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第3章 まとめ及び今後の課題
3.1 研究成果のまとめ
 本研究は、狭水道において海洋短波レーダーによる面的に詳細な観測を行い、潮流予測精度を向上させる目的で実施したものである。併せて、船舶の航行の安全に寄与するため、面的に詳細な潮流予測システムの構築を行った。本研究の成果は、以下のように要約される。
(1)研究対象海域である鳴門海峡周辺の海洋短波レーダーによる現地観測は、北側海域、南側海域に分けて実施し、計画通りの観測が実施できた。
(2)短波レーダーの視線方向流速として、最大流速は333cm/sが観測された。
(3)観測データについて、方向分解能を1度と5度で解析した結果、1度の方が標準偏差は大きくなるが、強流速の抽出には適していることが示された。これは、観測データ取得範囲が広いほど、平均化により観測値が低減することに起因するものと考えられる。
(4)精度検証として行った、2局の共通視線方向の比較結果は、ラジアルファイルの方向分解能を5度にした場合、標準偏差は平均で20cm/s程度が示された。方向分解能を1度にした場合は、前述のとおり標準偏差が大きくなり、最も小さい比較レンジでも30cm/s程度の値であった。
 ADCP観測値との比較による精度検証によると、方向分解能5度のケースでは、流速が約lm/s程度までの標準偏差は25cm/s程度であった。強流域を観測したADCPデータとの比較では、海洋短波レーダーは小さい値の結果を示した。この要因は、機器の違いによる計測方向の違いとともに、短波レーダーは距離が遠いほど平均化される範囲が広がり、観測値が低減化することが考えられる。
(5)短波レーダーの観測生データは、7分間平均の5分間隔で収録されているが、解析用データの作成パラメータとしては、方向分解能1度、平均化時間27分、データ作成間隔20分が妥当と考えられる。また、解析に使用する合成ベクトルは、格子点で平均化するデータ範囲が小さいほど、流況把握に適していると考えられることから、80%以上のデータ作成率の中から、半径が200m、300m、400mの順で採用した。
(6)500m間隔で設定した格子点におけるベクトルデータの最大流速は、鳴門大橋の北側約500m地点で出現し、330cm/sの北西流であった。
(7)調査海域に設定した約180点の格子点において、調和分解計算を行い潮流調和定数の算出を行った。計算結果により、水道部の両側に形成される環流域などが、面的に詳細に把握できたと考えられる。
(8)格子状の面的な調和定数を使用した潮流予測システムを構築した。予測システムによる流況再現と、現地観測結果との整合は良好であったと考えられる。
 
3.2 今後の課題
 強潮流域における海洋短波レーダーによる流況観測は、世界的にも観測事例が非常に少なく、本研究の鳴門海峡の観測は貴重なデータを取得したものと考えられる。本研究の成果は、既往の資料との整合を図ることにより、非常に有効に活用できるものと考えられる。ただし、ADCPデータとの比較においては、強流速抽出の課題も残された。本研究において、強流速を観測するため、方向分解能の細分化や、測定範囲拡大のソフトの改良を試み、一定の成果は得られたものの、まだ十分ではないと考えられる。強流速の観測には、観測局からの視線方向や、距離なども重要な条件と考えられ、データ解析においては、ノイズ除去パラメータの決定方法も重要な要素と考えられる。また、合成ベクトルを作成方法についても、視線方向データによる交点での計算を行うことにより、より強流速が抽出できると可能性がある。今後においては、海域条件に合致した最適な観測方法を検討し、さらに精度の高い成果を取得することに努力したい。


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