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4.4 実証システムの総合評価
4.4.1 試験結果をもとにした解析
 前項の試験結果を図.4-4-1に効率とNOxの関係で示す。図.4-3-5また図.4-4-1より、Gw/Gf=2.5倍程度の噴射量により、効率ならびにNOxの目標値を達成する見込みである。Gw/Gf=2.5倍にてエンジン全体性能を計算した結果のシステム全体フローの例を図.4-4-2に示す。本例では過給機の前後で熱回収を行い、超臨界水をつくる構成となっている。超臨界水の噴射では排気温度が下がるため、通常のエンジンに比較して排熱回収量を増大させた仕様としている。また図.4-4-3にフィードバックコンバインド理論の図を示す。本理論では効率増大率1.12のとき出力増大率が1.29になるが、本試験結果では効率増大率が1.08であったので、これをもとに試算すると出力増大率1.15が期待できる。ただし、この場合実機では排気流量増に対応した設計が必要となる。
 
4.4.2 実証システムの総合評価
 実証システムでの超臨界水噴射試験結果について表.4-4-1にまとめて示す。
 一方で、実用化へむけて解決すべき課題もある。表.4-4-2に実用化課題についてまとめ、主たる課題につき内容を説明する。
 
表.4-4-1 目標値との比較
目標 結果
熱効率 1.08倍(CO2排出量8%削減) 1.08倍達成の目論見を得た。
NOx 65%減(1/3)
NOx低減に重点をおいた場合
65%減(1/3)達成の目論見を得た。
出力 1.15倍 1.15倍
フィードバックコンバインド理論より検証。*1
*1)但し、実機開発では流量増に対応した各部の設計変更が必要となる。
 
表.4-4-2 実用化課題まとめ
装置 内容
超臨界水噴射弁 超臨界水噴射弁の耐久信頼性
超磁歪アクチュエータの作動性向上
エンジン 超臨界水噴射およびサイクルの最適化
超臨界水射弁のアレンジ
超臨界水噴射によるエンジン信頼性
排熱回収方法
その他 補機耐久信頼性
配管関連
メンテナンス、運転、制御
 
(1)超臨界水噴射弁の耐久信頼性
 超臨界水噴射によりシート部また摺動部に問題が生じることが懸念される。信頼性確保のために噴射弁の適切な設計、並びに管理規範の構築が課題となる。
 本研究成果をもとにシート部、摺動部を中心とした噴射弁構造の改良、また材料(コーティングも含む)の選定を行い、連続作動試験で信頼性を確認していく必要がある。
 
(2)超臨界水噴射およびサイクルの最適化
 超臨界水噴射およびサイクルの最適化により、目標値の達成が期待できる。
 本研究成果を反映した燃焼シミュレータを構築し、それにより超臨界水噴霧と性能の関係の詳細把握、また最適な噴霧条件を見出すことが必要となる。
 
(3)超臨界水噴射弁のアレンジ
 本試験では1シリンダあたりに2本の超臨界水噴射弁を配置したが、実機の多気筒機関では、超臨界水噴射弁の最小化が必須となる。
 先述の課題(1)、(2)とも関連するが、超臨界水噴射弁を実機アレンジの観点から設計していく必要がある。配管設計も含め、エンジン系と超臨界水噴射系の総合的な設計検討が必須となる。
 
図.4-4-1 効率とNOxの関係
 
図.4-4-2 システムフロー図
 
図.4-4-3 フィードバックコンバインドシステム理論
 
4.5 H17年度 開発研究の成果およびまとめ
 排気ガスの熱を回収して超臨界水を生成し、これをシリンダ内に噴射することで、NOxの低減とCO2の低減を同時に図ることを狙いとした、超臨界水場エンジンの開発研究に取組んだ。本年度は最終年度として実証システム試験を実施した。得られた成果は下記のとおりである。
 
(1)実証システム全体の設置および組立を行い、システム全体を構築した。
 
(2)実証システムにて超臨界水噴射試験を実施し、効率改善、NOx低減のコンセプトを確認した。
 
(3)実証システムにて性能パラメータ試験を行い、本システムの特性を明らかにした。
 
(4)試験結果をもとに解析を行い、当初の目標性能が得られる見通しを確認した。
 
 本開発研究は、平成14年度のFS研究を経て、平成15年度から平成17年度の3ヵ年で産官学連携のもと実施してきたものである。本研究により本システムの原理を実証した。
 
5. 総合まとめ
 平成15年度から平成17年度の3ヵ年で、超臨界水場エンジンの原理実証を行った。
 平成15年度は実証システムの計画と設計に取組んだ。まずシステムをモデル化して性能検討を行い、目標性能達成の目処を得るとともに、目標性能を実現する構成要素の仕様を確定した。ついで仕様をもとに、超臨界水噴射弁、超臨界水発生装置他の設計を実施した。超臨界水噴射弁および給水システムについては製作も行い、とくに超臨界水噴射弁については高圧N2ガスを用いて噴射試験を行い、応答性および噴射量を確認した。
 
 ついで、平成16年度は実証システムの製作に取組んだ。実証システム構築のため超臨界水発生装置、超臨界水噴射弁、油圧ユニット、弁作動ドライバーの製作を行った。つぎに超臨界水発生装置の運転を行い、超臨界水が安定して得られることを確認し、ついで超臨界水噴射試験を実施した。実際のエンジンシリンダを模擬した高圧容器をつくり、そこに超臨界水噴射弁を据付けて噴射試験を実施した。これにより弁の作動および噴射量を確認した。
 
 最終年度の平成17年度は実証システム試験に取組んだ。まず事前準備として超臨界水発生装置および超臨界水噴射弁の連続作動試験を実施した。実際のエンジン回転数に対応した連続作動を行い、これにより実証システム試験へむけて信頼性を確認した。
 つぎに実証システムの組立を行った。超臨界水発生装置、超臨界水噴射弁他を横浜から長崎に移設し、長崎の単筒エンジンと組合せて実証システムを組立てた。
 実証システム試験においてはまずエンジンのベースデータを取得し、ついで超臨界水噴射試験を行った。超臨界水噴射では効率改善とNOx低減が得られ、超臨界水場エンジンのコンセプトを確認することができた。最終的には試験にて効率最大約1.07倍、NOx最大約40%低減を確認した。
 また超臨界水噴射量、超臨界水噴射タイミング、噴射水温度などをパラメータとして、本システムの特性把握を行った。この結果噴射量と効率・NOx改善幅に相関が見られること、また噴射のタイミングにより効率・NOxの改善幅が変わるといった特性を把握することができた。
 ついで試験データをもとに解析を行い、到達性能として効率1.08倍、NOx65%低減が得られる見通しを確認し、本システムの原理を実証した。
 一方、実用化へむけて解決すべき課題もある。超臨界水噴射弁、エンジンアレンジなどの他、本試験で明らかとなった課題も含め、今後実用化へむけた検討を実施する。


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