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謝辞
 本書の刊行に対し,日本財団より多額の補助金を下附されたことを記し,ここに深く感謝の意を表します。
日本船舶海洋工学会役員
会長  内藤 林 副会長 (東部支部長)角 洋一
副会長 (関西支部長)奥野武俊 副会長 (西部支部長)福島昭二
理事 (庶務)瀬崎良明 理事 (財務)岩崎泰典
(編集)荒井宏範 (学術)児玉良明
(学術)安東 潤 (研究)平山次清
(研究)藤久保 昌彦 (企画)北野公夫
(企画)大和裕幸 (国際)加藤直三
(広報)池田良穂 監事  竹川正夫
監事  吉田公一 監事  鍋島秀憲
論文審査委員会
右近良孝 浦 環 木津皓平
大坪英臣 貴島勝郎 木下 健
木原和之 経塚雄策 角 洋一
冨田康光 内藤 林 中山省児
波江貞弘 野本敏治 福地信義
細田龍介 宮崎建雄 宮田秀明
宮田隆司 矢尾哲也 大和裕幸
 
固定ピッチプロペラ型風力発電機の可変速LPV制御
学生員 大坪和久*  非会員 本田大作**
正員  梶原宏之***
 
* 九州大学大学院工学府
** トヨタ自動車株式会社
*** 九州大学大学院工学研究院
原稿受理 平成16年12月3日
 
Variable Rotational Speed Control for Fixed-pitch Type Wind Turbines Using LPV Techniques
by Kazuhisa Ohtsubo, Student
Daisaku Honda,
Hiroyuku Kajiwara, Member
 
Summary
 In the paper, we consider the problem of variable rotational speed control for a wind turbine with the pitch fixed from the view point of scheduling by wind speed. For this problem, we apply LPV (Linear Parameter Varying) technique taking the varying parameter as wind speed. Our control purposes are to extract the maximum power from wind energy in the region below the rated wind speed and then to keep the rated power in the region above the rated wind speed. The effectiveness of applying LPV technique is shown through numerical simulations, compared with the results by the conventional control which is proportional to the rotational speed squared.
 
1. 緒言
 近年、クリーンなエネルギーの一つとして風力発電が世界的に注目されている。中でも、デンマーク、ドイツなどでは、すでに、電力需要の10%以上を風力発電により賄っており、EU諸国全体では2010年に向けて電力需要の22%を供給するように目標を掲げている。欧米では2010〜2020年にかけて、電力の5〜10%を風力発電により賄う時代が倒来するとも言われている1)。このような大きな電力需要を目標に掲げることができるようになった主要因は、風車の大型化、空力性能の向上と、1990年代初期から研究開発が盛んに行われた制御技術の向上にある2)。また最近では、風力発電設備の設置場所が陸上から洋上へとシフトする傾向にある。洋上は陸上よりも一定風速以上の強い風が期待できるため、安定した電力供給の実現が可能であり、そのため、わずかな発電効率向上も、長期的には大きな効果が期待できる。したがって、風力発電の制御技術の研究がますます重要になってきている。
 制御技術の観点から風力発電の効率改善のためには、2つの問題を解決する必要がある。第1に、定格風速以下の風速領域において、風エネルギーから最大のパワーを獲得すること。第2に、定格風速以上の風速領域においては、風のエネルギーの流入を調節しながら、定格出力に維持することである。これらの問題を解決する方法として、ロータの回転数を風速に応じた最適回転数に制御する方法がある。風力発電機の最適回転数制御の問題に関して、R.DattaとV.T.Ranganathan5)は、従来から採用されてきた方法について明らかにしている。その方法は、風力発電機の負荷トルクTdtarget
 
 
とするものである。ここで、ωはロータの回転速度、ρは空気密度、rはロータの半径、CPmaxは出力係数の最大値を表し、λoptはその時の最適周速比の値を表す。この方法は、発電機の回転数の情報のみで必要な発電機トルクが決定され、非常に簡便な方法である。しかし、(1)式は、風力発電機の静的な釣合いの関係式から導かれたものであるために、風力発電機のダイナミクスが考慮されていない。さらに、空気密度は設置場所の気候等に大きく左右される事を考慮すると、この方法は高い発電効率を期待することができない。
 この問題を解決するため、涌井3)らはPID制御を用いて、その制御手法の有用性について明らかにしている。しかし、空力トルクが強い非線形性を有するため、彼らの方法は広い風速領域に適応することは困難である。そこで、W.E.Leithead6)らは、その非線形性に着目し、スケジューリング制御を適用している。同様にして、H.D.Battista7)らは、ロータ−シャフト−発電機システムに対して、HamiltonianからControlled Lyapunov関数を構成して、制御則を導出している。しかし、以上の文献においては、定格風速以上の風速領域における制御問題については言及していない。
 そこで本論文は、風力発電機の数学モデルが風速変動に依存する非線形性を有することに着目し、スケジューリング制御の一つであるLPV(Linear Parameter Varygin、線形パラメータ変動)制御を、最大発電効率を獲得するための回転数制御、定格出力を維持するための回転数制御の2つの制御問題に適用し、数値シミュレーションを通して、その有効性を示すことを目的とする。
 本論文の構成は次の通りである。はじめに、本論文で対象とする固定ピッチプロペラ型風力発電機の概要とその運転モードについて述べる。次に、その風力発電機の数学モデルについて説明し、そのスケジューリング変数に依存した状態方程式を導出する。次に、制御系設計を行うために、各運転モードに対してのLPVモデルを導出し、LPVコントローラを設計する。最後に、性能検証のために数値シミュレーションを用いて、その有効性を確認する。
 
