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2.2.5 ベクトルファイルの作成
 ベクトルファイルは、当該海域に格子状に配置した格子点の流向、流速データを収録したものである。ベクトルファイルの作成方法は、格子点周辺で観測された二つの観測局のラジアルファイルを合成している。ベクトルファイルの作成手順を図2.2.5.1に示す。
 
図2.2.5.1 ベクトルファイルの作成手順
 
1)格子点位置の配置
 本研究で使用した42MHzの短波レーダーは、距離分解能が500mであることから、格子間隔も500mに設定した。格子点の座標原点は、鳴門海峡中央部の北緯34°14′、東経134°39′とし、WGS84系の地球楕円体を使用した。ベクトルファイルは、緯度・経度の値とともに、座標原点を0とした距離座標でも収録されている。
 
2)ベクトルファイルの作成
 ベクトルファイルの作成概念を図2.2.5.2、図2.2.5.3に示す。ベクトルファイルは、最初に各観測局のラジアルファイルの平均化が行われる。これは、格子点を中心として円形の範囲を設定し、この円内で観測された視線方向流速を全て使用して平均化計算するものである。
 
図2.2.5.2 格子点のベクトル生成
 
図2.2.5.3 A局からの視線方向速度
 
 視線方向速度ベクトルを求める平均化計算の基本算定式を以下に示す。
 
 
図2.2.5.4 格子点の合成ベクトル
 
 格子点の合成ベクトルは、二つの観測局からの視線方向速度ベクトルの合成で求められる。図2.2.5.4に示す東方分速(Vu)、北方分速(Vn)及び合成ベクトルの流速(VS)、流向(θ)は次式で求められる。
 
 
 
3)格子点のデータ平均範囲の設定
 ベクトルファイルは、複雑な流況変動を把握するためには、高い測得率で、なるべく小さい範囲の設定が望ましい。ベクトルファイルを作成するにあたり、格子点においてラジアルファイルを平均化する範囲を検討した。ベクトルファイル作成に用いるラジアルデータの計算パラメータは、方向分解能1度、平均化時間27分を採用し、出力間隔は20分とした。図2.2.5.5に格子点を中心に円形の半径を変化させたベクトルファイルの作成率を示す。図の青色は80%以上、緑色は50%〜80%、赤色は50%未満の作成率であり、印のない地点は1個もベクトルファイルが作成されない地点である。円形範囲を大きくすると、狭い水道部では強流データも平均化により低減することになる。そこで、小さい半径で80%以上のデータ作成率を優先してベクトルファイルを作成した。ベクトルファイルは、2局からの交差角が30〜150度の格子点について作成し、北側海域のベースライン付近で交差角が150度以上の格子点では、もう一方の観測局の組み合わせによりベクトルファイルを作成した。また、南側海域のベースライン付近は範囲が狭いため、補間法を用いてベクトルファイルを作成した。このベクトルファイルの採用した半径と、北側海域の観測局の組み合わせを図2.2.5.6に示す。図に示す丸印は32昼夜、半丸の格子点では15昼夜のベクトルファイルを作成した。
 
図2.2.5.5(1)北側海域の合成ベクトル作成率
 
図2.2.5.5(2)南側海域の合成ベクトル作成率
 
図2.2.5.6 ベクトルファイル作成範囲と観測局の組み合わせ
 
(北側海域)
 
(南側海域)


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