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平成17年神審第68号
件名

漁船第二栄福丸遭難事件

事件区分
遭難事件
言渡年月日
平成17年11月22日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(横須賀勇一,甲斐賢一郎,橋本 學)

理事官
黒田敏幸

受審人
A 職名:第二栄福丸甲板員 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
岩礁に圧流されて船底及び外板に破口を生じて沈没し廃船,船長が頭部打撲により,甲板員が溺水によりいずれも死亡

原因
高波発生状況の把握不十分

主文

 本件遭難は,高波発生状況の把握が不十分で,操業を中止せず,高波を受けたことによって発生したものである。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成17年4月9日09時20分
 兵庫県美方郡香美町松ケ埼沖
 (北緯35度39.7分 東経134度35.2分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 漁船第二栄福丸
総トン数 0.8トン
登録長 5.95メートル
機関の種類 電気点火機関
出力 60キロワット
(2)設備及び性能等
 第二栄福丸(以下「栄福丸」という。)は,平成15年5月20日に進水した,船外機を装備する和船型FRP製漁船で,左舷船首部にバッテリー駆動のローラーウインチ,船体中央部にGPS内蔵の魚群探知機が設置され,船首部の物入れには救命胴衣,船尾部の魚倉には,燃料タンクとバッテリーが装備されていた。

3 かご漁
 栄福丸は,かご漁と称される漁業に従事しており,その漁業形態は,直径60センチメートルのかごの中に,魚の切り身を餌として入れ,直径8ミリメートル長さ約200メートルの本縄に,かご1個を付けた枝縄30本を等間隔に取り付け,本縄の両端に錘及び目印の浮きを付けた仕掛けを海底に沈めて翌日引き揚げるもので,瀬の近くにかごを入れるほど漁が良く,設置作業は2人で,引き揚げ作業は3人で行い,通常はローラーウインチを風上にして大縄を巻き揚げるものであった。
 操業は,仕掛け1連を入れるのに約15分,揚げるのに約40分を要し,経験豊富な船長が操業全般を指揮し,波高1.5ないし2メートル以上の風浪があるときには中止していた。
 また,その漁場は,主に兵庫県美方郡香美町松ケ埼沖合の石グリ,兄弟赤島,三田浜,白石島の各周辺海域であり,対象魚は,かさご,はも,たこ等であった。

4 石グリ周辺の海域
 兵庫県美方郡香美町松ケ埼の東西800メートルにわたって延びる岩場と崖からなる海岸線の沖合300メートルに位置する石グリは,30メートル四方に広がる,海面上の高さ4メートルの岩礁で,周囲の海底地形は,松ケ埼の海岸線から300メートルの幅で北方に向かって400メートル延びた舌状の5メートル等深線で囲まれた浅礁海域となっており,その沖合200メートル付近から20メートル以上の水深となっていた。

