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平成17年広審第34号
件名

貨物船ふじとよ機関損傷事件

事件区分
機関損傷事件
言渡年月日
平成17年10月25日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(吉川 進,川本 豊,米原健一)

理事官
河本和夫

受審人
A 職名:ふじとよ機関長 海技免許:三級海技士(機関)(機関限定)
指定海難関係人
B社 業種名:海運業

損害
減速機の入力軸船首側軸受,その他のころ軸受及び前後進クラッチ板の損傷

原因
海運業者が主機と減速機の軸心点検不十分

主文

 本件機関損傷は,海運業者が,主機と減速機の軸心点検が十分でなかったことによって発生したものである。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年7月16日17時10分
 愛媛県新居浜港
 (北緯33度58.9分 東経133度20.2分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 貨物船ふじとよ
総トン数 699トン
全長 93.74メートル
機関の種類 過給機付4サイクル6シリンダ・ディーゼル機関
出力 1,250キロワット
回転数 毎分390
(2)設備及び性能等
ア 全般
 ふじとよは,平成2年7月に進水した,全通2層甲板型の鋼製貨物船で,船首の甲板下にボースンストアなどを,その後部に貨物倉を,また,船尾に機関室と船橋をそれぞれ配置していた。機関室は,下段中央に主機が,その船尾側に減速機が据え付けられ,中段右舷前部に制御室,同後部に補機が2基設置されていた。
イ 主機と弾性継手
 主機は,C社が製造した6DLM-40型と称するディーゼル機関で,クランク軸の最船尾側に基準軸受とフライホィールを配置し,フライホィールの後面に弾性継手を取り付けていた。
 弾性継手は,D社が製造したK2E310Na型と称する継手で,入力側の外輪と出力側の内輪との間に天然ゴムを取り付けたゴムエレメントが2連で接続されたもので,外輪側がフライホィールに,内輪側が減速機の入力軸にそれぞれ接続され,外輪には内輪との周方向のねじれを読む指示針が取り付けられていた。また,取扱説明書には,ゴム表面の硬度について,ショア硬さ60度から15度上昇を取替推奨値,17度上昇を取替限度とすることが,周方向のねじれについては,指示計の読みで25ミリメートル(mm)を取替推奨値,30mmを取替限度とすることがそれぞれ記されていた。
ウ 減速機
 減速機は,E社が製造したMGN6324ZYと称するクラッチ付減速歯車で,入力歯車から前進又は後進歯車列を通して出力歯車に動力を伝え,各歯車列に油圧湿式クラッチを内蔵し,クラッチの嵌脱で前進又は後進に切り替えるようになっており,各軸がころ軸受で支持され,全体が鋳鉄製のケーシングに収められ,上部蓋に点検窓を有していた。また,微速回転を得るためにクラッチの作動油圧を減圧してスリップさせる機能を有していた。
 作動油は,ケーシングの潤滑油が前進歯車列に直結の潤滑油ポンプによって約2.4メガパスカルに加圧され,クラッチを押し付ける油圧シリンダを押し,余剰分が減圧されて軸受と歯車面の潤滑を行うようになっており,主機始動前の準備や停止後の余熱除去に際しては電動潤滑油ポンプで供給することができた。
 入力歯車を支える入力軸は,船首側を複列自動調心ころ軸受で,船尾側を単列ころ軸受でそれぞれ支持され,据付位置の変化などを吸収させるとともに,温度変化による軸方向の移動を逃がすようになっていた。
エ 主機と減速機の据付け
 主機は,建造に際して,プロペラ軸,中間軸及び減速機が順に位置決めされたのち,減速機との心出し不良のまま据え付けられ,主機のメーカーが据付要領書によって造船所に指示した,減速機入力軸前端面と主機のフライホィール後端面との面間距離と両機の遍心が,許容値をわずかに超えていた。

