する。
 次に、船舶が目的地に近づくにつれて必要となる気象海象の予測時間が短くなる。これに伴い、気象海象の予測精度は一般に向上し、新たにWANを実施すると、より適切な航路、主機回転数が選定されることとなる。これは気象海象予測値が時間と共に更新されることによる影響である。
 この影響を定量的に調べるために、
(i)出発地点で得られている192時間先までの気象海象予測値を用いる場合(以下、FC at dep.)
(ii)気象海象データは全て事前に分かっているものとして、各日の予測値から最も精度が高いと考えられる0、6、12、18時間先予測値を抽出して192時間分の気象海象データセットを作成し、それを用いる場合(以下、FC DS)
の2種類のシミュレーションを行う。
 (i)の場合、気象海象予測は時間と共に更新されないため、最も信頼性が低い結果と考えられる。一方、(ii)の場合、時間と共に気象海象予測を更新したデータを使用しているため、最も信頼性が高い結果と考えられる。
 なお、実際のWANの運用では、気象海象予測が更新されると同時にWANを再実施する。この場合の評価については後で述べる。
 以上の(a),(b)と(i),(ii)を組み合わせて、4種類のシミュレーションを行い、WANの評価を行う。
5.2 ケーススタディ
 2005年2月7日〜2月20日に行われた波浪推算値を使用して、シミュレーションを実施した。航海に7.5日程度かかることから、シミュレーションは出発時刻を2005年2月7日〜13日の各日18UTCとして行った。
 これらのシミュレーションで遭遇する気象海象とそのときの船体応答をTable 1に示す。ここで、平水中船速は、設定主機回転数での達成船速であり、θrは出会い角であり0°が向波、向風で、時計回りに正値をとる。Vcrは海流速度の船長方向成分であり、正値が船速の増加を示す。QAZは船首部上下加速度の限界値の超過確率である。また、大圏航路及びWANによる選定航路をFig. 8に示す。
 Table 1より、2月7日〜2月10日出発にかけて、2月11日〜13日に遭遇する海象が荒れていることが分かる。このとき、GCRでは船首部上下加速度の限界値の超過確率QAZが大きく、運航限界に近い状況が続き、また、自然減速量も大きいことが分かる。一方WANでは、航路選定及び設定主機回転数を下げて減速することにより、船首部上下加速度が緩和されていること、設定主機回転数を下げることにより、燃料消費量を削減していることが分かる。また、Fig. 8より、2月7日〜10日出発では、荒天を避けるため航海後半の航路を大圏航路よりも北方に選定していること、逆に2月11日〜13日出発では航海前半の航路を大圏航路よりも南方に選定していることが分かる。
 
Table 1 Ship response and weather encountered.
(拡大画面:266KB)
 
Table 1  Ship response and weather encountered
(continued).
(拡大画面:238KB)
 
Table 1  Ship response and weather encountered
(continued).
(拡大画面:83KB)
 
Fig. 8 Selected routes from Seattle to Yokohama.
(拡大画面:61KB)
 
 2005年2月7日〜13日出発の各航海について、燃料消費量Λ、大圏航路に対するWANの燃料消費量の削減率RをFig. 9に示し、航海時間t、航行距離LをFig. 10に示す。
 Fig. 10から、WANでは設定した航海時間を守っていることが分かる。
 次に、これらのシミュレーション結果を平均したものをTable 2に示す。
 Table 2から、今回のシミュレーションでは、WANによる燃料消費量はGCRでの値に比べて平均26.1%(259ton)削減と算定される。
 
Fig. 9  Fuel oil consumption (left) and its reduction rate (right).
 
Fig. 10  Time enroute (left) and distance sailed (right).
 


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