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平成17年那審第18号
件名

漁船寶進丸乗組員行方不明事件

事件区分
死傷事件
言渡年月日
平成17年11月10日

審判庁区分
門司地方海難審判庁那覇支部(平野研一,加藤昌平,坂爪 靖)

理事官
熊谷孝徳

受審人
A 職名:寶進丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
転落した乗組員が行方不明

原因
揚縄作業中の安全措置不十分

主文

 本件乗組員行方不明は,揚縄作業中の安全措置が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aの小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年11月20日19時30分
 沖縄県沖縄島喜屋武埼南東方沖合
 (北緯23度22分 東経129度55分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 漁船寶進丸
総トン数 9.7トン
登録長 11.80メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 354キロワット
(2)設備及び性能等
 寶進丸は,昭和62年1月に進水した一層甲板型FRP製漁船で,甲板上には,船首側から前部甲板,操舵室,船員室及び後部甲板が,甲板下は,船首側から3つの前部船倉,機関室及び後部船倉が,それぞれ配置されていた。そして,船員室前面から後方の両舷通路は,囲いで覆われ,舷側には,高さ90センチメートル(以下「センチ」という。)のブルワークがあり,前部甲板右舷側には,幅69センチの舷門を備え,航行中は,海中転落防止のため,高さが62センチの上方から差し込む差し板を設置し,操業中は,同差し板に代えて,高さ30センチの嵌め板を差し込み,揚縄作業の際は,同嵌め板を取り外していた。また,同舷門付近には,床面の滑り防止のため,ラバーを敷いていた。
 また,船首マストと船員室前部のデリックポストに各1個,右舷通路上方の手すりに3個の200ワット及び100ワットの作業灯が,それぞれ取り付けられ,前部甲板,舷門及び同門付近の海面を照らしていたほか,船員室後壁右舷側にラインホーラを装備し,後部甲板右舷側開口部に移動式の遠隔管制器を備え,同甲板において操業中の操船が可能で,最大速力は,機関回転数毎分1,300の8.5ノットであった。

3 事実の経過
 寶進丸は,A受審人及び甲板員Bほかインドネシア人研修生1人が甲板員として乗り組み,まぐろはえ縄漁の目的で,船首0.5メートル船尾1.8メートルの喫水をもって,平成16年11月18日15時30分沖縄県那覇港泊漁港を発し,同県沖縄島喜屋武埼南東方沖合約200海里の漁場に向かい,翌々20日06時35分同漁場に至って投縄を開始した。
 ところで,B甲板員ら2人が従事する漁ろう作業は,沖縄県那覇市が企画し,C組合に委託した,外国人に対する漁業研修として行われ,C組合所属の船主が,3年間の予定で研修生を甲板員として雇い入れ,漁ろう実務の指導にあたるものであった。
 A受審人は,これまで,2人のインドネシア人研修生を受け入れた経験を有し,平成16年7月にB甲板員を3人目の研修生として受け入れて乗船させ,自ら漁ろうに従事しながら,同甲板員に対して漁ろう実務の指導にあたっていた。
 B甲板員は,平成16年4月に来日し,3箇月の語学研修ののち,同年7月寶進丸に乗船し,約3箇月の漁ろう作業及び船内生活を経験していた。
 寶進丸の操業方法は,50メートル間隔で釣針の付いた23本の枝縄をスナップフックで幹縄に取り付け,計1,000本の枝縄で全長約27海里となった幹縄の投縄に3時間,縄待ちに3時間30分,その後8時間かけて揚縄することとしており,右舷船首45度方向から縄を取り込めるよう,遠隔管制器でクラッチを調整しながら操船し,ラインホーラで幹縄を巻き込み,まぐろが掛かった枝縄が上がると機関を中立とし,継縄にかけた枝縄を持って前部甲板に移動して,差し板と嵌め板を取り外した舷門からフック付きの竹竿で引き上げていた。
 沖縄南方海上には,前々日18日から,海上強風警報が発表され,波高3メートルの波浪により船体が動揺していたところ,20日13時30分A受審人は,嵌め板を取り外し,揚縄作業を開始したのち,食事休憩を挟んで同作業を続け,まぐろ800キログラムを獲て,18時00分喜屋武埼灯台から143度(真方位,以下同じ。)200海里の地点で,各作業灯をそれぞれ点灯し,針路を140度に定め,幹縄を揚げながら,3.0ノットの対地速力で,進行した。
 定針したとき,A受審人は,前部甲板右舷側の舷門で揚縄作業を続けると,まぐろが掛かった枝縄に引っ張られて海中に転落するおそれがあったものの,2人の甲板員が,漁ろう作業に十分慣れたものと思い,同甲板上に安全索を張って海中転落の防止を図ったり,乗組員に作業用救命衣を確実に着用させるなど,揚縄作業中の安全措置を十分にとることなく,自らも同救命衣を着用しないで作業を続けた。
 その後,A受審人は,まぐろが掛かった枝縄を認めたので,19時28分機関を中立として行きあしを止め,ゴム合羽及びゴム長靴に野球帽を身に付けて作業用救命衣を着用しないままのB甲板員が同縄を持って前部甲板に移動し,舷門で右舷側を向いて,まぐろが掛かった枝縄を引き寄せ,同人の右側で,他の甲板員がフック付きの竹竿でまぐろを引っ掛け,さらにその右側で,A受審人が,まぐろにとどめを刺すのに備え,もりを打つ態勢で舷側から身を乗り出して海面を見ていたところ,B甲板員が,同縄に引っ張られて身体の平衡を崩し,19時30分喜屋武埼灯台から143度204海里の地点において,同舷門から海中に転落した。
 当時,天候は晴で風力5の北東風が吹き,波高3メートルの波浪があり,日没は17時45分であった。
 A受審人は,B甲板員を助けるために飛び込んだ,他の甲板員を舷門から引き上げたのち,直ちに幹縄を切断して捜索を開始し,僚船及び沖縄県漁業無線局を通じ,海上保安庁に救助を求めた。
 その結果,来援した僚船2隻,海上保安庁の巡視船及び航空機とともに2日間捜索を続けたが,B甲板員を発見することができず,同甲板員は行方不明となった。

