日本財団 図書館




 海難審判庁採決録 >  2005年度(平成17年度) >  機関損傷事件一覧 >  事件





平成17年仙審第46号
件名

漁船第三十三不動丸機関損傷事件

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成17年12月20日

審判庁区分
仙台地方海難審判庁(大山繁樹,原 清澄,半間俊士)

理事官
寺戸和夫

受審人
A 職名:第三十三不動丸機関長 海技免許:四級海技士(機関)(機関限定)

損害
主機調時歯車装置の中間歯車,ピストン,シリンダライナ,主軸受及びクランクピン軸受等の損傷

原因
機調時歯車装置の中間歯車の軸受ブッシュ点検不十分,主機潤滑油圧力低下停止装置の作動確認不十分,主機潤滑油圧力の低下に対する対応措置不適切

主文

 本件機関損傷は,主機調時歯車装置第2中間歯車の軸受ブッシュの点検が十分でなかったばかりか,主機潤滑油圧力低下停止装置の作動確認が十分でなかったこと,及び主機潤滑油圧力が低下した際,対応措置が不適切であったことによって発生したものである。
 受審人Aの四級海技士(機関)の業務を1箇月停止する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年9月5日16時28分
 岩手県宮古港東方沖合
 (北緯39度32.0分 東経142度13.0分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 漁船第三十三不動丸
総トン数 305トン
登録長 51.60メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 1,912キロワット
回転数 毎分750
(2)設備等
ア 第三十三不動丸
 第三十三不動丸(以下「不動丸」という。)は,平成元年2月に進水した,まき網漁業に付属運搬船として従事する船尾船橋機関室型の鋼製漁船で,主な操業海域を房総半島以北日付変更線までの北太平洋とし,2月から4月の休漁期間を除いて周年操業に従事していた。
イ 機関室
 機関室は,上下2段に区画され,機関室上段の上方に船員室,同室の上方に操舵室が配置され,機関室下段には,中央部に主機を装備し,左舷側の船首寄りに監視室を有し,同室に主機の潤滑油圧力低下,冷却清水温度上昇等の警報装置が組み込まれた警報盤のほか,船橋と連絡する電話が設置されていたが,主機の操縦装置及び計器盤は設けられていなかった。
ウ 主機及び主機の潤滑油系統
 主機は,B社が平成元年1月に製造した8Z280−ET2型と呼称する過給機付4サイクル8シリンダ・ディーゼル機関で,シリンダ番号が船首側を1番として船尾側へ順番号が付され,機側の発停ハンドルが主機左舷の船首寄りに付設され,同ハンドルの上方に潤滑油圧力計等が組み込まれた計器盤が取り付けられており,全速力前進時の回転数を毎分720として,年間約5,000時間運転されていた。
 主機の潤滑油系統は,サンプタンク内の潤滑油が,直結の潤滑油ポンプによって吸引加圧され,こし器,潤滑油冷却器を通って圧力調整弁で4.0ないし4.5キログラム毎平方センチメートル(以下「キロ」という。)に調圧されて主管に入り,分岐して主軸受,クランクピン軸受,ピストンピン軸受等を潤滑あるいは冷却したのち,台板内に落下して同タンクへ戻る循環経路になっていて,潤滑油圧力が2.0キロ以下で油圧低下警報装置が作動し,1.5キロ以下で油圧低下停止装置が作動して主機が自動停止し,潤滑油ポンプとして,直結の潤滑油ポンプのほかに,電動歯車ポンプ(以下「予備潤滑油ポンプ」という。)が機関室下段の右舷側に設置され,同ポンプの発停スイッチが計器盤に設けられていた。
エ 主機の調時歯車装置
 主機の調時歯車装置は,主機前部に設けられ,クランク軸歯車の回転が第1中間歯車からカム軸歯車へ,第2中間歯車(以下「中間歯車」という。)から潤滑油ポンプ駆動歯車及び冷却清水ポンプ駆動歯車へそれぞれ伝達され,各歯車には,振動や運転音が平歯車より少ないはすば歯車が採用されていた。
 中間歯車は,ボスの軸受部に黄銅合金製の軸受ブッシュが圧入されていて,この軸受ブッシュが架構に固定された中間歯車軸の周りを回転し,歯のねじれによりクランク軸歯車と噛み合う下側が船首方に,潤滑油ポンプ駆動歯車等と噛み合う上側が船尾方にそれぞれスラストを生じており,船首方への移動を中間歯車軸の軸端に2本のボルトで取り付けた円形の押さえ板で受けるようになっていた。そして,潤滑油が主管から分岐して中間歯車軸取付け部から同軸の油孔を経て軸受ブッシュを潤滑していた。
 なお,中間歯車の軸受ブッシュは,主機取扱説明書で運転時間18,000ないし20,000時間,あるいは4年毎に点検するよう推奨されていた。
オ 主機の停止操作及び自動停止
 主機の停止操作は,機側の発停ハンドルを停止位置とすることで,操縦場所が機関室あるいは操舵室に関係なく停止することができ,操舵室では,非常停止スイッチを押すことによって主機の停止が可能であり,また,主機の自動停止は,前記の油圧低下停止装置あるいは過速度停止装置が作動した場合で,いずれも監視室の警報盤内に設けられた各々の電磁リレーが動作して,機関室制御空気パネル内の停止用制御空気電磁弁を作動させ,主機付設の停止用エアシリンダにより燃料調整軸を動かして,燃料の噴射を止めるようになっていた。
 なお,主機油圧低下停止装置は,3ないし6箇月毎に点検するよう取扱説明書に記載されていた。

