日本財団 図書館


2.3. 実験機の設計(噴射弁テスト装置の設計製作)
2.3.1 超臨界水噴射弁テスト装置の設計
 超臨界水噴射弁のテスト(筒内高圧を想定したテスト)のための高圧N2ガス供給装置を設計・製作した。
 
(1)ガス使用量の検討
 基本的なシステムフローとしては、汎用の高圧ボンベ(15[MPa])のN2を往復動式ポンプで昇圧して35[MPa]のN2を得ることを考える。今回の設計噴射量は約9.0[g/st]。よって実機と同様に噴射した場合の消費量は、3.4[kg/min](2.7[Nm3/min])、142[kg/min](162[Nm3/min])となる。
 一般的に出回っている15[MPa]、7[Nm3]ボンベの25本カードルの使用を考えた場合、残圧10[MPa]まで使用可能とすると約21分使用可能の計算となる。本試験では噴射間隔を実機より長くするため、15[MPa]、7[Nm3]ボンベの25本カードル使用で装置の設計を進めた。
 
(2)システム内のボリューム要素の容積検討
 噴射時の圧力変動、供給圧確保などのため、システム各部に設置するボリューム要素の大きさを検討した。ブースター後の蓄圧用高圧ボンベ、噴射弁上流の蓄圧用高圧ボンベにつき検討し、計画の本数にて問題のないことを確認した。
 
(3)その他
 無駄な圧力損失が生じることのないよう配管径を選定した。また配管各部には安全弁を、シリンダ容器には所定の圧力に保つよう背圧弁を設けた。
 
2.3.2 超臨界水噴射弁テスト装置の製作
 上記の設計に基づき、下記構成要素により噴射弁テスト装置を製作した。
(1)汎用窒素ボンベから窒素を供給する。
(2)高圧昇圧装置(ブースター、コンプレッサ)にて35MPa以上に昇圧する。
(3)一旦緩衝用ボンベに蓄圧する。
(4)減圧弁にて30[MPa]まで減圧する。
(5)減圧弁と噴射弁の間にさらに緩衝用ボンベを配置し、ホースにて噴射弁へ供給する。
(6)噴射弁は内部圧力をより25[MPa]に保ったシリンダ模擬容器に設置する。
(7)シリンダ模擬容器内を一定に保つためにシリンダ模擬容器に背圧弁を接続する。
 
2.4. 試験計画
2.4.1 原理実証システムの試験計画立案
 H16の超臨界水噴射弁試験およびH17の実証システムの試験について、試験項目を列挙する。詳細の試験計画については、試験装置準備段階で詰めていく。
 
(1)H16超臨界水噴射弁試験
・超臨界水発生装置の特性確認
超臨界水が得られることの確認試験、発生装置の運転方法確認試験、循環システムの確認、制御性確認熱交換器確認
・超臨界水噴射弁の噴射試験
針弁の作動確認、噴射弁の冷却効果確認、噴射量確認、噴霧形態観察試験、噴射試験後の噴射弁磨耗状況確認
 
(2)H17実証システムの検証
 単筒試験機を用いて試験実施の予定である。試験項目は下記のとおり。
・エンジンの基本性能の確認
・超臨界水噴射試験
パラメータ:H2O温度、噴射タイミング、噴射量、噴射波形、噴孔角度、ノズル角度
・排ガス性状確認
・燃料追加投入試験
・超臨界水噴射時の受熱解析
・最高到達性能確認試験
・排熱回収系のバランス確認
 
2.4.2 原理実証システムのユーティリティ計画
 H16の超臨界水噴射弁試験装置についての必要ユーティリティは先述の仕様などを御参照。
 H17の実証システムについては、基本的に既存のエンジシ設備を使用するため、ユーティリティは既に完備した状態にある。これに超臨界水発生装置に関するユーティリティが加わるが、H16年度の試験時に超臨界水発生装置に関するユーティリティの確認を行い、H17年度の実証試験に備えることとする。
 
2.5 平成15年度 開発研究の成果およびまとめ
 排気ガスの熱を回収して超臨界水を生成し、これをシリンダ内に噴射することで、NOxの低減とCO2の低減を同時に図ることを狙いとした、超臨界水場エンジンの開発研究に取組んだ。本年度得られた成果は以下のとおりである。
 
