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3.6 アスペクト比の影響
 圧縮座屈モデルについては、アスペクト比a/bの影響を調査するために、a/bを1、2、3及び5に変化させて解析を実施した。Fig. 17(a)及び(b)にそれぞれ腐食ピットが存在しない場合及びモデルCA10-30-10ついて、平均応力と平均ひずみの関係を示す。これらの図から分かるように、圧縮座屈モデルの場合、腐食ピットの有無に関わらず、最終強度はアスペクト比の影響をほとんど受けない。ただし、アスペクト比が大きくなるほど最終強度後の荷重低下は大きくなる傾向が見られる。
 
Fig. 17  Effect of aspect ratio on average stress-average strain relationships in compressive buckling analysis
(a) No pit
 
(b) CA10-30-10
 
4. 引張強度との比較
 腐食ピットによる強度低下が最も大きい荷重条件や崩壊形態について強度評価法を確立すれば、他の条件においては安全側の評価となることが予想される。そのため、各種強度のうちのいずれが腐食ピットの影響を最も受けやすいかを検討しておく必要がある。ここでは、前章までに検討した板要素の圧縮最終強度及びせん断最終強度と既報[1]、[3]における引張試験結果を比較し、腐食ピットによる最終強度の低下量の比較を行う。
 まず、Fig. 18に各板厚における引張試験及び圧縮座屈モデルの等価板厚とピット面積率の関係をピット直径が30mmで一定の場合について示す。ここで、板厚一定の場合、引張強度は板厚に比例すると考えられることから、引張強度の等価板厚te/t0とσuu0の間には、下式が成立するものと仮定した。
 
 
 ここで、比較に用いた引張試験結果は、既報[1]、[3]のものであり、試験片の両面には、標線間の80mm×200mmの領域に、直径30mmで、直径と深さの比が8:1の模擬腐食ピットを試験体両面の同じ位置にFig. 19のような分布でドリル加工により設けている。Fig. 18から分かるように、腐食ピットが発生している部材の引張強度の等価板厚は、圧縮最終強度のそれよりも小さくなる傾向が見られ、板厚10mmの場合、特に小さくなっている。
 
Fig. 18  Relationship between equivalent thickness and degree of pitting intensity in compressive buckling analysis (Comparison with tensile test results)
(a) t0 = 10mm
 
(b) t0 = 13mm
 
(c) t0 = 16mm
 
Fig. 19 Pit distribution in tensile test[1]、[3]
 
 次に、Fig. 20に、引張試験及びせん断座屈モデルの等価板厚とピット面積率の関係をピット直径が30mmで一定の場合について示す。この図から、圧縮座屈モデルの場合と同様に、引張強度の等価板厚は、せん断最終強度のそれよりも小さくなることが分かる。
 以上のことから、引張強度、圧縮最終強度及びせん断最終強度の中では、引張強度が最も腐食ピットの影響を受けるといえる。
 
Fig. 20  Relationship between equivalent thickness and degree of pitting intensity in shear buckling analysis (Comparison with tensile test results)
 
5. 今後の課題
 一様衰耗の場合の許容衰耗量は、部材にもよるが、基本的には元厚t0に対する比(%)で示されている[21]。凹凸が激しい腐食ピットが発生している場合には、一様衰耗の場合で同等な強度を持つ部材の板厚、すなわち、等価板厚teと元厚との差t0-teを考えれば、一様衰耗の場合の許容衰耗量と直接的な比較が可能であると考えられる。本報では、板要素の単純な荷重条件下における等価板厚すなわち、引張強度、圧縮最終強度及びせん断最終強度のそれぞれの強度における等価板厚に及ぼす円錐形の腐食ピットの影響について比較したが、その結果、引張強度で考えた場合の等価板厚が最も腐食ピットの影響を受けることが明らかとなった。したがって、許容衰耗量という観点から考えた場合、腐食ピットが発生している部材の引張強度で考えた場合の等価板厚評価法を確立すれば、圧縮最終強度やせん断最終強度については安全側の評価が可能であると考えられる。なお、既報のばら積み貨物船の倉内肋骨を模擬した構造物モデル試験の結果から、ウェブにピットが存在する場合、曲げが支配的な場合でもウェブ上の曲げによる引張荷重を受ける箇所でき裂が発生することがあり[4]、また、せん断が支配的な場合にはウェブ上の斜張力場の引張荷重を受ける箇所で破断が生じる[7]ことが明らかになっている。なおかつ、現場検査での利便性を考えると、最終強度比と等価板厚比が等しい引張強度での評価は非常に有効であると考えられる。これらのことから、倉内肋骨のウェブを想定した場合、引張強度を基準にした評価が合理的であると考えている。そこで、現在、円錐形の腐食ピットが発生している部材の引張強度の評価方法について検討中である。
 
6. 結言
 本研究では、バルクキャリア貨物倉倉内肋骨の局部強度に及ぼす円錐形の腐食ピットの影響を明らかにすることを目的とした。
 第7報である本報では、圧縮最終強度及びせん断最終強度に及ぼす円錐形の腐食ピットの影響について、FEMを用いた弾塑性大たわみ解析によるシリーズ計算を実施することにより検討した。また、引張強度に及ぼす腐食ピットの影響との比較を実施した。以下に得られた主な結果を示す。
 