3 事実の経過
 不動丸は,平成16年3月中間検査工事のため千葉県の造船所に入渠し,主機は,ピストン,主軸受等が開放点検されたが,調時歯車装置中間歯車の軸受ブッシュは,これまで同歯車を取り外して点検されたことがなかったことから,著しく摩耗した状態となっていたところ,A受審人は,点検することなく主機復旧後の試運転で非常停止の作動を確認して,同検査工事を終了した。
 不動丸は,同年4月から操業を繰り返していたところ,主機調時歯車装置の中間歯車は,軸受ブッシュの摩耗が進行して船首尾方の振れが大きくなり,スラストが増大するとともに押さえ板と強く接触し,押さえ板の取付けボルト1本に亀裂を生じるようになった。
 ところで,A受審人は,操業中,主機発停前に予備潤滑油ポンプを運転するなどして主機の運転保守に努めていたところ,主機油圧低下停止装置が,いつしか,停止用制御空気電磁弁に電気信号を送る電磁リレーが不調となり,潤滑油圧力が1.5キロ以下となったとき,同装置が作動しない状態となっていたが,これまで同装置の作動確認をしたことがなく,このことに気付かなかった。
 こうして,不動丸は,A受審人ほか9人が乗り組み,操業の目的で,同年9月5日11時00分青森県八戸港を発し,金華山東方沖合の漁場に向かい,16時00分同受審人が3時間の機関室当直に入り,主機を回転数毎分720にかけて14.0ノットで航行中,中間歯車の船首方のスラストにより亀裂の生じていた押さえ板取付けボルト1本が折損するとともに,押さえ板が割損して脱落したことから,同歯車は次第に船首側へ移動し,16時25分潤滑油ポンプ駆動歯車等と噛み合わなくなって同ポンプ等が運転されなくなり,潤滑油圧力低下警報装置が作動した。
 機関室上段を見回り中のA受審人は,警報に気付いて下段に降り,潤滑油圧力計を見て0キロであるのを認めたが,昇橋して周囲の状況を見てから主機を停止しても遅くないと思い,直ちに,予備潤滑油ポンプの運転,主機の停止,船橋へ電話して主機非常停止の要請など,対応措置を適切にとることなく,機関室から甲板に出て操舵室に入り,船長に状況を報告して周囲に船舶のいないのを確認し,操縦ハンドルを中立としたものの,ピストンとシリンダライナとの摺動面などが焼損し始め,主機の非常停止スイッチを押さないまま機関室へ急行し,16時28分トドケ埼灯台から真方位098度7.0海里の地点において,主機を機側停止し,予備潤滑油ポンプを運転した。
 当時,天候は曇で風力1の東風が吹き,海上は穏やかであった。
 A受審人は,冷却清水温度上昇警報装置も作動して過熱状態となったことから,主機の運転不能と判断し,不動丸は,僚船によって宮城県女川港に引き付けられた。
 その結果,中間歯車の軸受部が損傷し,2番,5番,6番及び7番シリンダのピストン及びシリンダライナ,2番,5番及び6番シリンダのピストンピン,全主軸受及びクランクピン軸受等が焼損しており,のち当該部品を新替えするなどの修理がなされた。