2. 風力発電システムの運動方程式
2.1 風力発電機の運転モードと概要
 一般的な風力発電機の運転モードは、fig.1に示すように分類される1)。以下に、それぞれの運転モードについて述べる。
モード1. V<Vci
 風速Vがカットイン風速Vci以下の領域である。風車が停止状態から起動する場合には、機械的な摩擦などの抵抗よりも大きなトルクが必要となる。しかし、風速Vがカットイン風速Vci以下の場合にはロータが始動トルクを発生することができないので、風は吹いているのに回転しないという状況が起こる。したがって、この風速領域では発電を行うことができない。
モード2. Vci<V<Vrated
 風速Vがカットイン風速Vciから定格風速Vratedまでの領域である。この領域では、風からの獲得エネルギーを最大にするため、風速Vに応じたロータの回転数に制御することにより、効率的な発電が行われる。
モード3. Vrated<V<Vco
 風速Vが定格風速Vrated以上、カットアウト風速Vco以下の領域である。定格風速Vrated以上の風速領域において、エネルギーを最大効率で獲得することは可能であるが、定格出力Pratedを超えるような電力が獲得されたとしても、風力発電システムの構造的な強度を超えてしまう。よって、定格風速Vratedからカットアウト風速Vcoまでの領域では、ロータの回転数を制御することにより、定格出力Pratedに維持することが必要になる。
モード4. Vco≦V
 風速Vが大きくなりカットアウト風速Vcoを超える領域である。この領域では、回転数や発電機の発生トルクが大きくなり過ぎて、発電システム全体が危険になるために、強制的に回転を停止させる必要がある。
 
Fig. 1 Operational modes of Wind Lens
 
 本論文では、具体的な風力発電機として、Fig.2に示す九州大学で開発された風レンズ風車と呼ばれる鍔付きデフューザ型の小型風車を取り上げる。風レンズ風車の主要目をTable 1に示す。また、本論文では特に、モード2とモード3の2つの運転モードにおける、風力発電機の回転数制御について検討する。
 この風レンズ風車の洋上大型風車への展開は、風レンズ風車の持つデフュザーの大型化が、現在の技術では不可能であるため、まだ考えられてはないが、本論文は、風レンズ風車のみに焦点を絞った研究ではないために、以後、述べることは、洋上で扱われるような大型風力発電機にも適用可能である。
 
Fig. 2  “Wind Lens” developed by Research Institute of Applied Mechanics in Kyushu University
 
Table 1 Specifications of Wind Lens
Rotor diameter γ 600 mm
Blade number N 3
Rated power Prated 300 W
Cut-in wind speed Vci 1 m/s
Rated wind speed Vrated 11 m/s
Cut-out wind speed Vco 22 m/s
Rated rotational speed ωrated 1580 rpm
Rated torque Trated 1.91 N m
 
2.2 風力発電機の数学モデル
 風力発電機のモデルはFig.3に示すように、ロータ等の機械部と直流発電機の電気部から構成される。本論文では、シャフトや増速機などの伝達系は考えずに直結とし、また軸の捩れやシステム全体の機械的なロス、電気的なロスはないとする。風力発電機に付加された電流コントローラが指令電流に応じて抵抗値を速やかに調節することにより、電流が変化を起こし、ロータの回転数を制御する仕組みになっている。
 
Fig. 3 Wind turbine system model
 
 Fig.3に示した風力発電機の運動方程式は、
 
 
で与えられる。ここで、JTは慣性モーメント、Lはインダクタンス、Rは抵抗、KEは逆起電力定数、KTはトルク定数を表す。また、eとiはそれぞれ、バッテリの電圧、電流、ωはロータの回転数、QAはロータに発生する空力トルクで
 
 
と表される。ここでVは風速、CTはトルク係数で、
 
 
と定義される無次元値である。これは、風エネルギーから得られるトルクの割合を表す。同様にして、出力係数CPは、
 
 
と表され、風エネルギーから取り出すことのできるパワーの割合を表す。出力係数CPとトルク係数CTの間には、CP=λCTという関係があり、これらの係数はすべて、周速比
 
 
を変数としたFig.4のような非線形関数として表される。ここで、出力係数CPの最大値をCPmax、その時の周速比λをλoptとすると、風力発電機は(λopt,CPmax)で最大発電可能となる。本論文で対象とする風レンズ風車は、(λopt,Cpmax)=(4.51,1.37)である。
 一般に、電気的時定数は機械的時定数よりも小さいので、(2)式の第2式で、=0として近似的に
 
 
Fig. 4  Power coefficient Cp and torque coefficient CT curves of Wind Lens
 
と表すことが可能である。したがって、抵抗を入力とする制御問題と考えなければならないが、前述したように、本研究で対象とする風レンズは電流コントローラをもち、瞬時に指令電流を実現することが可能であるので、本研究では、
 
 
を風力発電機の数学モデルとして取り扱うことにする。


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