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第2章 情報統合化技術
 第1章でも触れた東京海洋大学・今津隼馬教授が提案された「目標情報の統合と提供」に関する基礎理論について、同教授が作成された説明用資料の一部を利用させていただきながら以下概説する。
 なお、以下文中に出てくる資料番号とは四角で囲った説明用資料の右下に記された番号である。
 
 相手船に関する情報獲得には資料番号1(下図)に示した様に、目視、レーダ/ARPA、最近では自船および相手船が搭載している場合にはAIS、という代表的な手段がある。一般的に情報源の識別に関しては、本資料で述べられているような目標の位置情報の照合により行なっている。
 
 
 ところが、これら代表的な情報源は衝突予防に関して極めて重要であるにもかかわらず、現状ではそれぞれの情報は質の異なった形態の表示がなされるために、操船者はそれらを自身の頭脳における知的作業により統合化している。
 
 
 そこで、今津教授はこれらの基本情報の統合化表示に関する提案をされた訳であるが、それに先立ち適切な統合化表示に関する考察を行なうにあたっての分析を資料番号2で行なっている。ここでは目視情報(この場合はカメラなどを通じて得た景観画像の情報)をPPIレーダのような極座標や、AIS情報などが持つ緯度・経度の2次元直交座標に変換する事は一般的に困難であるとしている。その逆に、PPIレーダの方位と距離を、またAIS情報が持つ緯度・経度の2次元位置データを、人間が通常認識している風景空間すなわち目視情報の次元である景観方位と概略距離という座標系に近いものとするようにそれぞれ変換する事が、人間の持つ通常の感覚にマッチしたものになる事を示している。
 
 今津教授は情報の統合化の基本原理として資料番号3に示すように、景観画像の持つ表示座標を基本として、レーダ映像/ARPA情報を極座標から、またAIS情報を緯度・経度からそれぞれ景観画像対応表示座標に変換して情報の統合化を図る事を提案している。
 
 
 同教授が示された情報統合化の具体案を資料番号4に示す。本提案例では長方形の表示枠の下半分にカメラによる景観画面が示されている。また、上半分には景観画像に表示の座標を合わせて、横軸を方位、縦軸を距離としたレーダ映像を表示し、やはりこの表示座標に変換されたAIS情報とARPA情報が所定のレーダ映像上に重畳表示されている。さらにこれら情報による相手船の予測経路が相手船のターゲット位置から予測時間後の各位置を結んだ連続線として表示されている。
 
 
 本提案による表現方法から分かるように、レーダ映像の方位と景観画像の方位が一致していることから、相手船のレーダターゲット(AISシンボル等が存在する場合はレーダターゲットに重畳表示される)と景観画像上の相手船の船影表示方位は一致しており、縦一直線で結ばれた関係となる。
 これにより、景観画像の相手船の船影とレーダ映像のターゲットとの照合が容易になり、さらにAIS情報やARPA情報との関連付けも容易になることなどから、本提案内容が相手船取り違えなどの操船者による誤認識の低減に寄与するものとなる事が期待される。
 
 次に衝突予防に関する情報表示に関していえば、これまでTCPA/DCPAによる衝突危険評価やPADによる衝突危険評価が一般的であった。しかしながら今津教授の分析によれば、これらの評価には以下のような欠点が含まれている。
 
・TCPA/DCPAは、そこで想定した自船運動における衝突危険度を知るのみである
−自船あるいは目標の行動変化により衝突危険度がどう変化するかは、その行動によるTCPA/DCPAを改めて算出しなければ判らない
−このことは、安全行動選定が容易でないことを意味する
(以上、TCPA/DCPA)
 
・安全行動として目標の前でも後ろでも同じ距離だけ離す行動を求める
−航行している目標の前を航過する場合は遠く離れ、後ろを航過する場合は近くを航過するのが普通である
−目標の前を航過する場合、目標の速力が速くなるほど離隔距離を大きく採る
・衝突危険評価で使用する情報の誤差を考慮する必要がある
−普通、安全航過距離の半径を大きくすることで対応しているが、これでは輻輳域を航行できない
(以上、TCPA/DCPAおよびPAD共通)
 
・PADに到達するまでの時間を求めるのが少し困難
−輻輳域においてはTCPAの把握が必要
(以上、PAD)
 
 そこで今津教授は新たな衝突危険評価の提案をされた。この衝突危険評価は以下各項目が可能となることを目標としている。
○輻輳域で安全行動の検索が可能
○目標の速力に応じて目標前方を航過する場合の離隔距離は大きく、後方を航過する場合は小さく(航過範囲の型の変更)
○使用情報の誤差影響を考慮できる
○危険に至るまでの時間把握が容易


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