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平成17年門審第67号
件名

漁船妙見丸乗揚事件(簡易)

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成17年11月29日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(尾崎安則)

理事官
中谷啓二

受審人
A 職名:妙見丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
乗揚後の潮位低下により横転大破

原因
船位確認不十分

裁決主文

 本件乗揚は,船位の確認が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年12月14日01時00分
 福岡県柏原漁港北方沖合
 (北緯33度55.0分 東経130度39.5分)

2 船舶の要目
船種船名 漁船妙見丸
総トン数 4.98トン
登録長 11.80メートル
機関の種類 ディーゼル機関
漁船法馬力数 50

3 事実の経過
 妙見丸は,昭和54年3月に進水し,船体中央やや後方に操舵室を有するレーダーが装備されていないFRP製漁船で,同室内にマグネットコンパス,GPSプロッタ,魚群探知機等を備えており,平成14年1月交付の二級小型船舶操縦士(5トン限定)の免状を受有する,A受審人が弟で甲板員のBと2人で乗り組み,前日の夕刻に仕掛けた底建網の漁獲物を早朝に出荷する目的で,船首0.6メートル船尾1.0メートルの喫水をもって,平成16年12月14日00時00分福岡県柏原漁港を発し,同漁港北方の漁場に至って揚網したのち,同時50分ごろ帰途に就く準備にかかった。
 ところで,柏原漁港は,遠賀川河口の右岸に位置する第2種漁港で,同漁港西部の堂山(22メートル頂)から北西方に伸びる埋立地と,同漁港東部から北西方に伸びる狩尾鼻とに囲まれ,響灘に面して北西方に開口しており,同漁港の北面にあたる,狩尾鼻から西方350メートルばかりまでの範囲は,多くの瀬や干出岩が点在する険礁域となっていて,このことを地元の漁業者は知っており,夜間,同漁港に入航する漁船は,同険礁域に接近しないように注意して航行していた。
 そして,A受審人は,同険礁域を替わすため,灯高12メートルで群閃赤光の柏原港西防波堤灯台(以下「西防波堤灯台」という。)と,同漁港南部にある小高い丘の上の,同灯台から141度(真方位,以下同じ。)425メートルのところに設置された低圧ナトリウムランプでオレンジ光を放つ街灯とを重視して船位の確認を行い,その線上に占位した状態で同漁港の北西方から安全に入航するようにしていた。
 00時52分A受審人は,西防波堤灯台から010度1,360メートルの漁場を発進し,針路を236度に定め,機関を毎分1,000回転の微速力前進にかけ,3.0ノットの対地速力で進行し,B甲板員が前部甲板上で魚の選別を行っていたことから,同甲板上に吊した3キロワットの揚網時に使用する白色作業灯を点灯したままとし,その光源が眼高よりわずかに高い位置にあって前方が見えにくい状況の下,手動操舵により進行した。
 00時56分半A受審人は,西防波堤灯台から353度1,120メートルの地点に差しかかったとき,左舷前方の陸岸にオレンジ光を放つ明かりを認めたものの,前部甲板の作業灯を点灯した状態では,同明かりが予定の針路目標となる街灯の明かりかどうか分からない状況であったが,いつも利用している明かりなので間違えることはないだろうと思い,同灯台と予定の目標とを重視して船位の確認ができるよう,いったん前部甲板の作業灯を消して目標の確認を行わなかったので,その明かりが,遠賀川河口に架かるなみかけ大橋に多数設置された道路灯の一連となったオレンジ光の一部で,堂山と柏原漁港南方にある魚見山(41メートル頂)との間から見えている別の明かりであることに気付かず,同時00時57分少し前西防波堤灯台から352度1,100メートルの地点に達したとき,同灯台の灯光と道路灯のオレンジ光とが重なって見えたことから,針路を172度に転じた。
 こうして,A受審人は,針路目標とする物標を取り違えたまま,同じ針路及び速力で続航中,01時00分西防波堤灯台から352度780メートルの地点において,妙見丸は,原針路,原速力のまま,険礁域の北西部に乗り揚げた。
 当時,天候は晴で風力2の北風が吹き,潮候は下げ潮の中央期であった。
 乗揚の結果,離礁を試みたものの成功せず,潮位が下がり船体が横転してその後大破し,僚船の来援を得て引き降ろされたが,のち事情により廃船処分とされた。

(海難の原因)
 本件乗揚は,夜間,福岡県柏原漁港北方の漁場から同漁港に向けて帰航中,同漁港への入航針路に転じる際,船位確認が不十分で,同漁港北方の険礁域に向かって進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,夜間,福岡県柏原漁港北方の漁場から,前部甲板の作業灯を点灯して前方が見えにくい状況の下,同漁港に向けて帰航中,陸上に明かりを認め,同漁港への入航針路に転じる場合,灯台と陸上の特定の物標とを重視することで,同漁港北方にある険礁域を替わしていたのであるから,予定どおりに灯台と同物標を重視して船位の確認ができるよう,いったん同作業灯を消灯して同物標の確認を十分に行うべき注意義務があった。ところが,同人は,いつも利用している明かりなので間違えることはないだろうと思い,同作業灯を消灯して同物標の確認を十分に行わなかった職務上の過失により,物標を取り違えたことに気付かないまま転針して,同漁港北方の険礁に乗り揚げる事態を招き,妙見丸を横転大破させ,廃船処分とさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。





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