4. 計測実験
4.1 計測システムの較正
開発したひずみ分布計測システムの基本的な計測性能評価のための実験を行った.実験に先立ち,ひずみセンサモジュールのチャージアンプの回路定数を(7)式のように設定した.
配列型センサプローブを用いた計測では圧電材料表面の電荷を検出する導電ゴムのサイズの選定が重要となるが,板厚1mmのシリコン導電ゴムを円筒形に打ち抜きで加工し,その直径dを1.5mm,2mm,2.5mm,3mmの4種類用意して計測結果を比較した.圧電材料は厚さ40μmの高分子圧電フィルム(呉羽化学工業,KFピエゾポリマー)を用い,SS400平滑試験片上に接着した.高分子圧電フィルムは圧電性に異方性を示すが,試験片に接着した際は圧電性を強く示すフィルムの圧延方向と試験片の長さ方向を一致させた.また,ひずみ分布計測用の配列型センサプローブは試験片ごとクリップで挟み,圧電フィルム表面に導電ゴム電極を密着させるように平滑試験片上に固定した.なお,平滑試験片を使用するので,ひずみ計測結果は一様分布となり,14チャンネルの各ひずみセンサモジュールの性能差を確認することができ,較正係数を求めた.
実験は油圧サーボ式試験機を用い,平滑試験片に荷重速度1Hzの正弦波形の繰り返し荷重を加える両振試験を行った.実験結果をFig. 9とFig. 10に示す.実験結果各図における出力電圧はセンサモジュールの出力電圧Voutであり,応力振幅に対する出力電圧の振幅である.
Fig. 9 |
Relation between applied stress and output voltage of the sensor |
Fig. 10 |
Relation between probe area and output voltage of the sensor |
Fig. 11 |
Frequency response of strain sensor module at stress amplitude 5 MPa. |
Fig. 12 |
Relation between applied strain and output voltage of the sensor (d=1.5mm). |
Fig. 9は試験片に負荷した応力とひずみセンサモジュールの出力電圧Voutの関係を示す.図より実験条件の範囲ではセンサモジュールの出力電圧は応力と比例関係にあることが分かる.図中のdはシリコン導電ゴム電極の直径である.Fig. 9を,直径dをもとにシリコン導電ゴム電極の面積で整理したものがFig. 10である.図より,電極面積が増加すると検出する圧電材料上の電荷量が増加し,実験条件の範囲では電極面積に比例して出力電圧が増加することが分かった.
Fig. 11は応力振幅5MPaの際のひずみセンサモジュールの周波数応答である.図より遮断周波数の下限値が0.1Hzであることが分かり,遮断周波数以下では出力電圧振幅が急速に減衰し,本ひずみセンサで静ひずみは計測できないことが分かる.なお,実験では確認できないが遮断周波数の上限値は1kHzである.そして,最終的にひずみセンサモジュールの出力電圧と計測したひずみ値との関係をFig. 12に示す.図は電極の最小半径d=1.5mmの場合である.
以上の結果から,開発したひずみセンサモジュール単体として十分なひずみ計測性能があることと,構造部材表面のひずみ計測に適用可能であることを確認した.
4.2 分布測定への適用
最後に開発した計測システムのひずみ分布計測性能を実験によって検討した.実験は前節と同様に油圧サーボ式材料試験機を用いて試験片に正弦波形の繰り返し荷重を与え,ひずみ分布計測システムによって試験片表面のひずみ分布を計測した.
Fig. 13 |
Experimental result in the case of hole specimen. |
Fig. 14 |
Experimental result in the case of crack specimen. |
試験片は材質がSS400の軟鋼平滑試験片であり,長さ320mm,幅100mm,板厚5mmである.試験片上のひずみ分布を不均一にするため,試験片中央に(i)直径10mm円孔を持つものと,(ii)き裂長さ30mmで試験片長さ方向に対して45度傾斜した貫通き裂を有するものの2種類の試験片を用意した.各試験片には円孔およびき裂を覆うように縦横50mmの高分子圧電フィルムを接着した.なお圧電フィルムは圧電性が等方性を持つように2枚のフィルムを積層している9).また,Fig. 13(a),Fig. 14(a)に示すように,ひずみ分布計測用のプローブの設置位置が分かるように圧電フィルム周辺に目盛りを取り付けた.配列型センサプローブはセンシング要素である直径1.5mmの導電ゴム電極を14個取り付けたもので,幅24mmの範囲を同時計測可能なものを使用した.計測は,水平方向にプローブを設置し,Fig. 13(a),Fig. 14(a)図中に矩形で示した縦横24mmスキャン範囲を上から下に向かって1mm単位でプローブ位置を移動して計測を行った.試験片にはそれぞれ(i)5 MPaおよび(ii)10 MPaの応力振幅で応力速度1 Hzの正弦波形の荷重を両振りで負荷した.なお,計測点の座標を定義するため,それぞれの試験片についてFig. 13(a)とFig. 14(a)に示すように,円孔中心を原点とするXY座標系と,き裂先端を原点とするXY座標系を定義した.X軸は試験片長さ方向下向きを正とし,Y軸は試験片幅方向右側を正とする.単位はmmである.
円孔試験片とき裂試験片の計測結果をそれぞれFig. 13(c),Fig. 14(c)に示す.各図(a)には試験片の中央部の写真を示し,計測したひずみ分布の等高線図を各図(c)に,各図(b)は比較のためのFE解析結果を示している.なお,解析にはANSYSを用い,弾性解析を行った.全体的な傾向としては,(b)FE解析結果と(c)実験結果は一致していると言える.
Fig. 15 |
Comparison between the experimental result and FE analysis for hole-specimen (i). |
(a) HL1
(b) HL2
Fig. 16 |
Comparison between the experimental result and FE analysis for crack-specimen (ii). |
(a) CL1
(b) CL2
計測精度を詳細に比較するため,円孔試験片についてFig. 13(a)中の直線HL1,HL2上のひずみ計測値をFig. 15で比較した.き裂試験についても同様にFig. 14(a)中にCL1,CL2で示した直線上の計測値について比較した結果をFig. 16に示す.
まず,Fig. 15の円孔試験片の結果についてみると,円孔中央部の(a)HL1,円孔上部の(b)HL2どちらについても全体的な値としてはFE解析結果と計測結果はほぼ一致していると言える.一方,詳細についてみた場合,Fig. 15(a)HL1では,Y=5 mm近辺の応力集中が最大となる円孔縁部のひずみのピーク値について,計測値が計算結果よりも低い値となっている.この現象について考察してみると,円孔縁部においてひずみを検出する導電ゴム電極が全て試験片上になく,一部が円孔側にはみ出して出力が低下したことが考えられる.
次に,Fig. 16のき裂試験片の計測結果についてみると,円孔試験片と同様に全体的な傾向はよく一致していると言える.だだし,Fig. 14(a)に矢印で示すき裂と直線CL2の交点は,Fig. 16(b)において,Y=-7近辺に相当し,き裂上のひずみの値はゼロとなるべきであるが,計測では非常に大きな値を記録した.その理由を考察すると,実験の場合にはき裂上に圧電フィルムが存在しており,き裂の開口によって大きなひずみを生じたため,図のような差が生じたと考えられる.
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