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環境負荷の小さい基幹エネルギーとしての帆走型洋上発電
正員 木下 健*1   正員 高木 健*2
正員 寺尾 裕*3   正員 井上 憲一*4
正員 田中 進*5   正員 小林顕太郎*6
正員 山田 通政*7  正員 高橋 雅博*8
植弘 崇嗣*9     内山 政弘*9
江嵜 宏至*9     佐藤 増穂*10
正員 岡村 秀夫*10
 
*1 東京大学生産技術研究所
*2 大阪大学大学院工学研究科
*3 東海大学海洋学部
*4 (株)アイ・エイチ・アイマリンユナイテッド
*5 (株)三井造船昭島研究所
*6 (株)住友重機械工業
*7 (財)日本造船技術研究センター
*8 (株)川崎造船
*9 (独)国立環境研究所
*10 マリンフロート推進機構
原稿受理 平成17年3月29日
 
Sailing Wind Farm as Main Energy Resource with Small Load on an Environment
by Takeshi Kinoshita, Member
Ken Takagi, Member
Yutaka Terao, Member
Ken-ichi Inoue, Member
Susumu Tanaka, Member
Kentarou Kobayashi, Member
Michimasa Yamada, Member
Masahiro Takahashi, Member
Takashi Uehiro  Masahiro Uchiyama
Hiroshi Esaki   Masuho Satou, Member
Hideo Okamura, Member
 
Summary
 The present paper proposes a Sailing Wind Farm as main energy resource with small load on an environment. It sails around EEZ of Japan seeking appropriate breezing and avoiding meeting heavy storm like Typhoon. This is a concept of main energy resource of Japan to minimize environmental load when fuel cell and hydrogen will be available for daily life. A prototype design shows feasibility of safe sailing even in case of Typhoon and structural strength in storm. If Sailing Wind Farms, 3900 units of the prototype replace coal power plants, then we can obtain 18% of total electric power generation of Japan and reduce 10% of exhausting C02 of the 2002 level.
 
1. 緒言
 洋上風力発電は現在ヨーロッパで盛んに計画、建設が進められている。しかし、日本の場合、浅い水深で平均風速の大きい適地が少ない上、自然エネルギー利用の優遇策が不十分であり、洋上風力発電を進める上で不利な条件がいくつも挙げられる。さらに実際の候補地を求めるとなると、大きい変動を含む風力による質の悪い電力を吸収できる強力な電力系統のある適地はさらに限定される。そこで、少し先に目を転じて水素社会などで描かれている燃料電池が一般化する頃、または大容量の蓄電器が実現する頃を考えてみる。何年先かははっきりしないが、地球温暖化を始めとする環境問題を見る時、あるいは化石燃料資源の残存量を考える時、それはそう遠い先の事ではないと思われるが、そのような社会では、エネルギー源は化石燃料起源であってはならず、地球系のエネルギー収支をバランスさせることができる再生可能エネルギーでなければならない。すなわち、循環型のエネルギー系は自然エネルギーに代表される再生可能エネルギーの基幹エネルギーとしての利用なくしては成り立たない。原子力は事故の危険性や廃棄物処理、さらに核拡散の懸念があり、そもそも地球系のエネルギー収支の上からも疑問がある。核融合は基礎研究を終え、経済活動のスケジュールにのぼるのはまだまだ先の事の様である。まさに、再生可能エネルギーの選択こそが、循環型エネルギー系を目指す我々が求める道であろう。基幹エネルギーの候補になる自然エネルギーには太陽光、バイオマス、そして洋上を含めた風力等がある。これらは利用可能な総量は大きいものの、エネルギー密度が化石燃料のように大きくないのが特徴である。大きな総量の中から、ほどほどに利用させて頂くことになる。地球系のエネルギー収支を崩さないこうしたエネルギー生産を著者の一人である植弘1)は木守り柿型のエネルギー生産と名付けている。木守り柿型のエネルギー生産の観点から非係留式洋上風力発電が考案された。
 木守り型のエネルギー生産は、経済性の観点だけに価値基準を置くことはできない。経済性の観点に加えて環境負荷を最小化することを新たな価値基準に据える必要がある。この事をエネルギーのパラダイム転換と呼んでいる。環境負荷としては、例えば実質生涯生成エネルギー当たりの生涯生成CO2が挙げられる。実質生涯生成エネルギーは生涯生成エネルギーから生涯稼働エネルギーとシステム構築エネルギーを差し引いた収支である。一方、生涯生成CO2は文字通りシステムのライフサイクルで生成するCO2の総量である。自然エネルギーは当然ながら、実質生涯生成エネルギー当たりの生涯生成CO2の優等生が多いが、誤ってはならないのは、全てが優等生とは限らないことである。例えばバイオマスが脚光を浴びているが、エネルギー生産目的でサトウキビなどを作付けした場合、施肥や農薬の使用などにエネルギーを消費し、サトウキビから生成したエタノールのエネルギー収支はマイナスとなる場合もあるという。非係留式洋上風力発電システムは、新たな価値基準の下で、エネルギー収支比が2〜4倍、あるいはそれ以上となるエネルギー生産システムを目指している。
 
