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平成17年門審第68号
件名

油送船第三喜隆丸乗揚事件(簡易)

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成17年11月16日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(織戸孝治)

副理事官
三宅和親

受審人
A 職名:第三喜隆丸船長 海技免許:五級海技士(航海)
B 職名:第三喜隆丸一等航海士 海技免許:四級海技士(航海)

損害
第三喜隆丸・・・船首船底部付近に凹損等
響灘1号防波堤・・・防波堤を構成する消波ブロック破損

原因
船位確認不十分

裁決主文

 本件乗揚は,関門第二航路を航行しなかったばかりか,船位の確認が不十分で,響灘1号防波堤に向首進行したことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成17年4月25日23時20分
 関門港
 (北緯33度57.3分 東経130度49.5分)

2 船舶の要目
船種船名 油送船第三喜隆丸
総トン数 493トン
全長 65.32メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 735キロワット

3 事実の経過
 第三喜隆丸(以下「喜隆丸」という。)は,瀬戸内海西部及び九州の各港間でガソリン,軽油及び灯油の運搬に従事する鋼製船尾船橋型油タンカーで,A受審人及びB受審人ほか4人が乗り組み,ガソリン及び軽油合計950キロリットルを積載し,船首2.7メートル船尾3.8メートルの喫水をもって,平成17年4月25日21時20分宇部港を発し,関門海峡経由で唐津港に向かった。
 ところで,A受審人は,航海船橋当直体制に関し,二等航海士が乗船初日であったことから,同航海士とB受審人に航程の前半の船橋当直にあたらせ,その後半を自ら行うこととしていた。
 21時40分A受審人は,宇部港港外で発航操船を終えたのち,B受審人に船橋当直を引き継ぐ際,同人から関門港を単独で通過した経験が豊富であることを聞いていたことから,同人に同港通過時の操船を任せても大丈夫と思い,同港内を通過する際の圧流や他船の動向等に注意するよう指示しただけで,同港を通過する際に自ら操船の指揮をとることなく,以後の操船を同人に委ね,翌26日00時30分からの自身の入直に備え,降橋して自室で休息した。
 こうしてB受審人は,二等航海士を見張りに就け,22時15分関門海峡東口の部埼を航過して関門航路の右側をこれに沿って,手動操舵により目視とレーダーで見張りにあたって西航し,同時55分台場鼻灯台から149度(真方位,以下同じ。)2.7海里の地点で,針路を321度に転じ,折からの西流に乗じて11.8ノットの対地速力で進行した。
 23時08分半わずか前B受審人は,台場鼻灯台から221度675メートルの地点で,ショートカットして響灘に抜けることとし,関門第二航路の右側をこれに沿って航行することなく,響灘1号防波堤先端付近に寄せてその沖を航過するつもりで,左転して西進し,反航船等を替わしたのち,同時12分わずか前関門第二航路左側端付近の,同灯台から264度1,625メートルの地点に達したとき,針路を285度に定めて続航した。
 定針後,B受審人は,右舷船首方の響灘方面から関門第二航路に向け東進する態勢の数隻の船舶がいたことから,これらの動向に気を奪われて,レーダーを活用するなどして船位の確認を十分に行わなかったので,響灘1号防波堤先端に向首接近する状況となったが,このことに気付かず,原針路,原速力で進行中,23時20分少し前船首至近距離に迫った同防波堤に気付いて,急ぎ機関を全速力後進にかけるとともに左舵一杯をとったが及ばず,23時20分若松洞海湾口防波堤灯台から303度2,800メートルの地点で,喜隆丸は,ほぼ原針路,原速力のまま響灘1号防波堤に乗り揚げた。
 当時,天候は晴で風はほとんどなく,月出時刻は20時00分,月齢は15.8で,潮候は下げ潮の初期であった。
 A受審人は,自室で就寝中,衝撃により目覚め,昇橋して乗り揚げたことを知り,事後の措置にあたった。
 乗揚の結果,喜隆丸は,船首船底部付近に凹損などを生じ,サルベージ船により引き下ろされ,響灘1号防波堤は,同防波堤を構成する消波ブロックが破損したが,のち修理又は復旧された。

(海難の原因)
 本件乗揚は,夜間,関門港を通過する際,関門第二航路を航行しなかったばかりか,船位の確認が不十分で,響灘1号防波堤に向首進行したことによって発生したものである。
 運航が適切でなかったのは,関門港を通過する際,船長が,自ら操船の指揮をとらなかったことと,当直者が,関門第二航路を航行しなかったばかりか,船位の確認を十分に行わなかったこととによるものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,夜間,関門港を通過する場合,自ら操船指揮をとるべき注意義務があった。ところが,同人は,B受審人から関門港を単独で通過した経験が豊富であることを聞いていたことから,同人に同港通過時の操船を任せても大丈夫と思い,自ら操船指揮をとらなかった職務上の過失により,B受審人が操船して同港を通過する際,関門第二航路を航行せず,響灘1号防波堤に向首進行して乗揚を招き,喜隆丸の船首船底部付近に凹損などを生じさせ,響灘1号防波堤を構成する消波ブロックを破損させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は,夜間,関門港を響灘に向けて通過する場合,関門第二航路の右側をこれに沿って航行すべき注意義務があった。ところが,同人は,ショートカットして響灘に抜けることとし,関門第二航路の右側をこれに沿って航行しなかった職務上の過失により,響灘1号防波堤に向首進行して乗揚を招き,前示のとおり損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。





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