(本件発生に至る事由)
1 中間歯車にスラストが発生すること
2 中間歯車は軸受ブッシュの摩耗が著しく進むと船首方へ移動すること
3 中間歯車軸受ブッシュの点検が十分でなかったこと
4 油圧低下停止装置の作動確認が十分でなかったこと
5 昇橋して周囲の状況を見てから主機を停止しても遅くないと思ったこと
6 主機潤滑油圧力が著しく低下した際,予備潤滑油ポンプを運転する,主機を停止するなどの,対応措置が不適切であったこと

(原因の考察)
 本件は,中間歯車の軸受ブッシュの点検を十分に行っていたなら,同軸受ブッシュの異常摩耗により同歯車が移動し,潤滑油ポンプが運転されないことがなかったものといえる。油圧低下停止装置の作動確認を十分に行っていたなら,電磁リレーが不調となっていることに気づいて同リレーを交換しておくことができ,主機が自動停止しないことがなかったものといえる。また,潤滑油圧力が著しく低下した際,予備潤滑油ポンプを運転する,主機を停止するなどの,対応措置が適切であれば,各部の潤滑が阻害されることがなかったものといえる。
 したがって,中間歯車の軸受ブッシュの点検,及び油圧低下停止装置の作動確認がいずれも十分でなかったこと,並びに主機潤滑油圧力が低下した際,昇橋して周囲の状況を見てから主機を停止しても遅くないと思い,予備潤滑油ポンプを運転する,主機を停止するなどの,対応措置を適切にとらなかったことは,本件発生の原因となる。
 中間歯車にスラストが発生すること,及び中間歯車は軸受ブッシュの摩耗が著しく進むと船首方へ移動することは,いずれも本件発生に至る過程で関与した事実であるが,はすば歯車であること,歯車の組み合わせ状況からなど不可避的であることから,本件発生の原因とならない。

(海難の原因)
 本件機関損傷は,主機調時歯車装置中間歯車の軸受ブッシュの点検が不十分で,同歯車が船首方へ移動して潤滑油ポンプが運転されなかったばかりか,主機潤滑油圧力低下停止装置の作動確認が十分でなかったこと,及び主機潤滑油圧力が著しく低下した際,対応措置が不適切で,各部の潤滑が阻害されたまま運転が続けられたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,主機潤滑油圧力が著しく低下しているのを認めた場合,各部の潤滑が阻害されることのないよう,主機を停止するなどの対応措置を適切にとるべき注意義務があった。しかるに,同人は,昇橋して周囲の状況を見てから主機を停止しても遅くないと思い,対応措置を適切にとらなかった職務上の過失により,主機調時歯車装置中間歯車の船首方への移動により潤滑油ポンプが運転されない状態で主機の運転を続けて,各部の潤滑阻害を招き,同歯車を損傷させ,ピストン,シリンダライナ,主軸受,クランクピン軸受等を焼損させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して同人の四級海技士(機関)の業務を1箇月停止する。

 よって主文のとおり裁決する。





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION