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第3章 まとめおよび今後の課題
 「大陸棚限界画定のためのソフトウェア開発」で開発したプログラムを以下にまとめる。
 
・音速度補正
 調査船の動揺を考慮した音速度補正計算を組み込んだ。
・ノイズ除去
 除去した水深点の自動復活機能を開発した。
・グリッド化
 各音響ビームのフットプリントを考慮したグリッド化方法を考案し、プログラム化した。
・グリッド補間、公開グリッドの挿入
 狭い範囲のグリッドの欠落を共一次内挿するプログラムを開発した。
・グリッドの平面、3次元表示
 グリッドデータの品質管理を目的とした平面、断面、3次元の表示プログラムを開発した。
・基準線から任意距離の円弧描画
 基線や脚部線からユーザーが設定した距離を半径とする円弧を描画するプログラムを開発した。
・大陸棚外側の限界線の自動選択
 作成した複数の限界線データから最適な限界線を自動選択するプログラムを開発した。
・60海里ショートカットの最適化
 得られた大陸棚限界線データから、大陸棚をもっとも拡張できる点群を計算するプログラムを開発した。
 
 本研究で以上のプログラムを開発したが、国連の審査に耐えうるだけのデータを準備するためには、多くの課題が残されている。その課題を以下にまとめる。
 
大陸棚限界線描画プログラムの充実
 本研究では大陸棚限界線描画のプログラム群を開発した。しかし開発したのは図2の内、約半分のプログラムのみである。したがって残りのプログラムを開発する必要がある。特に複雑な海底地形である日本周辺海域において、根拠付けて脚部を決定するのは図54、図55のとおり困難であり、また世界的にも標準の手法が開発されていない。
 
図54 脚部の概念
(海上保安庁海洋情報部Web Siteより)
 
図55 実際の海底地形断面
 
反証データ
 上記のとおり海底地形のみから脚部の決定は困難である。また「大陸棚の限界に関する科学的および技術的ガイドライン」では大陸棚脚部が一義的に決定しない場合は様々な地球物理データをもとに反証しても良いとされている。そこでマルチビームデータのみで決定した大陸棚脚部を他の地球物理データで検証することで、説得力を向上させることができると考えられる。
 また現在、大規模な構造探査も常時行われているが、その解析結果である地殻構造のみからは大陸性地殻と海洋性地殻の境界を決定付けることは脚部と同様に困難である。そのためドレッジ等による底質試料等と合わせ、地殻の成因を知ることにより、大陸性地殻の限界線を決定しようと、研究者が議論している。
 脚部も大陸性地殻と海洋性地殻の境界も1つのデータから決定するのは困難であり、多くの情報から決定しなければならない。まずはデータ量の多い重力や地磁気のデータを組み合わせ、反証データを作成し、反証手法を開発する必要がある。
 
面的な地殻構造の予測
 地殻構造探査では反射法・屈折法ともに、調査船が航行した測線の直下の断面データが得られる。しかし大陸棚限界画定では大陸性地殻の面的な広がりを把握しなければならない。そこでマルチビーム音響測深で得られた面的なデータとデータ量の多い重力のデータを合わせ、地殻構造探査で得られた大陸性地殻と海洋性地殻の境界を面的に予測する手法を開発する必要がある。
 
マルチビームデータのデータマネージメント
 大陸棚限界画定において大量のマルチビームデータが必要となる。その大量のデータを処理するためには、解析担当者も複数人必要である。そのような場合に必要となるのはデータの管理である。
 マルチビームデータ処理の各工程で、中間・最終データ出力と同時にログデータを出力し、それをメタデータで管理することにより、ファイル名の検索、ユーザーが設定した条件に合致するデータの地図表示等が可能になる。
 
その他データのファイリング、公開
 大陸棚調査データにはマルチビームデータ以外にも屈折法構造探査データ、反射法構造探査データ、底質試料分析結果などがある。これらを最終結果または中間データをマルチビームデータと共に管理し、常時閲覧可能にすることにより、新たな知見を得られる可能性がある。そのためにはデータのファイリングが必要となる。
 
参考文献
*1 財団法人日本水路協会(2004):海底面画像データを用いた底質分類及び地形歪み除去に関する研究 その2
*2 柴山信行(2003):外縁線計算手法の提案、海洋情報部技法 Vol.21
*3 辰野忠夫(1989):積分法による測地計算、水路部研究報告 第25号


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