2. 移動式洋上風力発電
 水素社会が始まる頃、すなわち燃料電池が一般化する頃、あるいは大容量の蓄電器が実現する頃には、もはや電力系統に繋ぐ必要はなく、高価な送電線は不要であり、浮体構造で制約になる送電線の変形も考える必要はない。要は風力発電の現地で蓄電池に充電するか、水素を発生させれば事足りる。蓄電池や水素を船で運ぶとすると、陸地までの距離も関係ない。そうなれば一層のこと適度の風が吹いている場所を求めて移動出来るようにすれば、水深や海底土質を気にして係留に悩む必要がなくなる。適度な風速を求めて移動するので何時も効率よく発電できるし、台風を避けて移動すれば大波や暴風に遭わずにすむ。移動可能にすることで発電量を増やせる上に、設計荷重を下げられる訳である。2)
 大容量の蓄電池が開発されるまでは取り敢えず電気で水素を作らなければならない。普通の塩水の電気分解では陽極で塩素が発生し環境に害を与える。これを防ぐには、塩水を淡水化後電気分解するか、あるいは陽極を工夫することにより塩素ではなく酸素を発生するようにするなどがある。淡水の電気分解は技術的には高効率のものが開発されているが、電極に希少金属の白金を用いているため大規模の基幹エネルギーとしては成り立たない。一方、塩素を発生しない陽極の工夫に関しては東北工大の橋本が希少金属を使わない電極材を開発し、この問題を解決している。少なくとも大容量の蓄電池が開発されるまでは、橋本の開発した塩水電解用陽極と水素発生技術は洋上発電に欠かせないものである。
 
2.1 洋上プラットフォーム
 風車を洋上で移動するプラットフォームに載せることにすると、ある程度の数の風車を纏めたほうが操船上も容易であるし、水素発生装置やその他の周辺機器も纏められて有利である。またプラットフォーム同士の衝突の危険を減らすためにも必要である。纏めるとすると配置が問題となる。風上に向かって横方向には3D位(D: 風車直径)、風下方向に5D位間隔を空けるべきであると言われているが、まだ十分に検証されるには至っていない。例えば、風車を5MW風車とすると、直径が約120mであるから、ぶつからないためにも120mは離れている必要があり、どんなに後流を上手に整流しても、理想流体の場合は120m*1.73=208mより近づけられない。そこで、せいぜい近づけることにして、240m位としてみる。プラットフォームとして、例えば5000mのメガフロートを考えると、5000/240であり、約21機の風車しか置けない。これは千鳥に配置しても同じことである。また、風下方向には5Dとすると600m離す必要がある。そこで、240m毎に一列に配置し、双胴の浮体の復原力で支えるか、多数の浮体により、600mづつ離して風車を何列か並べるかの選択になる。しかし600m離すとなると、胴間の桁の強度設計から多数のデミハルが必要となり、あまりメリットがない。そこで後流影響を600mとすると双胴浮体1列風車が一つの候補となる。概念図を図1に示す。
 風車が1列では、浮体が長い紐のようになり、操船性の観点からは、風車を2列または3列にする方が現実的であるかも知れない。この場合、先ほど述べた風車後流の影響が問題になる。これについては、海上風の渦による上下方向の攪拌効果により、大幅に後流影響が短くなるという見解も一部にある。風力発電の場合は、ヨットレースと異なり多少の後流は許され、構造物の総合経済性、さらにこのコンセプトの場合は実質生涯生産エネルギー収支の観点から決められる。そこで、後流影響を4Dとした場合の幾何学的にコンパクトな風車3列、合計11基の場合の概念図を図2に示す。この2種類の長所短所をまとめてみると、Table 1の様になる。縦曲げと軽量化の観点から柔構造が好ましいが、曲げの中立点を水中に取る場合と、空気中に取る場合が考えられる。水中に取る場合はデミハルが縦通の構造部材となり、空気中にとる場合はガーダーと甲板による構造となる。
 
Fig. 1 Rope-type catamaran sailing wind farm
 
Fig. 2 Three-row five lower-hull sailing wind
 
Table 1 Comparison of two types
双胴1列風車超長紐型 5胴3列風車筏型
風車後流 理想的 許容限度内?
鋼材重量 小さい 少し大きい
弾性応答 曲げと捩じりだけで単純 多数の2次元振動モードの共振の心配
操船性 少し不安 より簡単


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