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4. 面渦度を用いた回転成分軽減法
 空間内でランダムに発生する誤差に対しては上記の手法のままで有効であるが, 実際の実験において取得した勾配ベクトルの回転成分を計算すると, Fig. 9のコンターに示すような分布が生じてしまう.これは, ある局所的な領域に集中してなだらかに分布するような誤差成分である.一価の関数である条件を完全に満たすためには, これらは本来ゼロとなるべきである.こうした誤差成分は上述した手法や平滑化フィルタ等では完全に取りきることは難しかったため, ここでは面渦度とその誘起速度を用いた誤差除去法を考案し, その適用を試みた.なお, この取りきれない回転成分誤差の発生については使用光源, 画像取得解像度および変位追跡アルゴリズムが要因と考えられ, それらについての詳細な検討が必要であるが, 本論文の内容を越えるので次報において報告する.
 
Fig. 9 Rotation of measured gradient
 
4.1 勾配データからの回転成分および補正値の算出
 勾配を積分した結果であるφ(x, y)が積分経路の選び方によらない一価の関数であるためには, 勾配ベクトルu=(∂φ/∂x, ∂θ/∂y)=(u, v)について, 次の条件が成り立っていなければならない.
 
 
 前述のようにuの回転成分rot(u)が至るところでゼロとなるべきであるが, 計測値に含まれるノイズのためにそうならない箇所が発生する.そこで, 計測値uij=u(xi, yj), vij=v(xi, yj)からノイズの指標となる回転成分を検出し, それらを軽減するようu, vを修正することを考える.
 
Fig. 10 Integration route of circulation
 
 Fig. 10のような積分経路を考え, 式(13)および(14)に従い点(i, j)における回転成分rot(u)i,jを周囲8点の勾配データから与えられる循環量Γi,jに基づいて求め, これをのωi,jとすると以下のようになる.
 
 
 (13)および(14)式から得られたuの回転成分ωi,jの逆符号の回転成分をもつような面渦度を考え, その誘起速度を計測値に加えれば, 計測値からノイズである回転成分が打ち消され, ほぼ完全に除去することができる.すなわち, u, vそれぞれの補正値ΔuおよびΔvを以下の(15)式で算出し元のu, vに足し合わせて補正を行った.
 
 
 ここに, Si,jはFig. 10の灰色で示す領域で, 点(i, j)を中心とする面積dx×dyの領域である.
 
4.2 実験における計測値への適用
 重力流の水門開放実験において計測した勾配データに本手法を適用し屈折率分布の再構成を行った.実験および解析方法については前報2)と同じであるが, ここでは概略のみ述べる.今回も水門開放後, 進行する重力流の先端部を側面から撮影し, 屈折率の勾配分布を測定した.水門開放前後で撮影したランダムパターン画像間の変位量は直接相互相関法で解析した.横17.6cm×縦4.8cmの領域を440 pixel×120 pixelで撮影し, 1cmが25 pixelに対応している.相関法における検査領域および探査領域をそれぞれ17 pixel×17 pixelに設定し8 pixelごとに計測点を設け, 隣接する計測点で検査領域が50%オーバーラップするようにした.サブピクセル解析は, ガウス分布により行った.解析した変位量を(3)式に代入し, 屈折率変化分Δnの勾配を算出した.今回の水路幅L=5cmである.Fig. 9に今回測定した屈折率微少変化分Δnの勾配ベクトル分布を示す.再構成の際は前節のシミュレーション画像の場合と同様, 全周においてφの法線方向二階微分値, ∂2φ/∂n2=0を与えた.
 次に, Fig. 9に示す勾配データから, 前述した回転成分を式(13)および(14)から求め, 式(15)を用いて算出した補正ベクトルΔuおよびΔvをFig. 11に示す.さらにその補正ベクトルを用いて回転成分を低減した結果をFig. 12に示す.Fig. 11で重力流の密度界面付近で発生する回転成分をFig. 12では良好に低減できている.
 Fig. 13に計測により得られた勾配データ(Fig. 9と勾配は同一), Fig. 13を元データとして, Fig. 14および15が回転成分除去をせずに再構成した場合を示す.また, 再構成前および再構成後の勾配ベクトル間の差分をFig. 16に示す.式(6)および(8)からも明らかなように, 本手法では再構成した曲面に回転成分無しであることを要求している.そのため再構成後の勾配データFig. 15は渦無しであり, Fig. 16は再構成前の勾配データFig. 9に回転成分が存在していたことから, それらを打ち消すために再構成時に数値計算上で疑似的に追加された変位を示している.これによりFig. 14を再構成する際, Fig. 11の密度界面で生じている回転成分を打ち消すために, Fig. 15では左上部から中央部にかけて, 元のデータには存在しなかった左向きの微少ベクトルが付加されている.これにより, Fig. 14の左上部で著しいφの低下が見られる.今回計測した画像では, 上端がすべて一様な清水領域であるので, Fig. 14は不自然な状態である.Fig. 17および18は回転成分除去を行ったFig. 12を元データとして再構成した場合である.Fig. 14で過誤ベクトルにより左端に極端に値が低下していた箇所がFig. 17では回復している様子がみてとれる.
 
Fig. 11 Rotation and correction vector (Δu, Δv)
 
Fig. 12 Rotation and measured gradient of phi
(After removal of rotation)
 
Fig. 13 Measurement result of gradient
 
Fig. 14  Reconstructed result of phi
(Without removal of rotation)
 
Fig. 15  Gradient of reconstructed phi
(without removal of rotation)
 
Fig. 16  Difference between gradient of reconstructed phi and original phi
 
Fig. 17  Reconstructed result of phi
(after removal of rotation)
 
Fig. 18  Gradient of reconstructed phi
(After removal of vorticity)
 
5. 結言
 前報に引き続き, ランダムパターン屈折率測定法の屈折率再構成において表れる勾配からの曲面再構成問題に重点を置き, ポテンシャル理論に基づいた導出解と最小二乗法を用いた解法についての検討を行った.本論文においては境界部も含めた定式化および離散化を行い, シミュレーションおよび実験データを用いた再構成を行い有効性を確認した.加えて, 計測時に発生する回転成分を軽減する手法を新たに提案した.
 その結果, 計測された勾配から過誤ベクトルを除去しつつより確からしい曲面を再構成可能であることがわかった.
 
謝辞
 本研究は文部科学省科学研究費補助金(基盤研究(C), 課題番号:15560693)の補助を受けて行われた.関係各位に謝意を表する.
 
参考文献
1)流れの可視化学会 編:新版 流れの可視化ハンドブック, 朝倉書店, 1987.
2)真田有吾 他:重力流の密度場・速度場同時計測, 関西造船協会誌, 第243号, 2005, pp 145-151.
3)可視化情報学会 編:PIVハンドブック, 森北出版, 2002.
4) Suzuki, T., Suzuki, H., Sumino, K.: A Technique to Measure Wave Height using Projected Light Distribution, 3rd Asian Symposium on Visualization, 1994, pp 892 - 897.
5) Frankot, R. T., Chellapa, R.: A method for enforcing integrabilty in shape from shading algorithms. IEEE Trans. Pattern Anal. Mach, Intelligence, vol.10, no.4, 1988, pp 439-451.


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