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平成17年横審第64号
件名

漁船第七いけす丸機関損傷事件

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成17年11月30日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(浜本 宏,小寺俊秋,古城達也)

理事官
岡田信雄

受審人
A 職名:第七いけす丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
主機ピストン及びシリンダライナ等の焼付

原因
主機冷却海水ポンプの整備不十分,発航前の主機冷却海水の船外排出状況点検不十分

主文

 本件機関損傷は,主機の冷却海水ポンプの整備及び発航前の主機冷却海水の船外排出状況の点検がいずれも不十分で,主機が冷却海水流量の不足で過熱したことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年12月15日06時00分
 静岡県伊豆大瀬埼北方沖合
 (北緯35度02.2分 東経138度47.2分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 漁船第七いけす丸
総トン数 19.36トン
登録長 16.32メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 573キロワット
回転数 毎分1,940
(2)設備及び性能等
ア 第七いけす丸
 第七いけす丸(以下「いけす丸」という。)は,昭和47年9月に進水した,中型まき網漁業船団の一層甲板型FRP製探索船で,平成10年7月主機が新替えされて船体中央部の甲板下に据付けられており,主機遠隔操縦装置が操舵室に設置されていた。
イ 主機
 主機は,B社が製造した,間接冷却方式の6LXP-GT型と呼称する,シリンダ直径150ミリメートル(以下「ミリ」という。)行程165ミリのセルモータ始動方式のディーゼル機関で,各シリンダには船首側から順番号が付され,船尾側には逆転減速機(以下「減速機」という。)が連結されていて,ピストンとシリンダライナとの摺動部(しゅうどうぶ)は,クランクアームの回転によるはねかけで潤滑されるようになっていた。
ウ 主機冷却海水系統
 主機冷却海水系統は,船底海水吸入口から船底弁,海水こし器を経由し,13枚羽根のゴム製インペラ(以下「インペラ」という。)が組み込まれた主機直結のヤブスコ式冷却海水ポンプ(以下「冷却海水ポンプ」という。)により吸引・加圧された海水が,内径69ミリの配管に設けられていた口径35ミリの絞りの前後で流量調節され,一部分岐して減速機潤滑油冷却器を冷却したのち,再度合流し,主機の空気,清水及び潤滑油の各冷却器に順次送水されたのち,船体右舷横から船外に排出されるようになっていた。また,主機取扱説明書には,同インペラを1,000時間または5ないし6箇月ごとに点検し,2,500時間または1年経過で交換することなどが記載されていた。

3 事実の経過
 いけす丸は,主に静岡県静浦漁港を基地として,僚船5隻と船団を組み,駿河湾石花海を漁場とし,日没時から翌日夜明けまで行う操業を周年繰り返し,月間220時間あまり運転されていた。
 A受審人は,船長として機関の運転保守を行い,操業中は操船に従事し,決まった整備業者に機関の整備・修理を依頼するようにしており,自身では整備することがなかったものの,主機冷却清水量の点検を1週間ごとに行い,発航前には機関室内を目視点検し,主機潤滑油量を点検したのち,操舵室で主機を遠隔始動するなどしていた。
 ところで,いけす丸は,平成14年12月冷却海水ポンプのインペラの交換が前示整備業者により実施されたのち,同16年6月5日及び11月12日に,主機各冷却器の保護亜鉛交換及び海水こし器の掃除などが実施されていたものの,その後,同インペラの点検及び交換は行われておらず,主機各冷却器が保護亜鉛片,かき,海藻類等で目詰まりしていたうえ,冷却海水ポンプのインペラが経年劣化により脆くなって,いつしかインペラの先端部分が欠損するなど同ポンプの送水能力低下を招き,インペラの欠損片が主機冷却海水系統の上流にあたる空気冷却器海水側入口に詰まるなどして,主機冷却海水流量が減少していた。
 ところが,A受審人は,海水こし器がまだ開放掃除するほどではないから主機冷却海水流量は十分あるものと思い,発航前に同機冷却海水の船外排出状況の点検を十分に行っていなかったので,同機冷却海水流量が不足していたことに気付かず,潤滑油,冷却清水等が各冷却器で十分に冷却されず,主機が過熱し始める状況となっていたが,このことに気付かないまま運転を続けていた。
 こうして,いけす丸は,A受審人が単独で乗り組み,操業の目的で,船首0.5メートル船尾1.0メートルの喫水をもって,同年12月14日16時00分静浦漁港を発し,前示漁場に至って翌日まで操業を行ったのち,主機を回転数毎分1,300にかけ,対地速力12ノットで帰港中,15日06時00分伊豆大瀬埼灯台から真方位345度800メートルの地点において,同機が冷却海水流量の不足で過熱し,全シリンダに亘って(わたって)ピストンとシリンダライナとの摺動部の潤滑が阻害されて焼き付き,異音を発し,自停した。
 当時,天候は曇で風力1の東北東風が吹き,海上は穏やかであった。
 その結果,いけす丸は,自力航行を断念し,僚船により静浦漁港に引き付けられた後,業者により主機が精査された結果,前示損傷のほか,シリンダヘッド過熱による吸・排気弁の弁ガイドへの焼付き等が判明し,のち損傷部品等が取り替えられた。

(本件発生に至る事由)
1 主機の冷却海水ポンプの整備を十分に行っていなかったこと
2 発航前に主機冷却海水の船外排出状況の点検を十分に行っていなかったこと
3 主機が冷却海水流量の不足で過熱し,ピストンとシリンダライナとの摺動部の潤滑が阻害されたこと

(原因の考察)
 本件は,主機が冷却海水流量の不足で過熱し,ピストンとシリンダライナとの摺動部の潤滑が阻害されたことによって発生したが,船長が,主機の冷却海水ポンプの整備を十分に行っていれば,同ポンプインペラの経年劣化による欠損などを避けることができ,また,発航前に主機冷却海水の船外排出状況の点検を十分に行っていれば,主機冷却海水流量が減少するなどで,同ポンプインペラ欠損などの異状に気付き,本件は発生していなかったものと認められる。
 したがって,A受審人が,主機の冷却海水ポンプの整備を十分に行っていなかったこと,同人が,発航前に主機冷却海水の船外排出状況の点検を十分に行っていなかったこと及び主機が冷却海水流量の不足で過熱し,ピストンとシリンダライナとの摺動部の潤滑が阻害されたことは,いずれも本件発生の原因となる。

(海難の原因)
 本件機関損傷は,機関の運転保守を行う際,主機の冷却海水ポンプの整備及び発航前の主機冷却海水の船外排出状況の点検がいずれも不十分で,主機が冷却海水流量の不足で過熱し,ピストンとシリンダライナとの摺動部の潤滑が阻害されたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,機関の運転保守を行う場合,主機の冷却海水ポンプのインペラは欠損することがあるから,同機冷却海水流量の変化を見落とさないよう,発航前に主機冷却海水の船外排出状況の点検を十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同人は,海水こし器がまだ開放掃除するほどではないから主機冷却海水流量は十分にあるものと思い,発航前に同機冷却海水の船外排出状況の点検を十分に行っていなかった職務上の過失により,主機冷却海水流量が減少していたことに気付かないまま出漁して操業を行い,帰港中,主機が冷却海水流量の不足で過熱し,ピストンとシリンダライナとの摺動部の潤滑が阻害される事態を招き,全シリンダに亘ってピストン及びシリンダライナ等を焼き付かせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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