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日本船舶海洋工学会論文集 第2号

 事業名 造船学術の振興
 団体名 日本船舶海洋工学会 注目度注目度5


日本近海の波と風の統計的性質
正員 辻本 勝*  正員 石田茂資*
 
*(独)海上技術安全研究所
原稿受理 平成17年9月26日
 
Statistical Characteristics of Winds and Waves around Japan
 
by Masaru Tsujimoto, Member
Shigesuke Ishida, Member
 
Summary
 A database was newly constructed for the purpose of investigating winds and waves around Japan. The database is based on numerical forecast data for 10 years. The forecast data were composed of significant wave height significant wave period, peak wave direction, mean wind speed and mean wind direction. They were calculated at intervals of two minutes in space and twelve hours in time.
 In this paper, the statistical characteristics of the database are compared with several existing databases and their features are clarified in two sea areas, one is facing the Pacific Ocean and the other is in Japan Sea as a closed sea area. Using the advantage of high spatial resolution and a large number of data in the database, the detailed distributions of winds and waves in an average and in extreme conditions around Japan are also examined In addition to the examination, evaluation of statistical characteristics among Japanese navigation areas is carried out.
 
1. 緒言
 海洋の風と波の情報は、船舶運航の必要性から航海記録に記されるようになり、その後、気象、海象の予測や海洋の利用を目的に、船舶だけでなく、ブイ、人工衛星等により広く観測が行われ、収集、整理されるようになった。また、最近では地球環境問題の観点から気候の再解析が行われ、その評価のために必要となる過去の観測データの電子化も行われている。
 これまでの船舶通報データはICOADS1)(International Comprehensive Ocean-Atmosphere Data Set)という形で1784年4月以降の各国の船舶通報データ約1.85億通が継続的に収集、整理されている。また、英国を中心に1750-1850年の約28万通の船舶通報データがCLIWOC2)(CLImatological database for the World Oceans)という形で整理され、将来ICOADSに格納される予定である。我が国でも、神戸海洋気象台が保有する神戸コレクションのうちICOADS未収録の1889-1932年の約400万通のデータも2003年にデジタル化3)(KoMMeDS-NF)されている。
 船舶関連分野では、気象、海象の情報は運航支援の他、耐航性能、波浪荷重の長期予測といった安全性の観点から利用されており、船舶通報データ等を用いて気象、海象の統計データベースが各種作成されており、その内容が解説されている4)
 しかし、これらの統計データベースは1海域あたりの面積が大きく、日本近海について詳細な検討を行うことは困難であった。これは、船舶通報データにより多くの統計データベースが構築されており、統計的に十分なデータ数を確保させるため、海域を広くしなくてはならなかったことによる。
 一方、近年波浪推算の精度が十分実用的なレベルに向上した。波浪推算値は等密度でデータが取得でき、船舶通報データのように航路に偏重したり、荒天避航の影響を受けることがないという特徴がある。
 そこで、日本近海での気象、海象の詳細な検討を可能とすることを目的に、波浪推算データを基として統計データベースの構築を行った。これまでに5年間分のデータを用いて海象の評価を行った結果は公表されている5)が、海域区分が従来の統計データベースに従ったものであった。今回、10年間分のデータにより統計的な信頼性を向上させるとともに、海域区分を緯度経度各0.5度間隔と詳細にして統計データベースを構築し、GUI機能を付けて日本近海の波と風データベース6)として公開したので、そのデータベースの概要、他データベースとの比較検証及び本データベースを用いた気象、海象の評価結果について報告する。
 
2. 日本近海の波と風データベースの内容
 日本近海の波と風データベースは波浪推算値を基に、気象、海象の数値データを発現頻度表の形でデータベース化したものである。
 波浪推算値は、1日2回気象庁より緯度経度各6分(日本近海で9〜11km程度)格子間隔で配信される日本沿岸波浪GPV(Grid Point Value)を基に、(財)日本気象協会が地形による遮蔽と局所的な風波を加味し、緯度経度各2分(日本近海で3〜3.7km程度)の格子間隔に内挿したものである。
 この波浪推算データは有義波高H、有義波周期T、卓越波向χ、平均風速Vw、平均風向γの5要素から構成され、領域は北緯20〜50度、東経120〜150度のFig. 1に示す範囲である。
 波浪推算値の精度は、沿岸波浪計による観測値との比較から、有義波高の12時間先予測値で相関係数が0.885〜0.912であることが報告されている7)
 この波浪推算値を基に、緯度経度各0.5度間隔で統計データベースを作成した。使用した波浪推算データの期間は1994年2月1日〜2004年1月31日(10年間、12時間間隔)である。波浪推算値を用いることにより、時間、空間に対し均等かつ高密度のデータベースが構築できる。このデータベースでは、波と風の5要素(H, T, χ, Vw, γ)から2要素を選んだ発現頻度表及び波の3要素(H, T, χ)の発現頻度表を月別にデータベース化している。発現頻度表では各要素をH: 0.5m、T: 1.0s、Vw: 2.5m/s、χ及びγ: 30度に区分している。
 このデータベースでは波の3要素の同時発現確率p(H、T, χ)が利用でき、これまで船体応答の長期予測法で近似的に使用してきた(1)式に代わり(2)式が使用できる。このことが長期予測値に及ぼす影響については著者等によりすでに検討が行われている8)
 
