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平成17年横審第78号
件名

貨物船さんふらわあとまこまい機関損傷事件

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成17年12月20日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(浜本 宏,田邉行夫,岩渕三穂)

理事官
相田尚武

指定海難関係人
A 職名:B社船舶部海工務担当調査役

損害
発電機原動機のピストン,シリンダヘッド,シリンダライナ,過給機のノズルリング及びタービン翼などの損傷

原因
保船管理者が,入渠工事における整備業者に対する指示不適切

主文

 本件機関損傷は,発電機原動機のピストン冷却空洞の鋼製底ふた取付けボルトが緩んで脱落し,同ふたが外れ落ち,ピストン冷却油が冷却空洞内に滞留しなくなり,ピストン頂部の冷却が阻害されたことによって発生したものである。
 保船管理者が,発電機原動機ピストンの入渠工事における整備業者に対する指示が適切でなかったことは,本件発生の原因となる。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年12月9日01時55分
 千葉県洲埼灯台北西方沖合
 (北緯35度00.2分 東経139度43.2分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 貨物船さんふらわあとまこまい
総トン数 12,526トン
全長 199.95メートル
機関の種類 4サイクルV型18シリンダ・ディーゼル機関
出力 47,660キロワット
回転数 毎分430
(2)設備及び性能等
ア さんふらわあとまこまい
 さんふらわあとまこまい(以下「とまこまい」という。)は,平成11年4月進水し,限定近海を航行区域とする鋼製自動車渡船で,主機として,C社が製造したNKK-S.E.M.T.-PIELSTICK18PC4-2B型と呼称する,ディーゼル機関2機が船体のほぼ中央上甲板下の主機室に据え付けられていて,同室と船首側隔壁を挟んだ発電機室には,発電機原動機(以下「補機」という。)として,右舷側から順番号が付された3機(以下,1号機,2号機及び3号機と呼称する。)のディーゼル機関と,D社が製造した,電圧450ボルト容量1,687.5キロボルトアンペアの船内電源用三相交流発電機が据え付けられており,船橋に主機遠隔操縦,可変ピッチプロペラ翼角変更などが行える機関監視制御盤が設置されていた。
イ 補機
 補機は,いずれもE社が製造した6N260L-GN型と呼称する,間接冷却方式の,シリンダ内径260ミリメートル(以下「ミリ」という。)行程360ミリ,計画出力1,471キロワット同回転数毎分720のフライホイール側架構上部に過給機が付設された,4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関で,各シリンダにはフライホイール側にあたる船首側から順番号が付されていた。
ウ 補機のピストン
 補機のピストンは,鋳鉄製一体型で,ピストン頂部にはピストン冷却油が流れ込む冷却空洞が設けられており,幅49ミリ長さ77ミリ厚さ4.5ミリの鋼製底ふた(以下「ピストンふた」という。)2枚が,緩み止めの皿ばねを挟み,各4本ずつ呼び径8ミリの取付けボルトで,同空洞底部の左右各舷側の穴を塞ぐ(ふさぐ)ように取り付けられていて,左舷側のピストンふた中央には,右舷側の同ふたにはない,直径20ミリの油穴が設けられていた。
エ 補機潤滑油系統
 補機潤滑油系統は,各機それぞれ,総量1,700リットルの潤滑油が各機のサンプタンクから直結潤滑油ポンプによる強制潤滑方式で吸入・加圧され,潤滑油主管から主軸受,弁腕注油,カム軸駆動歯車等の各経路に送油されて,いずれの経路の潤滑油も油受に戻るようになっており,ピストンとシリンダライナとの摺動部(しゅうどうぶ)の潤滑がクランクアームの回転によるはねかけで行われるようになっていた。
オ 補機のピストン冷却油
 補機のピストン冷却油は,主軸受からクランク軸,クランクピン軸受などに順次通油された潤滑油が,連接棒内管を経て,連接棒小端部のピストンピン挿入穴の周囲に加工された幅12ミリの溝を経由し,ピストンピン軸受から冷却空洞へ流れる系統と連接棒上端のノズルから噴油される系統とに分岐される。
 ピストンピン軸受からの潤滑油が,ピストンピンの外径部から内径部への4本の工作穴を経て,同内径部に装着されている油止め管と同内径部のすきまを通って両端のピンボス部に流れ,ピンボス部及びピストンの右舷側に開けられた通しの工作穴から冷却空洞内に流れ込み,同空洞内に滞留しつつ上下動し,ドーナツ状にピストン頂部とリング溝越しにピストンリングなどの冷却を行い,残るピストン頂部中央部の冷却は連接棒上端の前示ノズルから噴油されて行われるようになっており,冷却空洞側の潤滑油が左舷側ピストンふたの前示油穴からクランク室に流れ落ち,ノズル噴油側の潤滑油などとともに油受を経由してサンプタンクに戻るようになっていた。