3 事実の経過
(1)就航後の運転
 ふじとよは,コンテナ,雑貨,製材などを積載し,瀬戸内海諸港と福岡県博多港,佐賀県唐津港及び沖縄県那覇港を7日で巡る航海に就航し,主機が1年間当たり4,500時間ないし5,000時間運転された。
 減速機は,主機との面間距離と偏心が許容値をわずかに超え,入力軸が引っ張られる状態で運転されたが,軸受の過熱や潤滑油の汚損などの異常が見られなかったので,平成3年の保証ドックではB社及びA受審人から点検などの指摘も出されず,その後,軸受に顕著な摩耗が生じないまま運転が続けられた。また,平成6年及び同10年の定期検査では点検窓から目視点検されたが,主要部の取外しを行うなど詳細な点検が行われなかった。
 A受審人は,減速機の取扱説明書に記載された内容に従って潤滑油の取替えと潤滑油こし器の掃除を行いながら運転管理を行った。
(2)減速機の最初の軸受摩耗
 ふじとよは,減速機入力軸の船首側軸受が摩耗し始め,平成11年11月中旬に潤滑油こし器に金属粉が詰まり始め,同月末に,電動潤滑油ポンプを運転しないと減速機が中立から前進又は後進に嵌入しなくなり,A受審人が,同機の潤滑油こし器を点検して金属粉が付着していることを認めた。
 そこで,ふじとよは,同年12月臨時に減速機が開放点検されたところ,入力軸の前部及び後部軸受が損傷しており,さらに前進及び後進歯車列のクラッチ板も摩耗粉によって損傷しているのが認められ,損傷部が取り替えられた。
 B社は,減速機が組み立てられる際,損傷部取替えに当たった減速機メーカーの技師から,弾性継手の分解点検をすることが望ましい旨の意見が出されたが,同点検を行わないまま,ふじとよの運航を再開した。
(3)本件発生に至る経緯
 B社は,平成12年と同14年にふじとよを年次検査及び中間検査で入渠させたが,A受審人から減速機の運転状態について特に異常の報告もないことから,弾性継手の分解点検も,また,主機と減速機の軸心点検のいずれも行わなかった。
 弾性継手は,就航後の年数経過の割には弾性低下の目安となるゴム材の表面硬度とねじれについて取替推奨値を下回っていたが,建造当初に比べて同材の弾性が徐々に低下していた。
 減速機は,主機との軸心修正がされず,弾性継手の弾性低下に伴い,再び主機との面間距離と偏心の誤差が大きい影響を受けて,入力軸受のころが摩耗し始めたが,同軸受付近の温度上昇や異音の発生が生じなかったので,A受審人が軸受の異常に気付かなかった。
 こうして,ふじとよは,A受審人ほか5人が乗り組み,コンテナ及び雑貨を積み,船首4.50メートル船尾5.42メートルの喫水をもって,平成15年7月16日12時10分広島県呉港を発し,夕刻愛媛県新居浜港の着岸場所に100メートルほど近づいて投錨し,船橋操縦で操船されていたところ,減速機の入力軸船首側軸受が著しいフレーキング状態に損傷して,摩耗粉がスリップ制御弁の可動部に詰まり,同日17時10分新居浜港多喜浜西防波堤灯台から真方位168度1,320メートルの地点で,クラッチが嵌入不能となった。
 当時,天候は晴で風力1の東北東風が吹いていた。
 ふじとよは,船橋から制御不能の連絡を受けたA受審人が船橋操縦から機側操縦に切り替え,減速機付きの前後進切替弁が直接操作されて着岸した。着岸後,減速機のスリップ制御弁がスティックしていることが認められ,入渠して精査の結果,減速機の入力軸船首側軸受,その他のころ軸受と前後進クラッチ板が損傷しており,損傷部が取り替えられた。
 減速機は,組立て時に,弾性継手部の隙間が大きいことが分かり,入力軸フランジと弾性継手後端面との間がダイヤルゲージで計測され,簡易的に軸心確認が行われたところ,主機より軸心が高く,面間距離が許容値を超えて主機に引っ張られていることが確認され,中間板が1mm厚いものに取り替えられた。
 B社は,中間板の取替えの後,減速機の内部点検を注意深く行いながら運航することとした。