(本件発生に至る事由)
1 波高3メートルの波浪により船体が動揺していたこと
2 B甲板員が,漁ろう作業に十分に慣れていなかったこと
3 揚縄作業中,舷門の差し板及び嵌め板を外していたこと
4 B甲板員が,作業用救命衣を着用していなかったこと
5 甲板上に安全索を張って海中転落の防止を図ったり,乗組員に作業用救命衣を確実に着用させるなど,揚縄作業中の安全措置をとらなかったこと
6 B甲板員が,まぐろが掛かった枝縄に引っ張られて海中に転落したこと

(原因の考察)
 本件は,外国人研修生であるB甲板員が,舷門で揚縄作業中に,まぐろが掛かった枝縄に引っ張られて海中に転落する事態に至ったもので,甲板上に安全索を張って海中転落の防止を図ったり,作業用救命衣を確実に着用させるなど,揚縄作業中の安全措置を十分にとり,作業用救命衣が着用されていれば,海中に転落し,行方不明となる事態を回避できたものと認められる。
 したがって,A受審人が乗組員に舷門で揚縄作業を行わせるとき,甲板上に安全索を張って海中転落の防止を図ったり,作業用救命衣を確実に着用させるなど,揚縄作業中の安全措置をとらなかったこと及びB甲板員が作業用救命衣を着用していなかったことは,いずれも本件発生の原因となる。
 波高3メートルの波浪により船体が動揺していたこと及び揚縄作業中,舷門の差し板及び嵌め板を外していたこと,B甲板員が,漁ろう作業に十分に慣れていなかったことは,いずれも本件発生に至る過程において関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,これらは海難防止の観点から是正されるべき事項である。

(海難の原因)
 本件乗組員行方不明は,夜間,沖縄県沖縄島南東方沖合において,まぐろはえ縄漁に従事して揚縄作業中,安全措置が不十分で,前部甲板右舷側の舷門で作業中の乗組員が,身体の平衡を崩し,同舷門から海中に転落したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,夜間,沖縄県沖縄島南東方沖合において,まぐろはえ縄漁業に従事中,前部甲板右舷側の舷門で揚縄作業を行わせる場合,まぐろが掛かった枝縄に引っ張られて海中に転落するおそれがあったから,同甲板上に安全索を張って海中転落の防止を図ったり,乗組員に作業用救命衣を確実に着用させるなど,揚縄作業中の安全措置を十分にとるべき注意義務があった。しかるに,同人は,2人の甲板員が,漁ろう作業に十分慣れたものと思い,揚縄作業中の安全措置を十分にとらなかった職務上の過失により,枝縄に引っ張られた甲板員1人が身体の平衡を崩して同舷門から海中に転落し,同甲板員を行方不明とさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。

 よって主文のとおり裁決する。





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