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平成17年門審第58号
件名

押船第十五豊栄丸被押バージ豊隆乗揚事件(簡易)

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成17年10月24日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(千手末年)

副理事官
三宅和親

受審人
A 職名:第十五豊栄丸船長 海技免許:五級海技士(航海)

損害
豊隆・・・船首部船底外板及び同部両舷側外板に亀裂を含む凹損,スラスタートンネル等損傷

原因
居眠り運航防止措置不十分

裁決主文

 本件乗揚は,居眠り運航の防止措置が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aの五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 
裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年9月5日12時03分
 関門港西山区丸山岬

2 船舶の要目
船種船名 押船第十五豊栄丸 バージ豊隆
総トン数 297トン  
全長 28.05メートル 81.37メートル
機関の種類 ディーゼル機関  
出力 2,206キロワット  

3 事実の経過
 第十五豊栄丸は,沿海区域を航行区域とし,2機2軸2舵を備えた鋼製押船で,A受審人ほか4人が乗り組み,その船首部を豊隆の船尾凹部に嵌合させ,また,豊隆は,船体中央部に貨物倉1個を,その前部甲板上に旋回式ジブクレーンを,船首部にスラスターをそれぞれ備えた非自航の鋼製バージで,海砂1,500立方メートルを積載し,船首3.10メートル船尾5.20メートルの喫水をもって,第十五豊栄丸に押されて全長約88メートルの押船列(以下「豊栄丸押船列」という。)を構成し,平成15年9月5日11時05分関門港若松区第1区の堀川公共岸壁を発し,大阪港堺泉北区に向かった。
 ところで,A受審人は,これより先の,福岡県玄界島沖合を関門港に向けて航行中の同日03時少し前,二等航海士が夜間の単独船橋当直に慣れていなかったこともあって,自らが船橋当直に就いて九州北岸沖を東行し,関門港西口から前記岸壁に至るまでの入航操船に当たったほか,積み荷役の当直にも就いたことから,休養が不足して疲労が蓄積する状況となっており,同荷役が終了する少し前の10時30分ごろ発航準備のため昇橋したとき,疲労感を覚えるようになっていた。
 このような状況のもと,A受審人は,奥洞海航路,若松航路,そして関門航路と連続する航路を自らの操船で出航することとしたものの,疲労が蓄積した状況では,操船中,緊張がほぐれたときなどに急激に居眠りに陥ることもあり得る状況となっていたが,操船中は緊張しているので居眠りすることはないだろうと思い,関門港東口付近に至るまでの間,休息中の二等航海士を昇橋させて2人当直とするなど,居眠り運航を防止する措置をとることなく,発航していた。
 A受審人は,単独の船橋当直に就き,舵輪後方に置いたいすに腰掛けて操船に当たり,奥洞海航路を経て若松航路に入り,11時43分若松洞海湾口防波堤灯台から224度(真方位,以下同じ。)1,570メートルの地点に達したとき,引き続き機関を半速力前進にかけ,針路を航路に沿う080度に定め,7.0ノットの対地速力で,手動操舵によって進行した。
 11時50分半A受審人は,同灯台から153度970メートルの地点に差しかかったとき,それまで先航する内航貨物船との距離が近かったことから緊張していたものの,その距離が開き始めたことから,緊張感がなくなるとともに覚醒度が急激に低下し,いすに腰掛けた姿勢で,わずかに左舵をとったまま居眠りに陥った。
 こうして豊栄丸押船列は,居眠り運航となり,11時55分関門航路の境界線付近に達し,間もなく右転して同航路に沿う針路とすべき状況となったものの,転針が行われず,徐々に左転しながら関門港西山区に向かって同じ速力で同航路を横断し,12時03分下関荒田防波堤灯台から322度2,000メートルの地点において,東北東を向いた状態で,豊隆の船首部が関門港西山区の岩場に乗り揚げた。
 当時,天候は晴で,風はほとんどなく,視界は良好で,潮候は下げ潮の末期にあたり,乗揚地点付近の関門航路中央部では約1ノットの南東流があった。
 A受審人は,乗揚の衝撃で目覚め,事後の措置に当たった。
 乗揚の結果,豊隆の船首部船底外板及び同部両舷側外板に亀裂を含む凹損を,スラスタートンネル等に損傷をそれぞれ生じたが,引船によって引き下ろされ,のち修理された。

(原因)
 本件乗揚は,関門港若松区から大阪港堺泉北区に向かう目的で,若松航路を出航するにあたり,居眠り運航の防止措置が不十分で,関門航路を横断し,関門港西山区の岩場に向かって進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,関門港若松区から大阪港堺泉北区に向け発航する場合,これまでに,入港する前の夜間の船橋当直及び入航操船に引き続いて荷役当直にも就いており,休養不足で疲労が蓄積した状態のまま,単独で長時間の出航操船を行えば,途中,緊張がほぐれたときなどに急に居眠りに陥ることもあり得る状況となっていたから,居眠り運航とならないよう,関門港東口付近に至るまでの間,休息中の二等航海士を昇橋させて2人当直とするなど,居眠り運航を防止する措置をとるべき注意義務があった。しかるに,同人は,出航操船中は緊張しているので居眠りすることはないだろうと思い,休息中の二等航海士を昇橋させて2人当直とするなど,居眠り運航を防止する措置をとらなかった職務上の過失により,単独で操船中に自らが居眠りに陥って居眠り運航となり,関門航路を横断し,関門港西山区の岩場に向かって進行して乗揚を招き,豊隆の船首部船底外板及び同部両舷側外板に亀裂を含む凹損を,スラスタートンネル等に損傷をそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して同人の五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。





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