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第2章 研究の内容
 わが国周辺は、世界でもっとも地形が複雑な地域であり、海底にも様々な構造がある。このため大陸棚限界画定には、様々な考え方により限界線案を検討する必要があり、その作業は煩雑かつ膨大である。このような作業を効率よく処理するためには専用のソフトウェアの開発が必要不可欠である。
 このため、財団法人日本水路協会ならびに海上保安庁海洋情報部のご指導のもと、以下を目的としソフトウェアを開発した。
 開発したプログラムはマルチビームデータ処理プログラム群および大陸棚限界線描画プログラム群の2種類である。
 
(1)マルチビームデータ処理プログラム群
・音速度補正プログラム
・ノイズ除去プログラム
・グリッド化プログラム
・グリッド補間、既存グリッドの挿入プログラム
・グリッドの平面、3次元表示プログラム
(2)大陸棚限界線描画プログラム群
・基準線から任意距離の円弧描画プログラム
・大陸棚外側の限界線の自動選択プログラム
・60海里ショートカットの最適化プログラム
 
 大陸棚限界線画定において、脚部や2500m等深線を決定するためには、詳細で正確な水深値を得る必要がある。マルチビームデータ処理プログラムは過去様々な形で提供されているが、大陸棚限界確定のための詳細な検討を加えたものは存在しなかった。そこで大陸棚限界画定に必要な、より正確で詳細な水深データを得るためのデータ処理を可能とするプログラムを開発した。マルチビームデータ処理の流れを図1に示す。本研究ではこの図1において緑色で示した工程のプログラムを開発した。
 ピングデータは測得水深のデータである。マルチビーム音響測深機のデータは多種あり、全てのデータに対応したデータ処理プログラムを作成するのは困難である。そこで多種のマルチビームデータを独自のバイナリデータであるピングデータにフォーマット変換することにより、一連のプログラムで全種類のデータを扱えるようになる。ピングデータには調査船の位置、時刻、水深、水深点の調査船からの縦横距離、調査船の動揺、調査船のヘディング、音速度プロファイル、潮位、喫水、その他が記載されている。
 これらのデータから正確な水深を得るために、ピングデータの測位編集、潮位補正、音速度補正およびノイズ除去により補正する。
 全ての補正が終了したピングデータを使用し、独自のバイナリデータであるグリッドデータを作成する。これにはピングデータをグリッド化する工程とグリッドデータを補間する工程が含まれる。
 グリッドデータは一定の緯度・経度間隔で水深値が並んだデータである。各グリッドはグリッドサイズ分の辺の長さを持つ長方形または正方形として表され、水深値はその中央に位置する。グリッドデータにはグリッドの位置、水深、その他が記載されている。
 次に作成したグリッドデータを可視化する。その際、グリッドデータから独自のバイナリデータである等深線データを作成し、同時に描画する。
 本報告書では1つのデータファイル全体をピングデータ、グリッドデータと呼び、データファイル内の各データをピング、グリッドと呼ぶ。
 
図1 マルチビームデータ処理の流れ
 
 大陸棚縁辺部の定義は海洋法第76条に制限線および定則線として定義されている。本研究では、大陸棚限界線データを作成するために、大陸棚限界線描画プログラム群を開発した。これらによって、海洋法第76条において整備する必要があるとされている表1に示すデータを基礎データから作成できる。
 
表1 整備すべきデータ
データ種類 以降使用する略称
制限線 基線から350海里の線 350海里線
2500m等深線から100海里の線 100海里線
定則線 傾斜最大変化線(以降「脚部線」)から60海里の線 60海里線
(堆積層厚)/(脚部からの距離)=1%の線 1%線
200海里線 200海里線
 
 基礎データは以下のものである。
 
・基線
・水深2500m等深線
・水深グリッド
・堆積層厚
 
 表1のデータを整備するための、大陸棚限界線描画の流れを図2に示す。
 まず基線データからそれぞれ半径200海里および350海里の円弧を計算し、200海里線と制限線である350海里線を決定する。
 次に等深線データから2500m等深線を抽出し、そこから半径100海里の円弧を計算する。これにより制限線である100海里線を決定する。
 次に水深グリッドデータから脚部を決定する。これにはグリッドの平滑化、傾斜変化率の計算および傾斜最大変化率の抽出の工程が含まれる。これで決定した脚部線から半径60海里の円弧を計算することにより、定則線である60海里線を決定する。また脚部線と堆積層厚から定則線である1%線を決定する。
 本研究では図2において緑色で示した工程のプログラムを開発した。
 
図2 大陸棚限界線描画の流れ
 
 表1に示した大陸棚限界画定に使用するデータを、すべて同一フォーマットの連続線分データとして統一した。この連続線分データから、後に必要な緯度・経度情報を抽出するため、連続線分データを扱いやすいテキストデータとした。


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