3 事実の経過
 とまこまいは,京浜港東京区と北海道苫小牧港との間の航路に就航しており,両港において,各3,4時間の停泊を挟み,片道20時間程度となる航海を繰り返していた。補機は,主機同様C重油を燃料とし,航泊を問わず2台の補機の並列運転による船内給電を常態としながら,各機は1週間ごとの切替えを基本とし,月間480時間程度運転されていた。
 A指定海難関係人は,主に運航船の工務関係を担当業務としており,とまこまいについて,平成15年12月29日から翌年1月10日まで定期検査工事が実施されたが,同人が入渠工事の仕様書案の内容の検討を行い,入渠先との打合せを重ねるなどの作業と並行して,同仕様書案に従って整備機器類の交換予定部品の購入リストを作成し,発注等を済ませ,同工事に工務監督として立会うなどしていた。
 ところで,とまこまいは,入渠工事で就航後初めて3号機のピストン抜出し整備が行われた際,補機取扱説明書にはピストン抜出し整備の標準時間として,積算運転時間12,000ないし16,000時間,若しくは,2ないし3年で行うよう記載されていたところ,同機の積算運転時間が前示標準時間をはるかに超える22,000時間あまりに達していて,ピストンふた取付けボルトの皿ばねが塑性変形するなどして回り止めの効力を失い始める状況となっていた。
 しかし,A指定海難関係人は,3号機各ピストンの冷却空洞内は洗浄するまでもないと思い,ピストンふたを開放して冷却空洞内の洗浄を行わせ,同ふた取付けボルトの皿ばねを新替えさせるなど入渠工事における整備業者に対する指示が適切でなかったので,各ピストンの同ふたが開放されず,同ふた取付けボルトの皿ばねも新替えしないまま,3号機を復旧させていた。
 その後,とまこまいは,3号機が通常運転状態で使用されるうち,いつしか5番シリンダなどのピストンふた取付けボルトの皿ばねが回り止めの効力を失っていたところに,運転中の機関振動が加わるなどして,同ボルトが緩み始めていた。
 こうして,とまこまいは,船長ほか13人が乗り組み,車両171台及び運転手6人を乗せ,船首6.87メートル船尾6.62メートルの喫水をもって,平成16年12月8日23時45分船内電源が1,2号機の並列運転で供給されながら京浜港東京区有明ふとうを発し,9日00時00分3号機の運転を始めて,船内電源が1,2号機運転から1,3号機運転に切り替えられ,2号機が停止されて自動待機状態とされたのち,苫小牧港に向け,主機を全速力前進にかけ南下中,01時05分機関区域無人化運転に切り替えられていたが,3号機5番シリンダのピストンふたの取付けボルトが緩んで脱落し,同ふたが外れ落ち,ピストン冷却油が冷却空洞内に滞留しなくなり,01時55分洲埼灯台から真方位310度2.5海里の地点において,ピストン頂部の冷却が阻害され,同部が過熱して割損し,3号機が異音を発して危急停止した。
 当時,天候は晴で,風力5の北東風が吹き,波高は1.5メートルであった。
 その結果,とまこまいは,船内電源が自動始動された2号機と運転中の1号機との並列運転で復旧されていて,その後,異常停止した3号機のクランク室点検が行われたところ,5番シリンダでピストン頂部の割損破片及びピストンふた取付けボルトなどが同機油受から発見されたほか,吸気弁側ロッカーアームが折損するなどしており,予備品等がなく船内修理が不可能な旨が船長に報告され,自動待機補機がなくなったものの,航行には支障がなかったので,修理が復航帰着後の京浜港東京区で行われることとなり,業者により3号機が精査された結果,前示損傷のほか,ピストン頂部の割損破片が飛び込んだ過給機のノズル及びタービン翼などに損傷が判明し,その後,損傷部品が取り替えられ,修理された。

(本件発生に至る事由)
1 平成15年12月定期検査時における3号機の積算運転時間が,ピストン抜出し整備の標準時間をはるかに超えていたこと
2 入渠工事おける整備業者に対する指示が適切でなかったこと
3 ピストン頂部の冷却が阻害されたこと

(原因の考察)
 本件機関損傷は,運転が長期に亘っていた補機のピストン抜出し整備を行ったのち,同機を通常運転状態で使用していた際,ピストンふた取付けボルトの皿ばねが回り止めの効力を失っていたところに,運転中の機関振動が加わるなどして,同ふた取付けボルトが緩んで脱落し,同ふたが外れ落ち,ピストン冷却油が冷却空洞内に滞留しなくなり,ピストン頂部の冷却が阻害されたことによって発生したものである。
 保船管理者が,補機ピストンのピストンふたを開放して冷却空洞内の洗浄を行わせ,同ふた取付けボルトの皿ばねを新替えさせるなど入渠工事における整備業者に対する指示が適切であったなら,本件は発生していなかったものと認められる。
 したがって,A指定海難関係人が,整備業者に対する指示が適切でなかったこと及びピストン頂部の冷却が阻害されたことは,本件発生の原因となる。
 平成15年12月定期検査時における3号機の積算運転時間が,ピストン抜出し整備標準時間をはるかに超えていたことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら,これは,海難防止の観点から是正されるべき事項である。

(海難の原因)
 本件機関損傷は,運転が長期に亘っていた補機のピストン抜出し整備を行ったのち,同機を通常運転状態で使用していた際,補機ピストンのピストンふた取付けボルトの皿ばねが回り止めの効力を失っていたところに,運転中の機関振動などが加わり,同ふた取付けボルトが緩んで脱落し,同ふたが外れ落ち,ピストン冷却油が冷却空洞内に滞留しなくなり,ピストン頂部の冷却が阻害されたことによって発生したものである。
 保船管理者が,補機ピストンのピストンふたを開放して冷却空洞内の洗浄を行わせ,同ふた取付けボルトの皿ばねを新替えさせるなど入渠工事における整備業者に対する指示が適切でなかったことは,本件発生の原因となる。

(指定海難関係人の所為)
 A指定海難関係人が,補機ピストンのピストンふたを開放して冷却空洞内の洗浄を行わせ,同ふた取付けボルトの皿ばねを新替えさせるなど入渠工事における整備業者に対する指示が適切でなかったことは,本件発生の原因となる。
 A指定海難関係人に対しては,本件後,補機各ピストンのピストンふた取付けボルト及び皿ばねを全数新替えするなどの改善措置をとった点に徴し,勧告しない。

 よって主文のとおり裁決する。





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