5 事実の経過
 栄福丸は,A受審人,船長B及び甲板員Cが乗り組み,船首尾ともに0.30メートルの喫水,乾舷0.44メートルをもって,平成17年4月9日08時30分兵庫県美方郡香住港を発し,前示石グリ付近の漁場に向かった。
 ところで,栄福丸は,出漁に先立つ2日前に,石グリ北方100メートル付近を北端として,石グリ東側10メートルばかりの5メートル等深線に沿って南方へ仕掛けを沈め,石グリ南方110メートル付近に南端の目印を設置していた。
 08時45分栄福丸は,B船長の指揮のもと石グリ北方100メートル付近に至り,風が吹き始め,折しも北海道北西方付近で発達した996ヘクトパスカルの低気圧の影響により,松ケ埼周辺の沿岸にかけて波高1ないし1.5メートルの波長の長いうねりが押し寄せ,石グリ周辺では白波が発生していたが,その他の海域では白波は認められなかったので,操業を中止するまでもないと判断し,石グリ周辺における高波の発生状況の把握が不十分で,操業を開始することととした。
 こうして,栄福丸は,仕掛け北端の目印を引き揚げようとしたところ,錘が根掛かりして揚がらなかったので,南端の目印から引き揚げるため,09時00分鎧港防波堤灯台から051度(真方位,以下同じ。)1,250メートルの地点に移動し,B船長が,船尾部に座って船首を北に向け,機関を中立としアイドリング状態でバッテリーに充電し,A受審人及びC甲板員は,船長から特に注意や指示もないまま,左舷前部のローラーウインチ後方でかご揚げ作業を続行した。
 09時20分わずか前栄福丸は,石グリ南東方約5メートルの浅海域で,10数個目のかごを揚げていたとき,突然,右舷船首付近に波高2メートルを超える高波を受け,船首を北に向けたまま波を乗り越えたものの,09時20分鎧港防波堤灯台から047度1,370メートルの地点で,再び同様の高波を受けて船首が持ち上げられた勢いでA受審人及びC甲板員が海面に放り出されるとともに,海水の打ち込みによって水船状態となり,操縦不能となった。
 当時,天候は晴で風力3の北東風が吹き,波高1.0ないし1.5メートルの北東から波長の長いうねりがあり,視界は良好であった。
 その結果,栄福丸は石グリに圧流されて岩礁に衝突し,船底及び両舷外板に破口を生じて沈没し,廃船となった。一方,救命胴衣及び安全帽を着用していなかったB船長(一級小型船舶操縦士免状受有)が頭部打撲による脳挫傷により,救命胴衣を着用していなかったC甲板員が溺水によりそれぞれ死亡した。

(本件発生に至る事由)
1 松ケ埼の海岸から舌状に突出した浅礁海域である石グリ周辺にかごを仕掛けたこと
2 北端の仕掛けが揚げられずに南端から揚げたこと
3 高波発生状況の把握が不十分であったこと
4 A受審人が操業を中止するよう船長に進言しなかったこと
5 操業を中止しなかったこと
6 高起した高波を受けたこと
7 救命胴衣を着用していなかったこと

(原因の考察)
 本件遭難は,栄福丸が,波高1ないし1.5メートルのうねりのある状況下,石グリ周辺では白波も立っていたのであるから,松ケ埼の海岸から舌状に突出した浅礁海域である石グリ周辺で安全に操業できるかどうか判断できるよう,高波発生状況の把握を十分に行っていれば,操業を中止することにより高波を受けることなく,水船状態になることはなかったものと認められる。
 したがって,栄福丸が,松ケ埼の海岸から舌状に突出した浅礁海域である石グリ周辺において,うねりのある状況下,高波発生状況の把握が不十分で,操業を中止せず,高波を受けたことは,本件発生の原因となる。
 A受審人は,船長から石グリ周辺において,高波が立つことを聞かされていたものの,同乗していた操業全般の指揮にあたる船長から特に注意も指示もなく,当時の気象・海象から高波発生を予測することは困難であり,操業中止を船長に進言することは不可能であった。
したがって,A受審人が操業中止の進言をしなかったことは,本件発生の原因とならない。
 高波が発生しやすい石グリの周辺海域にかごを仕掛けたことについては,石グリ周辺海域は,松ケ埼の海岸から舌状に突出した浅礁海域であり,地形の影響により高波が発生しやすい海域であるが,そのことを十分に把握してうねりや風浪がないときに操業すれば問題がないので,本件発生の原因とならない。
 北端の仕掛けが揚げられずに南端から揚げたことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,本件と相当な因果関係があるとは認められない。
 救命胴衣を着用していなかったことは,本件発生の原因とはならないが,着用していれば海中に転落しても救助された可能性もあることから,被害の拡大防止に鑑み是正されるべき事項である。

(海難の原因)
 本件遭難は,兵庫県美方郡香美町松ケ埼の海岸から舌状に突出した浅礁海域において,うねりのある状況下,高波発生状況の把握が不十分で,操業を中止せず,高波を受けたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人の所為は,本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。





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