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平成17年横審第77号
件名

モーターボートかしまし娘同乗者負傷事件

事件区分
死傷事件
言渡年月日
平成17年12月20日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(小寺俊秋,西田克史,浜本 宏)

理事官
小金沢重充

受審人
A 職名:かしまし娘船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
同乗者が全治2箇月の第1腰椎圧迫骨折

原因
他船の航走波に対する措置不十分

主文

 本件同乗者負傷は,他船の航走波を乗り切る際,十分に減速しなかったことによって発生したものである。
 受審人Aの小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年8月4日11時00分
 神奈川県江ノ島南西方沖合
 (北緯35度17.7分 東経139度28.4分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 モーターボートかしまし娘
全長 6.50メートル
機関の種類 電気点火機関
出力 44キロワット
(2)設備及び性能等
 かしまし娘は,B社が製造し,型式UF21カディと称する最大搭載人員6人のFRP製プレジャーモーターボートで,中央部に前方を風防で覆った操縦席を有し,船首,船尾及び操縦席の前部に物入れが設けられ,それぞれの物入れの上面がハッチで閉じられており,Cマリーナにおいて賃貸しに供されていた。
 また,UF21カディの性能データによると,6人が搭乗した場合の全速力前進は,機関の回転数毎分5,435で24.4ノットの速力(対地速力,以下同じ。)となり,17.0ノットで航走するときの機関の回転数は毎分約4,400であった。

3 事実の経過
 かしまし娘は,A受審人が賃借して1人で乗り組み,知人5人を同乗させ,釣りの目的で,船首0.05メートル船尾0.10メートルの喫水をもって,平成15年8月4日09時30分Cマリーナを発し,同マリーナ西方沖合の釣り場に向かった。
 発航後,A受審人は,一旦(いったん),Cマリーナ沖合の出入航針路を示すブイに沿って南西方に約1.5海里南下したのち,北西方に反転して七里ヶ浜沖合に至り,10時10分江ノ島灯台から083度(真方位,以下同じ。)2,330メートルの地点に錨泊し,同乗者とともに釣りを開始した。
 A受審人は,釣果が思わしくないので釣り場を移動することとし,10時35分前示錨泊地点を発進して江ノ島南東方沖合に向かい,10時45分江ノ島灯台から115度830メートルの地点で,漂泊を開始して釣りを再開したが,相変わらず魚信がほとんどなかったので,同島西方約3海里の烏帽子岩付近に向かうこととした。
 A受審人は,同乗者の2人を操縦席前部の物入れの両舷に,他の3人を船尾の物入れにそれぞれ座らせ,同乗者に航走中の動揺等に対する注意を与えないまま,操縦席に立って操船に当たり,10時57分前示漂泊地点を発進して徐々に増速しながら南下し,10時58分少し過ぎ江ノ島灯台から144度800メートルの地点で,針路を279度に定め,機関を回転数毎分約4,400にかけ,17.0ノットの速力とし,手動操舵により進行した。
 ところで,同乗者Dは,操縦席前部の物入れの右舷側に右舷船尾方を向いて座り,左手で右舷船首船縁(ふなべり)を掴み(つかみ),右手で操縦席の外壁に取り付けてあるストームレールを握っていた。
 A受審人は,かしまし娘の船体が風浪でバウンドし,同乗者の1人が尻を叩かれるので減速するように求めたが,それ程過大な速力ではないと思っていたので減速しないまま,時折,江ノ島南岸沖合に点在しているたこつぼの設置を示す漁具や,付近を遊走しているプレジャーボート等を避けながら続航した。
 A受審人は,11時00分少し前波高約40センチメートル(以下「センチ」という。)の他船の航走波が左舷船首方から近づき,同波を乗り切る状況となったとき,同波を原速力で乗り切ると急激な動揺や衝撃を受けるおそれがあったが,これくらいの波高なら減速しないで乗り切っても大丈夫と思い,十分に減速しないまま進行中,11時00分江ノ島灯台から221度700メートルの地点において,かしまし娘は,南西方を向首したとき同波をほぼ直角に乗り切って大きくバウンドし,同乗者が跳ね上げられた。
 当時,天候は晴で風力2の南西風が吹き,潮候は下げ潮の中央期で,風浪の波高は約20センチであった。
 その結果,D同乗者が落下時に臀部を強打し,3週間の入院加療を要する全治2箇月の第1腰椎圧迫骨折を負った。

(本件発生に至る事由)
1 同乗者に航走中の動揺等に対する注意を与えなかったこと
2 船体が風浪でバウンドしながら航走していたこと
3 それ程過大な速力でないと思っていたこと
4 付近の海域に他船の航走波があったこと
5 これくらいの波高なら減速しないで乗り切っても大丈夫と思ったこと
6 十分に減速しなかったこと
7 船体が大きくバウンドしたこと
8 同乗者が跳ね上げられて落下時に臀部を強打したこと

(原因の考察)
 本件は,他船の航走波を乗り切る際,十分に減速していれば発生を避けられたものと認められる。
 したがって,A受審人が,これくらいの波高なら減速しないで乗り切っても大丈夫と思い,十分に減速しないまま他船の航走波を乗り切り,船体が大きくバウンドし,同乗者が跳ね上げられて落下時に臀部を強打したことは,いずれも本件発生の原因となる。
 A受審人が,同乗者に航走中の動揺等に対する注意を与えなかったことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,これは,海難防止の観点から,是正されるべき事項である。
 A受審人が,当時の風浪の状況下で航走中,それ程過大な速力でないと思っていたことは,他船の航走波を乗り切る際に十分に減速しなかったことの心理的な背景の一つといえるが,原因とするまでもない。
 船体が風浪でバウンドしながら航走していたこと及び付近の海域に他船の航走波があったことは,いずれも本件発生に関与した事実であるが,原因とならない。

(海難の原因)
 本件同乗者負傷は,神奈川県江ノ島南西方沖合において,釣り場を移動中,他船の航走波を乗り切る際,減速が不十分で,船体が大きくバウンドし,同乗者が臀部を強打したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,神奈川県江ノ島南西方沖合において,釣り場を移動中,他船の航走波を乗り切る場合,急激な動揺や衝撃を避けることができるよう,十分に減速すべき注意義務があった。しかるに,同人は,これくらいの波高なら減速しないで乗り切っても大丈夫と思い,十分に減速しなかった職務上の過失により,船体が大きくバウンドし,同乗者が跳ね上げられて落下時に臀部を強打し,3週間の入院加療を要する全治2箇月の第1腰椎圧迫骨折を負う事態を招くに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。

 よって主文のとおり裁決する。





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