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魚類型ロボットのための運動機構の開発
正員 山口 悟*  鍵山 渓**
寺田昌史***
 
* 九州大学大学院工学研究院
** 我流工房(研究当時 九州大学工学部)
*** 九州大学大学院工学府
原稿受理 平成17年4月27日
 
Development of a motion mechanism for fish type robots
by Satoru Yamaguchi, Member
Kei Kagiyama
Masashi Terada
 
Summary
 The shape and swimming method of fish vary in accordance with their environment and fish have high maneuverability in water. It is believed that studies on how fish swim can suggest a new effective propulsion method for underwater vehicles and robots, and that various types of fish type robots using new propulsion methods may contribute to ocean observations, developments and environmental protection.
 This paper deals with development of a motion mechanism for fish type robot using an artificial muscle. A motion mechanism composed of a shape-memory alloy and an elastic plate is proposed for fish type robots and the characteristics of the motion mechanism are examined by model experiments. Additionally a fish type robot using the motion mechanism is developed and the swimming performance is tested in an experiment tank. The motion of the fish type robot is analyzed using motion picture taken by a digital video camera. And motion of the robot is expressed by a numerical model. The effectiveness of developed motion mechanism is examined based on the experimental results.
 
1. 緒言
 生身の人間では足を踏み入れることの難しい過酷な海中環境において、海中ロボットは海洋観測、海洋資源開発のための有用な手段として期待されており1)、海中ロボットの一形態として、魚類の泳動方法に基づく魚類型ロボットの開発に関する研究も盛んに行われている2)〜6)。魚類には高い運動性能を有するものも多く、生息する環境に応じて様々な形態を持つため、対象とする海中作業やその作業環境に応じて、これに適した形態の魚類の運動機構を基に海中ロボットの開発を進めることは、高度な運動性能を有する海中ロボットを設計するための有効な方法であると考えられる。
 これまで開発されてきた魚類型ロボットの運動機構としては、モーターとクランク等を組み合わせたものが多く採用されている。これらのロボットの多くは主として定常推進や定点保持等の運動を対象として設計されているため、過渡的で大きな加速度を伴う急発進泳動や急旋回運動といった複雑な運動を行うことは困難である。これらの複雑な運動を実現するためには、魚類が持つ運動の柔軟性を有する新たな運動機構が必要である。このためには多関節型の運動機構が考えられるが、構造が複雑となりロボットの製作やその運動制御により高度な技術が必要となる。そこで本報告では、高い運動性能を有する魚類型ロボットの開発を目指し、人工筋肉を利用した魚類型ロボットの運動機構の開発を試みる。
 現在開発されている人工筋肉にはいくつかのタイプがあるが、本報告では取り扱いが比較的容易な形状記憶合金タイプの人工筋肉を採用する。弾性板と人工筋肉から成る筋肉ユニットの製法について検討し、本ユニットを用いた魚類型ロボットの運動機構を開発する。さらに、魚類型ロボットの泳動を撮影したデジタルビデオカメラの動画像を用いてその運動特性を解析し、開発された運動機構の有効性を検討する。
 
2. 人工筋肉による運動機能
 本報告では魚類型ロボットの運動機構の製作に、形状記憶合金タイプの人工筋肉を使用する。現在開発されている人工筋肉には、この他にもTable 1に示すように高分子ゲルタイプや空気圧駆動によるもの等がある。
 
Table 1 Type of artificial muscles
Polymer gel type
Electro-active polymer gel
Ionic conducting polymer gel film
Air pressure drive type
Shape-memory alloy type
 
