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5-6 操船経験者による海上/陸上評価に関するアンケート回答結果および聞取り調査結果
 本事業では相手船動静監視システムの客観的評価の一環として操船経験者殿による「さんふらわあ とまこまい」殿における海上評価試験ならびに海上技術安全研究所殿における陸上評価試験を実施した。
 上記両評価試験にご参加いただいた操船経験者の人数は下記である。
 
・海上評価試験にご参加いただいた操船経験者殿・・・計3名
・陸上評価試験にご参加いただいた操船経験者殿・・・計4名
 
 操船経験者殿による海上評価試験および陸上評価試験の実施にあたり、5-2項で作成趣旨を示した事前アンケートおよび事後アンケートに対するご回答により、さらに評価試験全般を通じて適時の聞取り調査等により操船経験者殿の本システムに関する評価をいただいた。
 以下これらの調査結果のまとめを紹介するが、聞取り調査結果の詳細は紙面の都合で省略する。
 
5-6-1 事前アンケートの結果に関して
 アンケートの質問項目順に従ってそれぞれのご回答内容を以下示し、必要な場合はそれに対する捕捉説明を加える事とする。
 
5-6-1-1 事前アンケートの回答内容
(1)突予防に対する情報に関して
<特に輻輳海域において衝突予防に関して重要な情報は何か>
 本質問は選択肢の複数回答を可としたが、回答者全員が目視による相手船の位置、方位、特にアスペクト角を選択した事は重要である。レーダによる相手船の位置や方位確認、ARPAによる相手船の詳細航行情報を重要情報として回答した回答者もそれぞれ約7割に達しているが、本設問に対する回答からも操船者が景観情報も非常に重視している事が理解出来る。
 なお、本質問の自由記述欄の回答例は以下であった。
・VHFで得る他船情報 ・自船の操縦性能 ・その他
 
(2)衝突予防に対する一般事項に関する質問
(2)−1 目視の範囲
<相手船を通常どの程度の距離範囲以内で目視把握していれば十分か>
 回答者全員の回答距離を平均化した結果として以下を得た。
 
一般海域では・・・6.6マイル
輻輳海域では・・・3.3マイル
 
 以上の様に、輻輳海域でも3マイル強の目視範囲が必要とされている事が分かる。
 
(2)−2 レーダの使い方に関して
<レーダ映像と目視による対象物標との対応は容易か(特に輻輳海域)>
 用意した選択肢のうち「容易である」、および「容易でない」と回答した回答者はゼロであったが、全員が「可能であるが相手船の方向や距離の違いによっては対応付けに時間を要する」と回答している。操船者は従来から目視による他船の把握とレーダ映像からの情報の対応付けを自身の頭脳で知的作業として行なっているために、この回答結果は航行環境によりその作業負荷が極めて大きくなる可能性がある事を示しているといえる。
 
(2)−3 ARPAの使い方に関して
<一般海域および輻輳海域においてARPA情報は衝突予防に有効であるか>
 「有効である」が約6割弱、「かならずしも有効といえない」が約4割強という回答結果であった。これまでの衝突予防援助システムとしてのARPAに関しては、SOLASの搭載要件等に則って考慮しても有効であるとの回答が多いのは当然であるといえる。しかしながら、一方では約半数弱の回答者がかならずしも有効でないと回答している事は注目に値する。
 
<上記で(2)あるいは(3)を選択した方の選択理由>
 かならずしも有効でないとの回答理由に関する、いくつかの要素に対する選択結果である。各種設定が面倒であるとの回答に加え、特に輻輳海域でCPA、TCPAアラームが頻発するという選択が多かったことには注意を要する。これにより、ARPAアラームに対する信頼性が逆に低下している場合がある可能性も考慮しなければならない事が示されているともいえる。
 なお、本質問の自由記述欄の回答例は以下であった。
・他物標乗移りが多い。
・捕捉数制限がある。
・動作上における実時間性の問題
 
<CPA、TCPAの設定値はどの程度としているか>
 衝突危険度の判断基準としてどの程度のCPA、TCPAを設定しているかに関する質問に対する回答者の回答結果を平均したものが下記である。
 
一般海域では・・・CPA: 1.35マイル、TCPA: 8.3分
輻輳海域では・・・CPA: 0.57マイル、TCPA: 6.7分
 
(2)−4 AISの使い方に関して
<AISデータをどのように使用されているか>
 経験なしとの回答もあり、また表示器によるデータの読み取りとの回答が多かった点でAIS情報に関しては、その有効活用が必ずしも十分ではない状況にあるといえる。
 
(3)これまでの目視観測も含めたレーダ、ARPA、AIS等従来システムによる操船に関する考え方について
<従来の操船方法で十分に安全航行を確保しているとお考えか>
 本事前アンケートにてこれまで質問してきた内容を総括し、従来システムによる安全航行に対する総合的な見解を問いかけたものである。その結果、従来システムによる安全航行が十分確保できるとの回答が約3割強であるのに対し、約7割弱の回答者がヒューマンエラーを起こす可能性のある従来システムを補うためのシステム導入が望ましいと考えている事が示された。(2)-3項の質問でARPA情報が安全航行に有効であるとした回答者も、本質問においては総合的に考慮すれば安全航行に寄与するための付加価値の導入が望ましいと考えておられる事がこの結果から読み取れる。
 なお、本質問の自由記述欄の回答例は以下であった。
・各情報を統合化して操船者に与えるシステムといえるか?
・正確、迅速に他船交通状況が把握出来るシステムといえるか?
 
(4)衝突予防に関する理想援助システムとはどのようなものか
 この質問に対する回答は自由記述形式であり回答例は以下であった。
・目視している物標の針路、距離、速力、今後の変針意志、行先等が1画面で判断出来るような分り易いシステム
・多くの接近船舶の動静状況が把握出来るシステム
−プライオリティ選別
−正確性(信頼性が高い)
−迅速性
−最適衝突予防針路の自動的明示
・双眼鏡を見ながらジャイロ方位が分かるもので、他船のベアリングが容易に分かる物があったら楽になる。更にその双眼鏡でのぞいた船がどちらの方向に動いているかという情報が表示される様になれば最高である
・目で見た他船の映像に情報が付加されれば便利である(戦闘機のヘッドアップディスプレイのイメージ)
・最適な避航ルートを示してくれるシステム
 
5-6-1-2 事前アンケート結果のまとめ
 以上の事前アンケート結果のまとめから、以下の傾向がある程度明確になったといえる。
・従来は目視とARPAによる他船動向の予測しか情報がなかったため、これまでの慣れにもよってARPAに対する有効性の評価はそれなりの結果がでている。
・しかしながら、目視とレーダ/ARPA情報との対応の把握が必ずしも容易でない事や、操作や設定等に関する実際の使用上の問題点などから、多くの方が従来システムに対して安全航行をより確実にするための何らかの付加価値を加えた新たなシステムに対する必要性を感じ、それに対する期待を持っている事が回答結果から読み取れる。
・上記アンケートの回答結果や、操船経験者に対する聞取り調査における回答を整理すると、操船者が望むのは相手船の現在のアスペクトや今後の変針等の意図や行き先などを正確に知る事であり、それらデータを速やかに取得あるいは判断できる様な手段を欲しているという傾向が見えてきたといえる。


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