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圧電材料と配列型センサプローブによる材料表面のひずみ分布計測に関する研究
正員 Didik R. Santoso*  正員 新宅英司*
Yue Jingxia*
 
* 広島大学大学院工学研究科
原稿受理 平成17年5月16日
 
Study on Local Strain Distribution Measurement for Structural Members by using Piezoelectric Material and Sensor Array
by Didik R. Santoso, Member
Eiji Shintaku, Member
Yue Jingxia
 
Summary
 A new technique for surface strain distribution measurement has been developed by the use of piezoelectric material and sensor array. A piezoelectric element (PVDF film) is mounted onto the structure surface, and then electrical charge induced by the surface deformation is measured by sensor array at the multi point simultaneously. In this research, total system to measure strain distribution has been developed, which consists of the following parts; array sensor and signal processing circuit to measure a strain distribution of surface of material, circuit to transfer the measured data to personal computer, and software to process the measured results. The validity and accuracy of proposed technique is given by performing experiment using fatigue testing machine and then compare the result to the FEM analysis.
 
1. 緒言
 疲労強度など,鋼構造の局部強度評価の観点から,歪分布の計測は非常に重要である.例えば,構造部材の形状不連続部や溶接欠陥によって引き起こされた応力集中はしばしば疲労破壊を引き起こす.巨視的にはひずみは均質でただ一つの値を持つが,微視的にはひずみ場は均質でない.これは材料欠陥や不純物などに影響を受けるためである1).一般にひずみゲージ法が構造部材等のひずみ計測に使用されているが,ひずみ分布計測を目的とした場合,ひずみゲージ1個につき測定点は1点であるため,ひずみゲージの使用は効率が悪く,ひずみゲージで多点計測を実施すると多大なコストが必要となる.
 現在,ブラッグ回折格子2),3),4),デジタル画像相関法5),6),圧電材料による方法7)など多くのひずみ計測技術が開発されているが,何らかの制限あるいは短所がある.一方,圧電材料の使用には,材料が安価であることとセンサ設計が簡便であることに利点がある8),さらに,PVDFフィルムのような高分子圧電材料は構造物表面に直接接着することが可能であり,機械的な擾乱なく計測することができる.また,その計測範囲は数秒周期の低周波からMHz単位の高周波までと非常に高い帯域幅と感度がある9)
 表面ひずみ計測への圧電材料の適用は,松本ら7)によって提案され,非接触の静電電位計により材料表面のひずみ分布を測定した.著者らは,以前の研究10)において,圧電フィルムを用い,応力拡大係数計測のための測定点4点の応力センサを開発した.本センサの構成要素はひずみ分布計測に有用であり,本研究では,多点データ収録のため,著者らは圧電材料と導電ゴムを使用したひずみ分布計測用プローブと計測装置を新たに開発した.さらに,開発した計測システムの性能確認のために疲労試験機を使用して実験を行い,試験片表面のひずみ分布計測性能を検証した.また,本計測法の有効性と精度を確認するため実験結果とFE解析との比較を行った.
 
2. 圧電材料によるひずみ分布計測
 圧電セラミックス(PZT)や圧電フィルム(PVDF)などの圧電材料を使用する応力あるいはひずみ計測法では,Fig. 1に示すように,計測しようとする部材表面に圧電材料を接着し,部材のひずみに応じて圧電材料表面に生じる電荷を計測する.
 圧電材料を使用した応力,および,ひずみ計測法には,少なくとも2種類の方法がある.一つは,非接触の表面電位計により圧電材料表面の分極電位を計測する方法である7),9).この方法で計測された電位は圧電材料に加えられた応力(ひずみ)と比例関係になる.
 他方,Fig. 1に示すように圧電素子の上下表面に電極を取り付けて電線でチャージアンプ(電荷増幅回路)に接続して計測する方法がある10),12).本計測法では圧電材料表面上に発生する電荷の変化に応じて電線上を電流iが流れ,チャージアンプに入力される,そしてチャージアンプの出力電圧Vは構造部材に負荷された応力(ひずみ)に比例した値となる9)
 
 
 ここで,Cl(V/N)は圧電材料の特性や接着条件,チャージアンプの増幅率等によって決まる係数であり,S(mm2)は圧電材料表面の電極面積である.ただし,本方法は静ひずみの計測は不可能であり,後述するようにチャージアンプの回路設計値に依存する遮断周波数以上の変動速度を持つ動ひずみが計測可能である.これは安定して計測可能なチャージアンプとするために静ひずみの計測が不可能な回路構成となっているためである.
 本研究の目的であるひずみ分布計測においては,表面電位計を用いる場合,表面電位計測用プローブを計測対象面に沿って隈無く,かつ,正確に移動させる必要があり,装置が複雑になるとともにひずみ分布を詳細に計測するには時間がかかる.一方,後者の圧電材料表面に電極を設けてチャージアンプにより計測する方法では複雑な計測器を必要としないのでコスト的に有利であるが,Fig. 2に示すように圧電材料表面に複数の電極を設置して各点に生じる電荷を計測する必要がある.また,ひずみ分布状況を詳細に計測するためには微小な電極を多数計測対象面に設置する必要があるとともに,多点を同時に計測するためには,各点毎に電気配線とチャージアンプ回路を要する.
 そこで本研究では,コスト的に有利な後者の方法を採用するが,前述の問題を解決するため,Fig. 3に示すように圧電材料表面の電極部分をプローブとして独立させ,聴診器のように圧電材料上の測定対象面にプローブを接触させて計測することとした.プローブ上には接触電極として導電ゴム複数を一列に配列し,Fig. 2の圧電フィルム上に灰色で示した箇所を同時に測定し,プローブを移動してひずみ分布を計測する.
 
Fig. 1.  Single point strain measurement by the use of a piezoelectric material and charge amplifier.
 
Fig. 2.  Strain distribution measurement by the use of a piezoelectric material and charge amplifier.
 
Fig. 3 Strain measurement with movable probe.


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