(1)性能改善幅を検討し、出力1.15倍、効率1.08倍を得る目論見を得た。また本結果をもとに実証システムの仕様を決定した。
 
(2)仕様をもとに、超臨界水噴射弁を試作した。高圧のN2ガスで噴射試験で噴射弁の特性を把握した。来年度の改造設計に反映する。
 
(3)仕様をもとに、廃熱回収系の熱交換器の設計をおこなった。また高圧給水システムの設計・製作を行った。来年度の超臨界水発生装置製作につなげる。
 
(4)H16年度の超臨界水噴射試験、またH17年度の実証システム試験の試験計画概要を計画した。試験装置製作の準備段階で詳細をつめていく。
 
 本開発研究は、平成14年度のFS研究を経て、H15年度からH17年度の3ヵ年で産官学連携のもと、実用化の目処をつけるため開発研究を推進させるものである。
 本年度は実用化へ向けた研究の初年度として、主として各コンポーネントの設計を実施した。本年度の成果をもとにH16年度は各コンポーネントの確認試験、H17年度のエンジン試験へとつなげていく。
 
3. 実証システムの製作(平成16年度実施内容)
3.1 コンポーネントの製作と検証
 原理実証システムにおいてキーコンポーネントとなる超臨界水噴射弁の機能確認試験を実施した。噴射弁についてはH15年度に設計・試作しているが、これをもとに改良設計・製作を行い、超臨界水噴射試験を実施した。
 
3.1.1 超臨界水噴射弁の改良設計・製作
 H15年度に超臨界水噴射弁を試作してN2噴射試験を実施したが、本年度はH15年度の結果をふまえ、性能、製作性、噴射弁カバー配置などの観点から総合的に見直しを行い、噴射弁の改良設計・製作を行った。構成部品ごとの主な改良点は表.3.1.1のとおりである。本年度製作した噴射弁の写真を図.3-1-1に示す。
 
表.3-1-1 噴射弁の改良点
部品 改良点
ノズル
・超臨界水入口ポートをノズル部に配置。
・シート部およびサック部加工性の向上また油溜り容積確保のために2分割構造とし、袋ナットまたろう付け接続とした。
・材料はSCMおよび耐熱鋼、ステライトを使用。
・針弁とノズルについては、熱膨張を考慮した材料組み合わせを計画するとともに、従来比摺動隙間の大きいノズルも準備した。
・シリンダ内での噴射角度(仰角および扇角)および噴孔間の距離から噴孔位置を決定した。
中間金物
・カバー配置の観点から噴射弁全体を短くするため薄くした。
・ピストンロッドとの摺動部をなくした。
本体
・本体から中間金物上部につながる冷却水通路を設け、アクチュエータ部に温度が伝わらないようにした。
・カバー配置の観点から短くした。
・ピストンロッドと本体の摺動部加工精度を確保するため、本体加工手順を変更した。
ピストンロッド
・応答性改善のため、本体にあわせて短くした。
・摺動部は本体のみに変更(H15年度は中間金物と摺動)
ポート
・カバー配置を考え、超臨界水入口ポート位置と、制御油、シール油、冷却油、冷却水ポート位置をそろえた。
 
3.1.2 超臨界水噴射弁試験設備の製作
 超臨界水噴射試験を実施するにあたり、エンジンのシリンダを模擬した容器を製作した。一つは容器内を大気圧として噴射する大気圧容器で、もう一つは容器内を25[MPa]まで加圧できる高圧容器である。また各容器に共通な噴射弁据付治具および超臨界水噴射弁入口金物、架台を製作した。
 
