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2.4.4 離岸流と安全な海岸利用に関する公衆教育
 離岸流による海浜事故死を減少させるためには、海域利用者に対する事前の啓発教育が重要である。また、実際の海域利用時に危険箇所を周知する利用案内も現実的な手法である。そこで、以下に今年度行った啓発教育の状況と、海岸の安全利用に関する案内の状況をまとめることにする。
 
(1)啓発教育セミナー
 平成17年度は以下の図に示すように、6月21日に銚子市(第三管区海上保安本部共催)で、7月7日に那覇市(第十一管区海上保安本部共催)で、7月13日に小樽市(第一管区海上保安本部)で、7月16日に鳥取市(第八管区海上保安本部共催)で、7月21日に鹿児島県立南種子高等学校(南種子町)で、11月9日に塩釜市(第二管区海上保安本部)、鹿児島大学工学部海洋土木工学科公開講義(鹿児島市)で、計7回の離岸流に関する啓発教育を行った。なお、上記の銚子、那覇、鳥取海上のセミナーは(財)日本水路協会と各管区との共催であった。
 
図−2.4.27 平成17年度離岸流啓発教育セミナーの開催箇所
 
(2)アンケートの実施とデータ解析
 国民が安全に親水活動を行う上で必要不可欠な離岸流に関する知識は、意外と知られていない。海浜事故は、国民が普通の生活の一部として行っている海水浴・釣り・散策などの親水活動時に発生することが多い。よって、海浜事故に関する体系的な啓発教育が整備されなければ、将来にわたり海岸利用時のリスクが低減しないことになる。国民が普通に楽しむ親水活動時のリスクを低減するには、海浜事故の主要因である離岸流に関するセミナーや現地実験などの公衆教育が重要である。したがって平成17年度の公衆教育として離岸流と海岸利用の安全性に関するセミナーを行い、同時にアンケート調査も行った。ただし、今年度のセミナー受講者の多くは、救難活動に関係する職種の受講者がほとんどで、一般市民の受講者数は少なかった。なお、ここで救難活動に関係する職種とは、海上保安官、消防官、警察官、自衛官、ライフセーバーである。なお、子供たちの海浜事故率が高いために、教育関係者の受講も要望しているが、現状では受講者数が少ないようであった。
 セミナーの内容は会場(地域)ごとに若干異なるが、(1)海浜事故状況と離岸流の関連性、(2)自然海岸および人口海岸における離岸流の可視化、(3)離岸流の特性、(4)海岸の安全利用に関する啓発教育、(5)海岸の安全管理(安全標語および問題点)、(6)離岸流探査に関する修了試験のような項目を60分〜90分程度で講義することにした。なお、会場は、第三管区海上保安本部(銚子市)、第十一管区海上保安本部(名瀬市)、第一管区海上保安本部(小樽市)、第八管区海上保安本部(鳥取市)、鹿児島県立南種子高等学校(南種子町)、第二管区海上保安本部(塩釜市)、鹿児島大学工学部海洋土木工学科公開講義(鹿児島市)である。一般にも開放されたセミナーではあるが、南種子高等学校は高校生だけを対象に、第一管区海上保安本部のセミナーでは海上保安官だけを対象とした。
 各地におけるセミナーの満足度は、回答者数を母数に計算するとおおむね9割をこえている。よって平均的には、セミナーの内容に大規模な修正は必要ないと考える。しかし、数%程度であるとは言え、セミナーに必ずしも満足しなかった受講者がいたことは反省すべき点である。よって、セミナーの内容は大勢としてはこのままでよいが、若干の修正が必要と言わざるを得ない。よって、改良・修正点を探るためにセミナーに満足しなかった理由を調べると、(1)難しすぎた、(2)一般市民には不適切である、(3)パワポインターが見づらく声が聞き取りにくかったのでマイクを使い、違う会場で行って欲しかったとの事であった。このようなコメントから、自然科学や自然体験に馴染みのない受講者、およびより初心者レベルの方々に対してより理解しやすい動画やアニメあるいは電子紙芝居的なものを適宜組み込み、受講者が、最低限興味を失わないように配慮する必要があろう。
 アンケート調査結果のうち、水難事故の経験があるかどうかであるが、救難関係者が多かったこともあり、救難活動時のものも事例として含まれていた。全アンケートの結果としては、34%の回答者が水難事故の経験をしていた。また、低年齢時に水難事故を経験した割合が高いことも、平成16年度と同じような結果となっていた。このように、低年齢時に事故経験が多発していることを考慮すれば、公衆教育の一環として特に子供達や学校関係者・保護者向けの体系的な啓発教育および資料が必要と考える。なお、受講者のコメントとして「手段・方法は別として、生徒へのセミナーの機会を設けて欲しい」と言うものがあった。ただし、筆者は今年度鹿児島大学水産学部の公開講座「海岸へ行こう」の講師を務め、海岸砂丘や砂浜の形成について小学校4年生〜6年生の児童に講義および砂浜での体験学習を行ったが、この年齢の子供達の興味を一定時間ひきつけるには、教える側に相当の訓練が必要であり、離岸流に関する説明を納得できるような形で行う余裕がなかった小学生や幼稚園児およびそれ以下の幼児などの子供向けには、電子紙芝居などの材料を開発すべきと実感した。
 以下に、銚子会場におけるアンケート結果と、他会場を含む全アンケートの集計結果を示す。
 
