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4.4 システムの最適化検討
4.4.1 船舶適用システムの検討
 前項までの結果から、将来の船舶への適用のために、湿冷却装置にばいじん除去性能とSOX除去性能を持たせたジェットスクラバとACF反応器を組み合わせるシステムで高い脱硫効果が期待できることが分かった。ジェットスクラバは単独でも比較的高い脱硫効果が期待できるため、ACFを合わせたSOX除去率を当初目標のSOX=6g/kWh以下(SOX除去率65%)としたシステムと、将来の規制強化に対応した場合のSOX=1.7g/kWh以下(SOX除去率90%)のシステムについて検討を行った。
 
4.4.2 船内機器配置の検討
 排ガスの処理量が大きいVLCC船のエンジンに対応する装置の船内機器配置を検討した。機器の船内配置としては排ガスエコノマイザ出口からの排ガスをジェットスクラバヘ導入し、その後、ACF反応器を通して煙突から排出することで検討した。
 VLCC船に対応する装置は、本年度の試験結果を基にスケールアップした数台のジェットスクラバと散水及び排水用のポンプ、ACF反応塔、数本のガスダクトとダンパーの構成となる。この結果、装置の大きさは、既存の機関室スペースには納まらず、装置の約1/3が煙突ケーシングの外部に出るほどの大きさとなり、現状のVLCCには本装置の設置は困難であることが分かった。従って、本装置を船内へ納めるためには現状のVLCC船の煙突ケーシングより大きくする必要がある。
 さらに、実船搭載する場合は、本装置の重量を考慮し船体の強度アップ、装置に対する防振の為の補強等の検討も必要である。
 今後、本装置の船内配置が確定した後、運用を考慮した排ガスダクト、散水、排水配管のアレンジ等を考慮していく必要がある。
 
4.4.3 船上検証試験の検討
 今後、本研究で製作したの試験装置をベースとしたシステムを実船に搭載することで以下の件について検証する必要がある。
・2サイクルエンジンからの排ガスの影響評価
・船体振動・動揺に対する排煙処理装置の強度および性能
・連続運転時の性能と耐久性
 この場合、船上試験用の候補船について、既存機器の配置、ユーティリティーの有無を調査したうえで改良設計、製作、評価が必要となる。
 長さ約100m、7200tの船舶で船上検証試験用の装置の配置を検討したところ、装置を一体で設置するスペースがないためジェットスクラバ、ACF反応器、ポンプ類等を分散して設置することが必要であった。さらに本試験装置の排ガス処理量は本船主機エンジン排ガスの一部しか処理できないため、排ガスは、排ガスエコノマイザ入口の排ガス管から枝管で分岐して、ジェットスクラバに導管し、処理後の排ガスは煙突入口排ガス管に戻す予定である。
 
5. まとめ
 本研究では従来の脱硫装置に比べて少ない水添加量でSOXの除去が可能な活性炭素繊維(Activated Carbon Fiber: ACF)を利用した舶用排煙処理システムの開発を目的とした。平成16〜17年度の2ヵ年でシステムの基礎的な確認と陸上試験装置による検証試験を実施し、排煙処理システムの出口の排ガス性状および除去率を目指した。
(1)SOX 6g/kWh以下(指定海域で要求される脱硫装置の性能以上)
(2)ばいじん 100mg/m3N以下(除去率90%)
 
 平成16年度は、ACF触媒を用いた排煙処理技術の舶用への適用を検討し、ディーゼルエンジンにより発生させた高温排ガスを海水と気液接触させ増湿冷却するシステムにおいて、増湿冷却水量、排ガス温度、飽和度の関係、ACF触媒への塩類飛散の影響を把握するため試験を実施し下記結果を得た。
・海水でも純水同様、増湿冷却が可能であることを確認した。
・L/G=1.6以上あれば装置運用条件の温度はクリアできることを確認した。温度から熱力学的に予測される飽和度としては十分である。
・海水を増湿冷却に用いても極端に塩類が飛散することは無いことを確認した。
・増湿冷却部で一部除じん出来ることが分かった。
 
 平成17年度は、ACF触媒へのばいじん付着を抑制し、長期運用におけるACF触媒の圧損上昇や性能低下を抑える目的で、ばいじん除去効果のあるジェットスクラバを増湿冷却装置として採用し、後段にはACF触媒を用いた排煙処理装置を配置したシステムを検討した。陸上試験装置を製作し、C重油焚の大型4サイクルディーゼルエンジンから出る排ガス処理を行うことで以下の結果を得た。
・ジェットスクラバとACF脱硫装置を組み合わせたシステム全体の脱硫率は86%であり、通常のC重油焚ディーゼルエンジン排ガスのSOX濃度を6g/kWh以下に低減できることから目標を達成できた。
・ジェットスクラバとACFを組み合わせたシステム全体のばいじん除去率は62%であったが、通常の舶用ディーゼルエンジンから出る排ガス(煤塵濃度200mg/m3N前後)であれば、目標値の100mg/m3Nを達成できることが分かった。極端にばいじん量が多い排ガスに対しては、システムサイズを大きくするなどの対策を施すことで目標値を達成できると考えられる。
・今回検討した舶用排煙処理システムの排出水を海水で2倍以上に希釈すれば、水質汚濁防止法の排水基準値(5.0<pH<9.0)をクリア出来ることが分かった。
・排ガスの処理量が大きいVLCC船に対応する装置を検討したところ、排煙処理システムの体積が大きくなり、想定したVLCCの煙突室内には入らなかったが、今後の最適設計でコンパクト化を図る予定である。
 
 今後はACFを活用した排煙処理システムの商品化を目指して下記項目の検討および検証を行う予定である。
・ジェットスクラバとACF反応器の組み合わせを最適化することで、システムとしての高性能化、コンパクト化、低コスト化を検討する。
・上記を踏まえ、実際の船舶に船上試験装置を搭載し、2サイクルエンジンからの排ガスを分岐して排煙処理を行う船上検証試験を計画中である。
 
参考文献
(1)大気汚染研究全国協議会編、大気汚染ハンドブック2、コロナ社(1976)
(2)木村ら、ジェットスクラバの基礎実験、機会学会論文集、Vol.24 No.1(1960)
(3)西村ら、海洋化学−化学で海を解く、産業図書、(1983)4
(4)宮下ら、自動車用ディーゼルエンジン、山海堂、(1993)41
(5)排ガス中のダスト濃度の測定方法、JIS Z 8808
(6)排ガス中の硫黄酸化物分析方法、JIS K 0103
(7)工場排水試験方法、JIS K 0102-12
(8)環境庁告示、(昭和46年)第59号付表8
(9)工場排水試験方法、JIS K 0102-17
(10)環境庁告示、(昭和49年)第64号付表4
(11)工場排水試験方法、JIS K 0102 附属書(参考)補足


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