(1)大気圧容器
 図.3-1-2に大気圧容器の外観写真を示す。材料はSUSで円筒容器状の形をしている。側面にはフランジが接続され、観察窓を取付けることができる。容器下部には容器内に噴射された水の排出ポートがあり、容器側面には圧縮空気の注入ポートがある。
 エンジンへの噴射を想定した観点からは、後述の高圧容器を用いた試験がよりシリンダ内噴射を模擬した形になるが、基本的な準備試験、また噴射の目視、また連続的な噴射試験を行う上で本装置は有用となる。
 噴射弁の入口金物もSUS材で製作されており、配管と噴射弁はガスケットでシールされる。入口配管には高温高圧対応のニードルバルブを設け、また噴射弁入口部配管にはワイヤヒータが接続可能となっている。
 容器は上下縦横方向に自在に調整可能な架台上に設置する。架台上部および据付金物は±30[deg]ほど回転させることが可能となっている。
 
(2)高圧容器
 図.3-1-3に高圧容器の外観写真を示す。実際のエンジンを想定し、25[MPa]まで加圧できる容器を製作した(H17年度に試験予定している単筒エンジンの筒内最高圧力が25MPa)。材料はSUS材で内容積は4[L]程度である。鍛造の桶型容器に16本のボルトで蓋をする構造だが、噴射弁据付部は、据付治具また超臨界水入口金物など接続される部材が多いため、スペース確保のためにボルトが接続する蓋部を下にした。
 噴射弁のノズルが挿入される周りにはカートリッジ式のヒータが12本埋め込める形となっている。容器全体をエンジンと同様の高温高圧下条件にすることは難しいが、これによりノズル部まわりは、高温高圧条件を作ることができる。
 容器に加圧される流体はN2ガスで、容器内を所定の圧力に設定したのち、噴射弁より噴射を行う。容器には安全弁を設け、また圧力および温度センサの取付ポートを設けた。噴射弁の据付金物および架台などは、先述の大気圧容器のものと共有である。
 
3.1.3 超臨界水噴射弁の機能確認試験
 噴射試験の前にまずアクチュエータの基本特性を把握した。図.3-1-4はアクチュエータの外観写真である。噴射弁据付時にはアクチュエータは噴射弁上部の金物に挿入され、アクチュエータの外周は油冷される。
 図.3-1-5、図.3-1-6にアクチュエータのリフト応答結果を示す。アクチュエータのリフト量はアクチュエータ上部のギャップセンサで計測している。結果の示すとおり、4〜10[A]の電流指令に対して良好な応答で変位している。(噴射弁へ据付けた状態(制御油圧力は0[MPa〕)で計測しており、プリストレスが小さくリフト量はやや小さい)
 つぎに高圧容器への高圧水噴射試験を実施した。3[A]、4[A]、5[A]にて50回の連続噴射を行い容器内に噴射された総水量を計測した結果、一回あたりの噴射量は、それぞれ2.1[g/shot]、3.9[g/shot]、5.5[g/shot]の結果を得た。(目標の最大噴射量は5.5[g/shot])
 ついで、高圧容器への高温高圧水噴射試験(超臨界水)を実施した。3.4項で説明する高温高圧水発生装置を運転し、装置各部のシールなどを確認しながら徐々に高温高圧水の温度を上げていった。約200[℃]、250[℃]、400[℃]で噴射した結果を図.3-1-7に示す。噴射圧力は、約30[MPa]、容器内圧力は約23[MPa]である。指令の電流は約5[A]で、いずれの温度の場合も、同様の針弁応答が得られた(調整のため、制御油圧力を低くしている)。噴射量は噴射前後の容器圧力の変化から概算して約3[g/shot]の結果を得た。目標噴射量に達していないが、リフト量増大(指令電流の増大)、噴射期間の増大で対応可能な範囲である。超臨界水噴射時(400[℃])では針弁リフトシェイピングにやや改善の余地があるが、超臨界水を噴射する噴射弁としての基本的な機能を確認することができた。
 噴射弁冷却水の効果をみるため、高温高圧水噴射試験時に本体の温度計測を実施したが、その結果温度は30[℃]以下のレベルで、アクチュエータの作動に問題のないことを確認した。
 以上、本年度の超臨界水噴射弁の機能確認試験結果を述べたが、超臨界水噴射弁は、原理実証システム試験においてキーコンポーネントとなるものである。H17年度の原理実証試験へむけて引き続き検討、改善を進めていく。


前ページ 目次へ 次ページ





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION