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1.3 従来の実験成果とわが国の現状
(1)ホームと車両の段差に関する寸法の検討
 ホームと車両の段差については、平成13年3月と12月に(社)日本鉄道車両機械技術協会が報告書をまとめている。具体的な内容として、国土交通省が検討を進める技術基準、解釈基準に資するため、現状の車両床面とホームとの段差の実態把握、段差縮小にあたっての問題点、および段差縮小の可能性についての調査・検討を実施した。この報告書によると、車両構造上の床面高さに関する調節機構と車両が沈みこむ原因など物理的要因と地上側の要因として、都市圏・地方線区におけるホーム高さの分布をまとめている。さらに、12月版では前年度の調査結果をもとに、段差を縮小するため、健常者を対象とした段差について、乗降客側から見た評価実験検証を行い、具体策をまとめている。
 この研究報告では、段差の縮小の困難さ、ホーム施設側の不統一の現状と問題点等を踏まえ、更に問題点の解決策の困難さを認識しつつも、今回の検証作業では、車いす利用者、目の不自由な人等から見た段差及び隙間の寸法的要望点がどのレベルにあるのかを明確にした点では非常に重要であると考えられる。実際、本研究を遂行する上でも、段差の高さ寸法、車両とホームの隙間寸法を確定するのにこの報告書は大いに参考となった。今後、この報告書で指摘された点と今回の検証結果の歩み寄りによって、更なる改善策を考慮する必要がある。
 
(2)日本国内の実情
 日本国内においても、平成12年に高齢者、身体障害者等の公共交通機関を利用した移動の利便性及び安全性の向上を目的とする「交通バリアフリー法」が公布された。同法では、旅客施設の新設・大改良及び車両等の新規導入に際しての移動円滑化基準への適合を義務づけており、既設の旅客施設・車両等についても移動円滑化基準に適合させるよう努めなければならないこととされている。
 また、平成13年には、「障害者・高齢者向けモデル車両デザインに関する調査」(平成12年度日本財団助成事業)報告書において、交通事業者等が公共交通機関の車両等の整備を進めていく際のモデルデザインを策定している。該モデルデザインは、公共交通機関の車両等が該モデルデザインに沿って、着実かつ統一的に進められることを期待したものとなっている。
 以下に「交通バリアフリー法」の移動円滑化基準と上述のモデルデザインの内容を示す。鉄道の乗降口について、「移動円滑化基準」では、次の4点を守ることとしている。
(1)旅客用乗降口のうち1列車ごとに1以上は、有効幅80cm以上であること。ただし、構造上の理由によりやむを得ない場合は、この限りではない。
(2)旅客用乗降口の床面は、滑りにくい仕上げがなされたものであること。
(3)旅客用乗降口の戸の開閉する側を音声により知らせる設備が設けられていること。
(4)車内の段の端部とその周囲の部分との色の明度の差が大きいこと等により、車内の段を容易に識別できるものであること(図1-3にアイルランドの鉄道でのLEDを導入した事例を示す)。
 
図1-3 判別しやすい乗降部の例(アイルランド)
 
 さらに旅客用乗降口の段差、隙間に関しては、次の2点を守ることとしている。
(1)旅客用乗降口の床面の縁端とプラットホームの縁端との間隔は、鉄道車両の走行に支障を及ぼすおそれのない範囲において、できる限り小さいものであること。
(2)旅客用乗降口の床面とプラットホームとは、できる限り平らであること。
 
(3)モデルデザイン
 モデルデザインでは、各交通機関別の現状における制約条件や技術開発の動向を考慮し、比較的容易に実現可能な「モデルデザイン」と実現に向けた開発や制度の見直し等の検討課題の多い「さらに望まれる内容」の2つのレベルに分けて提案している。
 旅客用乗降口の段差、隙間に関する「モデルデザイン」として、2つの移動円滑化基準に加えて、「必要に応じ、車椅子スペース近傍の乗降口に、簡易スロープ等の装備を搭載する。」として、段差解消設備の準備を提唱している。「さらに望まれる内容」では、次の3点を加えている。
(1)車椅子スペース近傍の乗降口に、車椅子が円滑に乗降するための補助設備を設ける。
(2)ホームが曲線の場合は隙間が大きくなるため、視覚障害者のために音声で、聴覚障害者のために光で注意を喚起する。
(3)ドアのレールの出っ張りを解消する構造の開発に取り組む。
 これは、自動段差解消設備の設置、曲線部分の隙間に音と光で注意する設備の設置、乗降時につまずくレールの出っ張りを解消することを提唱している。
 さらに該調査研究の中で、異なる移動制約者が、旅客用乗降口において問題なく乗降できる段差、隙間、勾配について、各種文献や法令を調査した。収集したデータより、以下のようなことがわかった。
(1)基準値としては、段差については、20mmまたは50mmが多数あげられており、隙間については、50mmが多数あげられている。
(2)車椅子には転倒防止機能がついており、メーカによって差異はあるが、42mm以上は前輪が上がらないように設計されている車椅子がある。
(3)電動車椅子のJIS規格では、屋外用電動車椅子の段差乗り越え試験が40mmの段差で行われている。
 
(4)最新の動向
 まず、ホームと車両との隙間から転落を防ぐために可動式ホーム柵と可動ステップが設置された例がある(平成17年2月現在)。
 東京メトロ丸ノ内分岐線の中野新橋駅と中野富士見町駅は、カーブ駅であるため、ホームと車両との隙間が大きくなる。このため、この箇所に平成16年5月から可動ステップを設置し、隙間からの転落を防いでいる。また、丸ノ内分岐線ではワンマン運転を実施しており、列車が到着すると運転士のドア操作で可動ステップが張出し、その後可動式ホーム柵と車両のドアが開く仕組みになっている。可動ステップが張り出したことにより隙間は50mmまで減少される。
 この仕組みは、乗降終了後に車両ドアと可動式ホーム柵が閉じられ、その後可動ステップが格納されて列車は出発する。ただし、この可動ステップは隙間からの転落防止を目的としたもので車両とホームの段差を解消するものではない。
 さらに、最近では一部のホームがマウントアップする形で段差を解消したり(図1-7)、ドアレールを一部切り取って段差解消しており(図1-8)、車両・ホーム両面に渡って段差・隙間の解消に向けた努力をしている。
 
図1-4 車両とホームの隙間
(列車到着時で可動ステップが張り出す前)
 
図1-5 可動ステップ装置単体
(可動ステップはホーム先端に埋め込まれ、台形部分が張り出したステップ部分となる)
 
図1-6 可動ステップが張り出した状態
 
図1-7 ホーム側による段差解消
 
図1-8 ドアレールの一部段差解消


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