 高分子ゲルタイプの人工筋肉は、ゲル自身が温度・PH・電場などの外部刺激により収縮、膨潤することを利用したもので、この中にはICPF(Ionic conducting Polymer gel film)アクチュエーター等が含まれるが、このタイプの人工筋肉による発生力は比較的小さい。また、空気圧駆動式は、ゴムのチューブに強化プラスチック繊維のカバーを付け、これを空気で収縮させるもので、他のタイプに比べて装置が大きくなってしまう。
 そこで、本報告では運動機構の製作に通電による発熱により収縮し、他のタイプに比べて取り扱いが簡単で運動機構に必要なスペースも少ない、形状記憶合金タイプの人工筋肉Toki Corporation社製BioMetal Fiber(BMF)を採用した。同製品には線直径の異なる数種類の製品があるが、ここでは線直径100μmのBMFを使用し筋肉ユニットを製作した。製作された筋肉ユニットの構造をFig. 1に示す。U字型に曲げたBMFを厚さ0.2mmの塩化ビニル板にシリコン系耐熱接着剤で貼り付け、BMFの両端を電源に配線する。筋肉ユニットに通電すると人工筋肉が収縮し、ベースの塩化ビニル板がBMF側を内側にして曲げられる。通電を中止するとBMFが元の長さまで弛緩し、ベースの塩化ビニル板の弾性により筋肉ユニットは元の状態に戻る。筋肉ユニットの屈曲運動は通電時の入力電圧とその通電時間によって制御可能であるが、過大な入力を与えるとBMFの発熱により通電終了後の弛緩時間が増加し筋肉ユニットの応答に大きな遅れが生じ、最悪の場合BMFが焼き切れてしまう。しかしながら、魚類型ロボットに本筋肉ユニットを使用する場合には、胴体の素材である超軟質ウレタンによって人工筋肉の放熱が促進され、また、ロボットの使用が水中に限られるため、応答特性の著しい悪化等を防ぐことが可能である。
 後にロボット本体に組込み自律制御を行うことを想定し、筋肉ユニットの制御にはワンチップマイコンPIC BASIC PB-3Hを用い、筋肉ユニットヘの入力電圧の制御のためにはDCモータードライバTA7291Pを使用した。本報告では、マイコンとモータードライバにより筋肉ユニットヘ入力する通電時間とそのタイミングをON/OFF制御し、筋肉ユニットの運動を制御する。実験においては入力電圧を6〜12Vの間で変化させ、周期的にパルス波状の入力を与えることにより魚類型ロボットの泳動運動を実現することを試みた。魚類型ロボットには左右両側にBMFを配置した本筋肉ユニットが搭載されるが、複数の筋肉ユニットを搭載することで、ロボットのより緻密な運動制御が可能になると考えられる。
 
Fig. 1 Muscle unit using BMF
 
3. 魚類型ロボットの製作
 コイ科の魚の多くは尾鰭の運動と魚体後半部の運動の両方を利用した泳動を行う。ここではコイ科の魚の魚体形状と泳動方法に基づいて、本筋肉ユニットを使用した魚類型ロボットを製作し、その運動特性を調査する。魚類型ロボットの胴体形状は、比較的活発に泳ぎ回る数種類のコイ科の魚の口吻から尾鰭の付け根までの標準体長と体高との比を調べ、その平均値を基に決定した。また、多くのコイ科の魚は1.1以下の低アスペクト比の三角形の尾鰭を持つことから、製作するロボットにはアスペクト比1.1の三角形の尾鰭を取り付けた。尾鰭の寸法は、コイ科の魚の尾鰭と魚体全長の比率を参考にして決定し、筋肉ユニットのベースである0.2m厚の塩化ビニル板を延長して尾鰭とした。ロボットには左右一対のBMFをベースとなる塩化ビニル板に貼り付けた筋肉ユニットを搭載し、本筋肉ユニットの運動を制御することで魚体を左右に屈曲させ泳動を実現する。ロボットの胴体の素材には超軟質ウレタンを用い、これをシリコン製の型に流し込むことで魚体を形成する。今回は製作を簡単にするため、運動制御回路と筋肉ユニット駆動用の電源はロボットの外部に置き、これらとロボット本体とは電力線で接続して筋肉ユニットに電力を供給する。また、ロボットの重心及び浮心位置は、バラスト用の錘を胴体に追加することで調整した。製作した魚類型ロボットの構造図をFig. 2に、写真をFig. 3に示す。
 
Fig. 2  Schematic view of the fish type robot with muscle unit
 
Fig. 3 Picture of the fish type robot


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