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平成17年広審第29号
件名

貨物船ゴッデス乗揚事件

事件区分
乗揚事件
言渡年月日
平成17年10月18日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(道前洋志,川本 豊,黒田 均)

理事官
阿部房雄

指定海難関係人
A 職名:ゴッデス船長

損害
球状船首圧壊及び船首船底に凹損

原因
船位確認不十分

主文

 本件乗揚は,船位の確認が十分でなかったことによって発生したものである。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年9月22日01時25分
 愛媛県怒和島水道
 (北緯33度58.7分 東経132度32.1分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 貨物船ゴッデス
総トン数 8,890トン
全長 135.8メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力  7,982キロワット
(2)設備及び性能等
 ゴッデスは,平成9年日本において建造された船尾船橋型鋼製コンテナ船で,船橋楼と船首楼との間に4個の貨物倉及び1,2番倉及び3,4番倉との各間に荷役用のデリックポストを備えており,バウスラスター,自動操舵装置,レーダー2台及びGPSプロッターを装備していた。

3 広島湾から伊予灘に向かう水道
 広島湾から伊予灘に向かう水道は,東側から順に,中島と怒和島との間のクダコ水道,怒和島と津和地島との間の怒和島水道及び津和地島と情島との間の諸島水道があり,航程は,諸島水道が最短で,怒和島水道は約2.5海里長く,更にクダコ水道は怒和島水道より約4.5海里長かった。
(1)クダコ水道
 クダコ水道は,その中央にあるクダコ島によって東西の水道に分けられており,両水道とも幅約1,100メートルであるが東側が主水道となっており,大型船の主な通航路となっていた。
(2)怒和島水道
 怒和島水道は,東側の怒和島と西側の津和地島に挟まれた水深10メートルの可航幅が約700メートルで,怒和島北西端沖には広島湾奥に向かって右舷標識であるオコゼ岩灯標,及び津和地島中央部南方沖には左舷標識である油トリ瀬灯標が設置されていた。また,怒和島西側中央部の元怒和島漁港には,陸岸から同漁港西方200メートルのところに存在する板倉島までと,同島から南方に延びる100メートルばかりの防波堤がL字型に設置されており,南方に延びる防波堤先端には4秒に1閃光する単閃緑光の標識灯が設置されていたが,海図には同防波堤及び同標識灯は記載されていなかった。そして,瀬戸内海水路誌には,同水道北方の羽山島東端と同水道南方の二神島中央の米山を結ぶ175度(真方位,以下同じ。)の針路法図が記載されていた。
(3)諸島水道
 諸島水道は,その南口にある諸島によって東西の水道に分けられており,東側水道は幅約350メートル,西側水道は幅約400メートルであったが,いずれもその最狭部で変針しなければならなかった。

4 事実の経過
 ゴッデスは,A指定海難関係人ほかインドネシア共和国人など17人が乗り組み,実入りコンテナ285個,空コンテナ62個及び海水バラスト3,000トンを積載し,船首6.1メートル船尾8.4メートルの喫水で,平成16年9月21日23時36分山口県岩国港を発し,怒和島水道経由で同県徳山下松港に向かった。
 A指定海難関係人は,出港操船に引き続いて船橋当直に就き,レーダーを2台とも起動し,二等航海士を見張りに,甲板手を手動操舵にそれぞれ当たらせて柱島水道を南下した。
 翌22日01時16分A指定海難関係人は,オコゼ岩灯標から333度1,100メートルの地点で,針路を怒和島水道の中央部に向首する175度に定め,機関を回転数毎分105にかけ,折からの北流に抗して9.0ノットの速力(対地速力,以下同じ。)で進行した。
 A指定海難関係人は,怒和島水道を航過してから右転する予定で続航していたところ,01時20分左舷船首27度0.7海里ばかりのところに元怒和島漁港防波堤に設置されている緑色標識灯を視認し,右舷側に見えるはずの油トリ瀬灯標の緑灯が左舷側に見えたのではないかと船位に不安を覚えたので,二等航海士に対し,「左舷側に見える緑灯は何か。」と尋ねたところ,同航海士から,「あの緑灯は海図に記載されていないものです。」との返事を受けたものの,依然として船位に不安を覚えていたが,速やかにレーダーを使用して船位の確認を十分に行わなかった。
 01時21分A指定海難関係人は,オコゼ岩灯標から223度600メートルの地点に達したとき,視認した緑色標識灯を船首少し右に見るよう針路を148度に転じたところ,元怒和島漁港防波堤に向首するようになったが,このことに気付かず,01時22分機関停止を命じ,自ら海図室に入って海図W1131によって前示緑色標識灯の確認を行い,同灯が海図に記載されていないことを知った。
 01時23分A指定海難関係人は,海図室から出たとき緑色標識灯にほぼ向首進行しているのを認め,次いで01時24分船首方に元怒和島漁港防波堤を視認し,驚いて全速力後進,右舵一杯を令したが及ばず,01時25分オコゼ岩灯標から176度1,300メートルの地点において,ゴッデスは,184度に向首し,7.0ノットの速力で,板倉島北岸に乗り揚げた。
 当時,天候は曇で風力3の西風が吹き,怒和島水道には1ノットばかりの北流があり,視界は良好であった。
 乗揚の結果,球状船首を圧壊し,船首船底に凹損などを生じたが,救援船によって引き降ろされ,のち修理された。

(本件発生に至る事由)
1 元怒和島漁港防波堤及び緑色標識灯が海図に記載されていなかったこと
2 クダコ水道を経由しないで怒和島水道を経由したこと
3 左舷船首方に見えた緑色標識灯を右舷側に見えるはずの油トリ瀬灯標の緑灯が左舷側に見えたのではないかと船位に不安を覚えたこと
4 レーダーを使用して船位の確認を十分に行わなかったこと

(原因の考察)
 本件は,夜間,ゴッデスが怒和島水道の中央部を南下し,同水道を航過してから右転する予定でいたところ,同水道中央部で左転して乗り揚げたもので,A指定海難関係人が怒和島水道通航中に船位に不安を覚えた際,レーダーによる船位の確認を十分に行っていれば,予定通り怒和島水道の中央部を南下していることが分かって左転することはなく,本件発生は未然に防止できたものと認められる。
 したがって,A指定海難関係人が,左舷船首方に見えた緑色標識灯を右舷側に見えるはずの油トリ瀬灯標の緑灯が左舷側に見えたのではないかと船位に不安を覚えたのに,レーダーを使用して船位の確認を十分に行わなかったことは本件発生の原因となる。
 元怒和島漁港防波堤及び緑色標識灯が海図に記載されていなかったこと及びクダコ水道を経由しないで怒和島水道を経由したことは,船位の確認を十分に行っていれば本件は発生していなかったものと認められることから,本件発生の原因とならない。

(海難の原因)
 本件乗揚は,夜間,愛媛県怒和島水道を南下する際,船位の確認が不十分で,左転して板倉島に向かって進行したことによって発生したものである。

(指定海難関係人の所為)
 A指定海難関係人が,夜間,愛媛県怒和島水道を南下中,左舷船首方に見えた緑色標識灯を右舷側に見えるはずの油トリ瀬灯標の緑灯ではないかと船位に不安を覚えた際,レーダーを使用して船位の確認を十分に行わなかったことは,本件発生の原因となる。
 A指定海難関係人に対しては,勧告しないが,夜間,狭水道を通航する際には,レーダーを使用して船位の確認を十分に行わなければならない。

 よって主文のとおり裁決する。





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