銚子海上保安部離岸流セミナーアンケート(千葉県)2005.6.21
(1)年に何回ぐらい海に行かれますか。また、海で主に何をしますか。
 
図−2.4.28 海岸の利用状況
 
表−2.4.3 海岸の利用状況(人)
0回 3
1〜2回 14
3〜4回 8
5〜10回 7
10回以上 31
 
図−2.4.29 海岸利用目的
 
表−2.4.4 海岸利用目的(人)
サーフィン・遊泳等 26
仕事 14
散策 9
無回答 14
 
(2)海に行かれる方はよくどこに行かれますか。海岸の名前を教えてください。
 
表−2.4.5 利用する海岸名 (人)
千葉県 九十九里浜 10
飯岡海岸 5
名洗海岸 3
一富海岸 3
矢指ヶ浦海岸 3
屋形海岸 2
犬ヶ崎海岸 1
銚子外川 1
旭海岸 1
一松海岸 1
椎名内海岸 1
川口海岸 1
長崎海岸 1
本須加海岸 1
白子海岸 1
守谷海岸 1
茨城県 平井海岸 2
日川浜 1
大洗海岸 1
下津海岸 1
神奈川県 片瀬西浜海岸 2
湘南海岸 1
静岡県 西伊豆海岸 1
城ヶ崎海岸 1
青森県 三沢海岸 1
佐賀県 波崎海岸 11
神崎海岸 1
鹿児島県 長崎鼻海岸 1
60
 
(3)海で流されそうになったことがありますか。あるいは、溺れそうになったことがありますか。あれば、いつ、どこで、何をしているときにかご記入下さい。
 
図−2.4.30 海浜事故の遭遇状況
 
表−2.4.6 海浜事故の遭遇状況(人)
ある 29
ない 28
無回答 6
 
 なお、ほとんどの方がサーフィンや遊泳中で流されることが多く、小学生の頃に流されたという意見が多かった。まれなケースを上げれば、以下のようなものがあった。
・汀線測量中
・台風の日に海に入る時
・ライフセービング練習中
・救助活動中に溺者と一緒に
・救助活動中に鼓膜が破れ、平衡感覚を失い
・テトラポット付近で
・流されたが、向岸流で戻る
・友達が流されたが、何人かで手を繋ぎ助かった
 
(4)本日のセミナーを聴いて、海で泳ぐときに注意すべきことは何か、覚えていればポイントを御記入下さい。
・岸、海岸線に沿って泳ぐ
・横方向に泳ぐ
・離岸流に注意する
・他の場所よりも水温が低いと感じたら注意する
・海岸保全施設の有無
・地元の人に海の状況を聞く
・海で泳ぐ場所の選定
・一人で泳がない
・海岸なので、ごみ溜まりが沖合につながっているところには立ち入らない
・流されたら、波の高いポイントを目指す
・気象、海象情報の把握
・自分の泳力の把握
・地形・波の形状に注意して泳ぐ
・引き潮の時間帯は避ける
・屈曲した汀線、波峰線のへこみに注意する
・波の高いときや砕波の場所は避ける
 
(5)海のことで特に聴いてみたいテーマがありますか。あれば、記入してください。
・海と人との接し方
・養浜方法と離岸流との関係
・侵食防止
・離岸流と大津波との関係
・ヘットランド間の砂の流れ
・海浜流で発生する流れ
・リップカレントと水深の関係
・海難事故
・逆潜流の仕組み
・子供と海で遊ぶときの注意
・海難事故者(離岸流を利用した)の救出方法
・風と波の発生メカニズム
・月齢の変化と水難事故の変移について
 
(6)本日のセミナーは、面白く聴いていただきましたでしょうか。それとも、つまらないものだったでしょうか。セミナーの感想を、手短にご記入下さい。
 
図−2.4.31 セミナーの満足度
 
表−2.4.7 セミナーの満足度 (人)
面白かった 51
つまらなかった 0
難しかった 2
無回答 10
 
 ほとんどの方が面白かったと解答しており、感想としては、
・動画がよかった
・具体例がよかった
・もう少しセミナーの時間を延ばしてほしかった
・少人数質疑応答形式にしてもらいたい
・難問の答えを教えていただきたかった
 というものがありました。
 
 このセミナーにより離岸流についての認識がより高まり、これからの活動に大いに役立つプログラムだったと言える。
 
(7)離岸流の探査で何かアドバイスがありましたら、よろしくお願いします。
・地元ではミヨ(離岸流)が発生しやすい場所には神社が祭ってあると聞いています。
→浜辺のマップを作る


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