(1)腐食ピットが存在する矩形板の圧縮最終強度及びせん断最終強度は、平均板厚で整理した場合、一様衰耗した矩形板よりも強度低下が大きい。また、腐食ピットが大きいほどその低下量が大きくなる。
(2)圧縮最終強度は、元厚が小さいほど、腐食ピットによる強度低下が大きい。
(3)腐食ピットが存在する矩形板の圧縮最終強度及びせん断最終強度は、最小断面における平均板厚で予測すると過度に安全側の評価となる場合がある。
(4)矩形板の圧縮最終強度及びせん断最終強度に及ぼす腐食ピットの影響は、引張強度の場合よりも小さい。
 
参考文献
1)T. Nakai, H. Matsushita, N. Yamamoto and H. Arai: Effect of pitting corrosion on local strength of hold frames of bulk carriers (1st report), Marine Structures, 17(2004), pp.403-432
2)松下久雄, 中井達郎, 山本規雄, 荒井宏範: 船体構造部材の静的強度に及ぼす腐食の影響(第1報)―実部材での腐食ピット影響調査―, 日本造船学会論文集, 第192号(2002), pp.357-365
3)中井達郎, 松下久雄, 山本規雄, 荒井宏範: 船体構造部材の静的強度に及ぼす腐食の影響(第2報)―人工ピット材を用いた強度調査―, 日本造船学会論文集, 第195号(2004), pp.221-231
4)中井達郎, 松下久雄, 山本規雄: 船体構造部材の静的強度に及ぼす腐食の影響(第3報)―模擬腐食ピットを有する構造モデルを用いた4点曲げ試験―, 日本造船学会論文集, 第195号(2004), pp.233-242
5)中井達郎, 松下久雄, 山本規雄: 船体構造部材の静的強度に及ぼす腐食の影響(第4報)―横倒れ座屈強度に及ぼす腐食ピットの影響―, 日本造船学会論文集, 第196号(2004), pp.151-159
6)中井達郎, 松下久雄, 山本規雄: 船体構造部材の静的強度に及ぼす腐食の影響(第5報)―局部座屈強度に及ぼす腐食ピットの影響―, 日本造船学会論文集, 第196号(2004), pp.161-168
7)中井達郎, 松下久雄, 山本規雄: 船体構造部材の静的強度に及ぼす腐食の影響(第6報)―ウェブのせん断強度に及ぼす腐食ピットの影響―, 日本造船学会論文集, 日本船舶海洋工学会論文集, 第1号(2005), 掲載予定
8)上田幸雄, 矢尾哲也, 中村和博: 溶接初期不整を有する矩形板の圧壊強度に関する研究(第1報)―初期たわみ波形および初期たわみ量の影響―, 日本造船学会論文集, 第148号(1980), pp.222-231
9)藤久保昌彦, 矢尾哲也, Balu Varghcse: 組み合わせ面内荷重を受ける矩形板の座屈・最終強度に関する研究, 西部造船会会報, 第93号(1997), pp.81-89
10)矢尾哲也, 藤久保昌彦, 柳原大輔, 査峰, 村瀬知行: 面内圧縮荷重を受ける矩形パネルの最終強度後の挙動, 日本造船学会論文集, 第183号(1998), pp.351-359
11)K. Basler: Strength of plate girders in shear, Journal of the Structural Division. ASCE, Vol.87(1961), No.ST7, pp.151-180
12)森脇良一, 藤野真之: 初期不整を有するプレートガーダーのせん断強度に関する実験的研究, 土木学会論文報告集, 第249号(1976), pp.41-54
13)奈良敬, 出口恭司, 福本士: 純せん断応力を受ける鋼板の極限強度特性に関する研究, 土木学会論文集, 第392号/I-9(1988), pp.265-271
14)S. C. Lee and C. H. Yoo: Strength of plate girder web panels under pure shear, Journal of Structural Engineering, ASCE, Vol.124, No.2(1998), pp.184-194
15)S. C. Lee and C. H. Yoo: Experimental study on ultimate shear strength of web panels, Journal of Structural Engineering, ASCE, Vol.125, No.8(1999), pp.838-846
16)J. K. Paik, J. M. Lee and M. J. Ko: Ultimate compressive strength of plate elements with pit corrosion wastage, Journal of Engineering for the Maritime Environment, 217, M4(2004), pp.185-200
17)J. K. Paik, J. M. Lee and M. J. Ko: Ultimate shear strength of plate elements with pit corrosion wastage, Thin-Walled Structures, 42(2004), pp.161-1176
18)天野麻衣, 渡辺智彦, 宇佐美勉, 葛漢彬: 繰り返しせん断力を受ける鋼板の強度と変形能, 第3回鋼構造物の非線形数値解析と耐震設計への応用に関する論文集, (2000), pp.57-62
19)葛西昭, 渡辺智彦, 宇佐美勉, p. Chusilp: せん断力を受ける無補剛箱型断面部材の強度と変形能, 土木学会論文集, 第702号/I-59(2002), pp.129-140
20)矢尾哲也, 林茂弘, 村上睦尚, 桑原隆彦: 面内圧縮荷重を受ける有孔矩形板の座屈・最終強度に関する研究(その2), 日本造船学会論文集, 第191号(2002), pp.265-271
21)日本海事協会, 船体構造部材の板厚計測及び精密検査, (1999)


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