(本件発生に至る事由)
1 主機が,減速機との心出し不良のまま据え付けられたこと
2 減速機が,就航後の定期検査では,点検窓から目視点検されたが,主要部の取外しを行うなど詳細な点検が行われなかったこと
3 最初の損傷後,B社が,弾性継手の分解点検を行わなかったこと
4 B社が,平成12年と同14年の入渠時に弾性継手の分解点検も,また,主機と減速機との軸心点検のいずれも行わなかったこと

(原因の考察)
 本件機関損傷は,建造時に主機と減速機の位置関係が許容値を超えていたことが背景となっていたもので,修理後に簡易的に行われた軸心確認の数値にそれが示されている。
 すなわち,主機と減速機との相対位置は,面間距離の許容値がプラス1.0mmのところプラス1.3mm平均で,偏心の許容値が0.5mmのところ減速機が主機よりも1.0mm以上高い。このうち,面間距離が大きいことは,弾性継手の構造上,ゴム材の経年による収縮など軸方向の変化がないことから,据付け状況の変化がない限り,建造当時の据付けによるものと認められる。
 減速機が,最初の損傷までに建造後9年と長い年数を経たのは,弾性継手のゴムが柔軟であったことに加えて,入力軸受が自動調心ころ軸受であったことから,引っ張りと偏心の影響が長期間吸収されたことによるもので,一方,その修理後3年半の経過で本件が発生したのは,ゴムの硬化が進んだことによると考えるのが相当である。
 このような,建造時の心出し不良は,通常は想定し難いことではあるが,B社が,平成11年に減速機の入力軸が損傷して修理を行った際,減速機メーカーの指摘に従って弾性継手を分解点検しておれば,面間距離が許容値を超えて大きいなど,心出し不良の状況が分かり,中間板の厚さを変更するなど,不具合を修正することができたのであり,同点検を行わなかったこと,並びに平成12年及び同14年に入渠した際,弾性継手の分解点検と,主機と減速機の軸心点検のいずれも行わなかったことは,本件発生の原因となる。
 A受審人が,減速機の潤滑油を取り替え,こし器を開放掃除した経過は,取扱説明書に従ったものであり,また,潤滑油冷却器の汚損など,温度管理が不適切であった状況もない。更に,潤滑油こし器の金属粉付着や軸受温度の上昇等損傷直前まで顕著なものでなく,予見可能性が低かった。したがって,A受審人の所為は,原因とならない。
 減速機が,就航後の定期検査で,主要部の取外しを行うなど詳細な点検が行われなかったことは,運転状況に異常が見られない限り点検窓からの目視点検に替えて容認されることで,本件発生の原因とならない。
 なお,中間板の厚さを増して運転した経過後,平成17年7月27日に実施された減速機軸心調査の結果写によれば,クランク軸基準軸受の油膜厚さの分の誤差を加味しても,面間距離及び偏心とも,弾性継手装着のまま計測された値と同じ傾向であることが確認されており,弾性継手のゴムエレメント取替えと,計測精度の高い状況の下に精確な軸心の再調整を行うなど,早急に改善することが望まれる。

(海難の原因)
 本件機関損傷は,建造時に主機の心出し不良のまま就航し,減速機が最初の損傷を生じた際,海運業者が,主機と減速機の軸心点検が不十分で,両機の軸心修正がされないまま運転が続けられたことによって発生したものである。

(受審人等の所為)
 B社が,減速機に最初の損傷を生じた際,主機と減速機の軸心点検を十分に行わなかったことは,本件発生の原因となる。
 B社に対しては,本件後,弾性継手の中間板の厚さを変更し,減速機の内部点検を注意深く行いながら運航していることに徴し,勧告しない。
 A受審人の所為は,原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。





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