日本財団 図書館


アンチローリングタンクの減揺効果に及ぼす左右揺れの影響
正員  池田良穂*
学生員 原田真帆*
 
* 大阪府立大学大学院
原稿受理 平成17年3月28日
 
Effects of sway motion on roll reduction performance of an Anti-Relling Tahk
by Yoshiho lkeda, Member and Maho Harada, Student Member
 
Summary
 Effects of sway motion on roll reduction performance of a U-tube-type anti-rolling tank are experimentally investigated. Forced rolling and swaying tests of an anti-rolling tank model show that the water in the tank violently moves in different frequencies in roll and sway modes, respectively. A forced motion test in roll and sway coupling mode of the anti-rolling tank model demonstrates that sway motion significantly affects on its roll reduction performance. In larger frequency region, sway motion reduces the roll damping generated by an anti-rolling tank, and in smaller frequency region, sway motion increases it.
 
1. 緒言
 波浪中における船舶の横揺れを軽減する装置として,U字管内の水の同調現象を利用したアンチローリングタンク(以下ARTと記す)が広く用いられていたが,揚力を利用したフィンスタビライザーに比べて性能的に劣る面があることから,カーフェリーや官庁船を除くとあまり使われなくなっていた.しかし,最近の痩せ型の高速船において,追波中等での横揺れが問題となり,低抗増加を伴うフィンスタビライザーに代わって,再びARTを見直す気運が高まっている.
 本研究では,これまで検討されていなかった,U字管式ARTの減揺効果に及ぼす左右揺れの影響を実験的に調査した.筆者の一人は,広い自由表面を持つフリューム式ARTについて,左右揺れが横揺れ減衰効果に及ぼす影響を調べて,その影響が大きいことを確かめている1).本研究においても,ほぼ同じ実験手法を用いている.
 U字管式ART模型を製作し,強制的に,横揺れまたは左右揺れの単独運動,及び両揺れの連成運動をさせ,ART内の水の運動を調べた結果,左右揺れから非常に大きな影響を受けることが明らかになった.さらに同ART模型を模型船に搭載して,大阪府立大学水槽において規則波中の船体運動実験を実施して,ARTの横揺れ減揺効果に及ぼす左右揺れの影響について調べた.
 
2. ARTの強制動揺試験
2.1 ART模型
 実験に用いたART模型の概略図をFig. 1に,寸法をTable 1に示す.同ART模型の両ウィングタンクは,垂直壁によりARTM(幅34mm)とARTS(幅13mm)の2つの区画に分割されており,両ウィングタンクを接続しているエアパイプのバルブを開閉することによって,ARTの固有周期を異なる3種類(T0ARTL:全ウィングタンクを使用,TOARTM:外側ウィングタンクを使用,TOARTS:内側ウィングタンクを使用)に変化させることができる.このとき,それぞれの固有周期を(1)式2)4)5)を用いて推定すると,
T0ARTL=1.17sec,T0ARTM=1.0sec,T0ARTS=0.7secとなる.
 
 
Table 1 Dimensions of ART model shown in Fig. 1
Weight of water in ART 0.66kgf
W 0.206m hd 0.017m
Wr 0.05m hw 0.0265m
WB 0.058m hmax 0.08m
(*WB: longitudinal length of ART)
 
Fig. 1 ART model used in the experiments.
 
2.2 横揺れ強制動揺試験
 ART模型を強制的に横揺れさせ,その時のART内の水の運動をビデオで撮影し,その画像から左右ウィングタンク内の水位差hrと,タンク内の水の運動と横揺れとの位相差ε1を求めた.その結果をFig. 3及びFig. 4に示す.
 Fig. 3に示す水位差hrは,ウィングタンクの高さhmaxで無次元化し,横揺れとタンク内の水の運動はFig. 2に示す座標系の元,それぞれ以下のように定義した.
 
 
 Fig. 3より,両ウィングタンクの水位差は,その最大値が,計算された同調点(ω/ω0=1,ω0:(1)式より計算されたARTの固有円周波数)付近に存在しており,この同調点を境に周波数の増加に従って急速に減少していくことがわかる.Fig. 4に示す位相差は,ARTSを除くとω/ω0=1より若干低い周波数で90°となっており,粘性減衰等によって実際の同調点が,前述の計算値よりも低周波数側にずれていることがわかる.
 Fig. 3及びFig. 4の実験値を用いると,横揺れ減衰係数B44(=横揺れ減衰モーメント/(dφ/dt))は次式で求められる.
 
 
ただし,Swはウィングタンク内の水面面積を表す。
 上式による横揺れ減衰係数の計算結果をFig. 5に示す.この図より,(1)式によって計算されたARTの同調周波数より若干低周波数側において大きい横揺れ減衰力を得られることがわかる.ただし,(4)式の計算では両ウィングタンク内の水の重さの差に基づく静的モーメントだけが考慮されているので,計算されたB44は,ARTによる横揺れ減衰力の一部である点に注意が必要である.
 
Fig. 2  Coordinate system and definition of water level difference hr.
 
Fig. 3  Amplitude of the water level difference between right and left wing-tanks of ART in forced roll test.
 
Fig. 4  Phase difference between roll motion and motion of the water level difference between right and left wing-tanks of ART in forced roll test.
 
Fig. 5  Roll damping coefficient obtained by water level difference between right and left wing-tanks of ART in forced roll test.
 
2.3 左右揺れ強制動揺試験
 ART模型を強制的に左右揺れさせ,横揺れ強制動揺試験と同様に,ビデオ画像からタンク内の水位差hsと,タンク内の水の運動と横揺れとの位相差句を求めた.その結果をFig. 6,Fig. 7に示す.この時,左右揺れおよびタンク内の水の運動は,それぞれ以下のように定義した.
 
 
 左右揺れ振幅は30mmとした.これは実船換算すると,波高1.8mの横波中における左右揺れに対応する.
 Fig. 6に示すウィングタンク内の水位差は,(1)式によるARTの固有周波数よりも低周波数領域において最大値を示していることがわかる.また,この時のビデオ画像から,左右揺れによりタンク内の水が激しく運動していることがわかった.
 Fig. 7に示す位相差の結果から,ART内の水が大きく運動する時には,運動との位相差がほぼ90deg近くなっていることが判り,この時,一種の同調現象が起こっていることが推察される.
 
Fig. 6  Amplitude of the water level difference between right and left wing-tanks of ART in forced sway test.
 
Fig. 7  Phase difference between sway motion and motion of the water level difference between right and left wing-tanks of ART in forced sway test.


前ページ 目次へ 次ページ





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION