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吟剣誇舞の若人に聞く[第76回]
野中政利くん
 
野中政利くん(十一歳)栃木県矢板市在住
(平成十七年度全国剣詩舞コンクール決勝大会剣舞幼年の部優勝)
父:野中酔月さん(遊月流酔月会会長)
母:野中順子さん
妹:野中舞子さん
宗家:酒巻遊月さん(遊月流吟舞会)
父への信頼感が、優勝をもたらした
 父親の厳しい指導にも泣き言をいわず、技を磨き、栄冠を勝ち得た野中政利くん。全国剣詩舞コンクール決勝大会入賞者発表後、コンクール優勝のことを中心に、いろいろお聞きしました。
(平成十七年九月十八日、笹川記念会館にて収録)
――本日は優勝おめでとうございます。今の気持ちを聞かせてください。
政利「ビックリしています。優勝できる自信もありませんでしたから」
――自分として今日のできはどうでしたか?
政利「失敗したところもありましたが(笑)、自分では納得しています」
――お父様も今大会に出場されたのですか?
酔月「はい、一般一部の一番手で出場しました」(笑)
――では、息子さんに負けられませんね?
酔月「いや・・・(笑)、お昼の発表で息子の優勝を聞いていましたので、がんばらなければという反面、少し気が緩んでしまいました」(笑)
――でも、息子さんの優勝はうれしいですね?
酔月「もちろん、大変うれしいです」
 
野中政利くんを中心に優勝の喜びを語る(写真左より)酒巻遊月宗家、父の野中酔月さん、政利くん、妹の舞子さん、母の順子さん
 
――優勝の声を聞いて、お母様としていかがでしたか?
順子「思わず泣いてしまいました」
――全国大会は初めて?
政利「三回目になります」
――これまでの成績はいかがでしたか?
酔月「小学校三年生のときに三位、四年生のときも三位で、今回やっと優勝できました」
――「八幡公」を選ばれた理由は何ですか?
酔月「内容が幼少年に向いていますし、表現しやすいと思ったからです。また、私のイメージが牛若丸の年齢を想定していたものですから、本人と同じくらいですし、見ていただく方々にもイメージしやすいのではと考えて選びました」
――内容を教えてもらって理解できた?
政利「なんとなく」(爆笑)
――ご宗家が舞台をご覧になっていかがでしたか?
酒巻「剣舞に磨きがかかっていて、何も言うことはありませんでした。手前味噌になりますが、すばらしいと感じましたし、もしかしたら、これはいけるかもしれないと思いました」(笑)
――お父様もご覧になって優勝すると思いましたか?
酔月「私は逆で、皆さんが上手なので、昨年の三位と同じなら、まだ良いほうではと思いましたが、優勝でしたからビックリしました。優勝は悲願でしたから」
――お父様としても政利くんの優勝は、今後他の皆さんを指導していく上で自信になりますね?
酔月「はい、やってきたことに間違いはなかったと思えますからね」
――ところで、何歳から剣舞を習っているの?
政利「五歳のころからです」
――お父様がなさっているので、習わせようと思ったのですか?
酔月「私は二十六年ほど剣舞をしておりますが、無理に習わせようとはしませんでした。といいますか、息子が自然に習い始めるような環境作りをしていたので、作為的な自然の流れといったところですか」(爆笑)
 
インタビューを終えて、(写真右より)野中酔月さん(父)、野中政利くん、酒巻遊月宗家、野中舞子さん(妹)、野中順子さん(母)
 
――習い始めたころの印象を覚えているかな?
政利「自分でも刀を持つのが好きだから、たまに怖いときもあるけど、楽しかったです」
――たまに怖いとは何ですか?
政利「怒られたときなどです」(笑)
――指導はお父様ご自身でなさっているのですか?
酒巻「お父さんは、わが流派の副会長をしておりまして、副会長は振り付けができる立場なので、指導をお願いしています」
――親子間の指導には特別な感情は入りませんか?
酔月「普通の人を教えるより、一味も二味も違います。どうしても自分の分身として、教えることに妥協がなくなってしまいます。かわいそうだとは思いますが・・・」
――お父様に教えてもらってどうですか?
政利「いっぱい怒って怖いけど(笑)、最後まで教えてもらえ、自分ではできないこともちゃんと指摘してくれて、上手にしてくれます」
――指導者としてみた息子さんの印象はいかがですか?
酔月「特別な才能や素質があるとは思いません。ただ、環境が環境ですから、本人も逃げるわけに行きませんから(笑)、やらざるを得ません。最後までやりぬいた結果が、今回の優勝だと思っています」
――小さなころは練習を嫌がりませんでしたか?
酔月「嫌がることはありませんでしたし、小さな子供も他にいませんから、上手にやるとほめてもらえ、お小遣いはくれるは、お菓子はもらうは(笑)、ずいぶんいい思いをしたと思いますよ」(笑)
政利「はい、いろいろもらいました」(笑)
――ほめられて伸びるタイプなのだ?
政利「逆です。厳しくされたほうがいいです」
酔月「正直に言いなさい」(笑)
政利「ほめられると、崩れるタイプだから」(爆笑)
――息子さんの性格はいかがですか?
順子「人をかき分けて、前に行くタイプではありませんね。だから本人もいま言いましたが、上から言われて、それが刺激になって行動するところがあります。長男独特のおっとりとしたところがあります」
――剣舞をして、楽しいですか?
政利「はい。新しい技を覚えたり、その技ができたときや、詩の内容を調べてわかったときなど、楽しいです」
――妹さんがいますが、何か習われていますか?
舞子「詩舞と剣舞を習っています」
――政利くんも今後、詩舞や吟詠を習う予定はありますか?
政利「いまのところ、特にありません」
――これからの政利くんへ、アドバイスがありましたらお願いします。
酔月「日本一ということに驕らないで、これをきっかけに広く一般の方々に吟剣詩舞の良さを知ってもらえるような剣舞、感動してもらえる舞ができるようにがんばってもらいたいと思います。そのためには心から湧き出た表現を身につけてもらいたいです」
――最後に、政利くん、これからも剣舞を続けますか?
政利「はい、続けます」
――本日はインタビューにお答えいただきありがとうございます。皆様のこれからのご活躍を期待しております。


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