 
 ここで、p(H, T)はHとTの同時発現確率、p(χ)はχの発現確率、p(H, T|χ)はχに関するHとTの条件付き同時発現確率である。
 
3. データベースの比較検証
3.1 各種データベースの内容
 これまでに統計データベース間の比較検証はGuedes Soares9)、土岐10)、新開・万11)、崔・平山12)により行われており、いずれも無視できない差があることが報告されている。
 ここでは、日本近海で利用が可能な気象、海象の統計データベースを用いて超過確率の比較を行い、各データベースの検証を行った。日本近海の波と風データベース(以下、WWJAPAN)の他、使用した統計データベースの概要を以下に記す。
(1)船舶通報データを基に再構築したデータベース
 船舶通報データを基に関数モデルによりデータを再構築し、有義波高−平均波周期、平均風速の発現頻度表を構築した、PC Global Wave Statistics13)(以下、GWS)及びデータソースが異なるもののGWSと同じ手法を用い、有義波高−平均波周期の発現頻度表を構築したWave Statistics for the Northwest Pacific Ocean Areas14)(以下、WSNPOA)を用いる。
 なお、このPC Global Wave StatisticsはMS DOS上で動作し、書籍版に比べ確率表示の桁数が多いものであり、桁落ちの影響を考慮する必要がない。
(2)船舶通報データによるデータベース
 船舶通報データにより目視波高−目視波周期の発現頻度表を構築した、STATISTICAL DIAGRAMS ON THE WINDS AND WAVES ON THE NORTH PACIFIC OCEAN15)(以下、WWNPO I)、WINDS AND WAVES OF THE NORTH PACIFIC OCEAN16)(以下、WWNPO II)及び北太平洋の波と風17)に収録の船舶通報データによるもの(以下、WWNPO III(SR))を用いる。
 このうち、WWNPO I及びWWNPO IIIは平均風速の発現頻度表も利用できる。
(3)波浪追算データによるデータベース
 波浪追算データにより有義波高−有義波周期、平均風速の発現頻度表を構築した、北太平洋の波と風17)に収録の波浪追算データによるもの(以下、WWNPO III(HC))及びEuropean Centre for Medium-Range Weather Forecats (ECMWF)が実施した波浪追算データERA-40から有義波高−平均波周期の発現頻度表を構築したGLOBAL WAVE CLIMATOLOGY ATLAS18)(以下、GWCA)を用いる。
 ただし、GWCAは人工衛星搭載のマイクロ波高度計データにより有義波高のバイアス修正をしたデータセットにより構築されたものを使用する。
(4)人工衛星データによるデータベース
 これらに加え、有義波高の超過確率には、人工衛星搭載のマイクロ波高度計データから有義波高の発現頻度表を構築した、Wave Height of World Occans19)(以下、HWO)も使用する。
 対象とする海域は、これらのデータベースのうち最も広く区分されるGWSにおけるものを用い、GWS29海域(太平洋側)及びGWS18海域(日本海)に相当するものを用いた。これら海域区分をFig. 1に、相当海域とデータ数をTable1、2に示す。船舶通報データの件数はGWS18海域ではGWS29海域に比べ1/4程度と少ないことが分かる。
 GWCAの海域区分は緯度経度各9度であり、GWS18海域に対しては三陸東方海域を含む等、海域が若干相違するので、他データベースとの比較では注意が必要である。また、GWS29海域に対してはGWCAの海域区分との一致が悪いため使用しない。また、GWS18海域におけるWWNPO Iデータは観測数が1,000未満であって統計的に不十分であるので使用しなかった。
 なお、ここでは目視波高、有義波高は同じとし、区別せず波高と呼び、目視波周期、平均波周期、有義波周期もそれぞれ同じとし、波周期と呼ぶ。
 
Table 1 Area definitions of databases at GWS29.
GWS29 Area Number of Data
WWJAPAN #29 555,001,000
GWS #29 722,672
WSNPOA NW11, NW17, NW18, NW19 428,730
WWNPO I #6, #10, #11, #12 20,631
WWNPO II E05N, E05S, E08, E09N, E09S, E10N, E10S 134,508
WWNPO III(SR) 164,498
WWNPO III(HC) 144,628
HWO #29 54,456
 
Table 2 Area definitions of databases at GWS18.
GWS18 Area Number of Data
WWJAPAN #18 524,288,914
GWS #18 171,089
WSNPOA J1, J2 78,718
WWNPO II E02N, E02S 30,937
WWNPO III(SR) 21,666
WWNPO III(HC) 78,888
HWO #18 106,645
GWCA #18W, #18E 2,325,974
 
Fig. 1 Area divisions.
 
3.2 超過確率による検証
 GWS29、GWS18海域における平均風速、波高、波周期の超過確率をFig. 2〜7に示す。
 超過確率Qは事象tの発現確率p(t)を用いて(3)式で示される。
 
 
 Fig. 2〜7から全体的な傾向を見ると、GWS18海域(日本海)の方がデータベース間のばらつきが大きいことが分かる。この理由の一つに、3.1節で述べたGWSの関数モデルや波浪追算のモデルにおいて、閉鎖海域の影響の取り入れ方に差異があることが挙げられる。なお、太平洋側のGWS29海域でも波周期(Fig. 4)ではばらつきが大きいが、これについては後に述べる。
 海域毎に詳しく見ると、GWS29海域では、同一超過確率に対する平均風速はWWNPO I、WWNPO III(SR)が他より大きいが、他はほぼ同等の傾向を示している。また、同一超過確率に対する波高はGWSが大きく、WWNPO III(HC)が小さいが、他はほぼ同等の傾向を示していると言える。波周期の超過確率から、船舶通報データ(WWNPO I、WWNPO II及びWWNPO III(SR))では波周期5sでの超過確率が小さいことが分かる。これは、いずれも目視波周期0〜5sを1つの頻度区分として解析しているためであり、波周期5s以下での解像度が不足していることが分かる。ただし、船体応答の長期予測を行う場合、一般の外航船ではこのような小さな波周期では応答が小さく、解像度が不足している影響は小さい。また、Fig. 4から、WWNPO Iでは目視波周期15〜17sの発現確率が大きく、他と超過確率の分布形状が異なっている。これは、観測誤差、通報誤差の影響と考えられる。
 GWS18海域では、同一超過確率に対する平均風速はWWJAPAN、WWNPO III(HC)が他に比べ小さいこと、同一超過確率に対する波高はGWSが他比べ大きく、WWNPO III(HC)、WWJAPANは小さいことが分かる。この理由としては、先に述べたことの他、平均風速が小さく評価されているため、それにより推算、追算される波高が小さく評価されることが挙げられる。また、定性的には、GWS18海域は周囲を閉鎖されている日本海であり、波を発達させる吹送距離が限定されること、南方からうねりが伝播してこないことから、GWS29海域に比べ、同一超過確率を与える波高は小さい。波周期については、Fig. 7から、GWCAは日本海における波周期を他に比べて一律に大きく推定していることが分かる。この超過確率の形状がFig. 4に示す太平洋側の他データベースによる形状と近いことから、GWCAでは日本海における波周期を上手く表現していないことが分かる。
 
Fig. 2  Excess probabilities of mean wind speed in GWS29.
 
Fig. 3  Excess probabilities of significant wave height in GWS29.
 
Fig. 4  Excess probabilities of significant wave period in GWS29.
 
Fig. 5  Excess probabilities of mean wind speed in GWS18.
 
Fig. 6  Excess probabilities of significant wave height in GWS18.
 
Fig. 7  Excess probabilities of significant wave period in GWS18.
 
 Fig5、6に示す通り、GWS18海域ではGWS29海域に比べ、各データベースが示す平均風速、波高の超過確率がよりばらついている。各データベース間で、それぞれデータ種別、収集期間、観測位置が異なることを考えると、これらの絶対的な評価は困難であるが、先に述べたとおり、閉鎖海域の影響の取り入れ方にそれぞれ差異があり、それが太平洋側に比べ超過確率がばらついている一因となっている。
 このことから、特に日本海の様な閉鎖海域ではデータベースの特徴を捉えて利用することが重要である。


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更新日: 2019年8月24日

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