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平成17年横審第28号
件名

漁船第五豊秀丸ボードセーラー負傷事件

事件区分
死傷事件
言渡年月日
平成17年8月11日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(岩渕三穂,黒岩 貢,濱本 宏)

理事官
小須田 敏

受審人
A 職名:第五豊秀丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
補佐人
a,b
指定海難関係人
B 職名:ボードセーラー
補佐人
c

損害
第五豊秀丸・・・ない
ボードセーラー・・・ボードセーラーが1箇月間の加療を要する左腓骨頭骨折,左膝靱帯損傷等

原因
第五豊秀丸・・・見張り不十分,船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
ボードセーラー・・・見張り不十分(一因)

主文

 本件ボードセーラー負傷は,第五豊秀丸が,見張り不十分で,帆走中のボードセーラーを避けなかったことによって発生したが,ボードセーラーが,見張り不十分で,衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aの小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。

理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年9月6日16時50分
 静岡県浜名湖
 (北緯34度46.8分 東経137度35.9分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 漁船第五豊秀丸
総トン数 1.1トン
登録長 7.63メートル
機関の種類 ディーゼル機関
漁船法馬力数 25
(2)設備及び性能等
ア 第五豊秀丸(以下「豊秀丸」という。)は,平成3年12月に進水した採介藻漁業及び刺し網漁業に従事する船外機付きFRP製漁船で,船体中央部に2箇所のいけす及び船尾に操舵スタンドが設けられ,同スタンド後方に立った姿勢で操船に当たった際,構造上前方の見通しを妨げる設備はなかった。
イ セールボード
 B指定海難関係人がウインドサーフィンに使用していたセールボードは,ボードの長さ2.48メートル,幅0.63メートル厚さ0.12メートル,重量6キログラム及び浮力100リットルのFRP製で,リグとして高さ4.60メートルのマストに,面積6.2平方メートルのセール及び横張ブームが取り付けられ,同セールの大部分は赤色不透明だが,マストと横張ブームとの接合部分が無色透明で,そこから反対側を見通せるようになっていた。

3 事実の経過
 豊秀丸は,C組合D支所で同船を上架し,A受審人が船底塗装を施したのち,同人が1人で乗り組み,回航の目的で,船首0.05メートル船尾0.40メートルの喫水をもって,平成15年9月6日16時40分同支所船溜りを発し,同市三ヶ日町大崎馬門の係留地に向かった。
 A受審人は,陸岸沿いに航行し,16時44分少し過ぎ浜名湖橋を航過ののち,東名高速道路浜名湖サービスエリア(以下「サービスエリア」という。)の東方沖合に達し,同沖合から係留地に向けた直航針路上に少し波が立っているのを見たことから,塗装後あまり時間の経っていない塗料が波により船底をたたかれて剥離(はくり)しないよう,風波の弱い岸寄りの進路をとることとし,サービスエリアの西側に回った後,16時48分浜名湖橋西方約750メートルの標高0.9メートルの三角点(以下「基点」という。)から335度(真方位,以下同じ。)310メートルの地点で,針路を同市三ヶ日町新田南方沖合に向首する277度に定め,機関を半速力前進にかけて11.0ノットの対地速力で,手動操舵により進行した。
 ところで,三ヶ日町新田の東側海岸にはE社のウインドサーファー用桟橋が設備され,休日ともなるとボードセーラーが多数帆走し,A受審人もこのことを知っていた。
 A受審人は,船尾中央の操舵スタンドに立って操舵輪を握り,16時49分少し前基点から307度520メートルの地点に達したとき,左舷船首30度500メートルに北方に進行中のボードセーラー2艇を認め,その後同2艇との方位に変化なく接近したので,増速して同2艇の前路を替わそうと思い,16時49分半16.2ノットの速力として続航した。
 増速したときA受審人は,ほぼ正船首方250メートルにB指定海難関係人の乗ったセールボード(以下「B号」という。)を認めることができ,その後同艇と接近して衝突の危険を生じたが,左舷船首方の前示2艇に注目していて,正船首方の見張りを十分に行わなかったので,このことに気付かずに続航中,16時50分わずか前左舷の同2艇を約10メートルの距離で替わしたとき,右舷至近にセールが倒れるのを認め,急ぎ機関のクラッチを中立とし左舵一杯をとったが効なく,豊秀丸は,16時50分基点から293度950メートルの地点において,原針路,原速力のまま,その右舷船首部が,B号の左舷中央部に後方から67度の角度で衝突した。
 当時,天候は晴で風力1の西南西風が吹き,視界は良好であった。
 A受審人は,クラッチを中立としたまま左回頭して現場に戻り,衝突直前に海中避難したB指定海難関係人を船尾につかまらせて前示桟橋に寄せるなど事後の措置に当たった。
 また,B指定海難関係人は,同日14時ごろ自家用車で三ヶ日町のホテル駐車場に到着し,セールボードをセッティングして前示桟橋付近から湖に入り,14時30分風速毎秒6メートルほどの東風下,時速約15キロメートルの速力で帆走後,15時30分いったん駐車場内の車に戻って休憩した。
 休憩後B指定海難関係人は,再び帆走の練習をすることとし,16時20分,1人でセールボードに乗り,折からの風が毎秒1ないし2メートルと弱くなった状況下,進んだり止まったりを繰り返して微風時の帆走とセールを回す練習を始めた。
 16時48分B指定海難関係人は,基点から294度950メートルの地点で,進行方向が多少振れるものの,ほぼ210度に向首し,時速0.5キロメートルの前進速力で進行していたとき,左舷船尾68度750メートルから来航する豊秀丸を認めることができる状況であったが,同船がサービスエリアを背景にし,また,ポートタックで同船に背を向ける姿勢でセールボードに立ち,わずかな速力でも落水せずにセールを回す練習をしていたので,このことに気付かなかった。
 16時49分半B指定海難関係人は,豊秀丸が左舷船尾68度250メートルとなり,接近して衝突の危険が生じていたが,依然左舷船尾方に対する見張りを十分に行っていなかったので,このことに気付かず,急旋回して同船の進路から離れるなり,帆走を中止するなりして衝突を避けるための措置をとることなく,引き続き同じ方向に向首して帆走中,16時50分わずか前機関音を聞いて振り返ったとき,目前に豊秀丸を認め,急ぎ前方海中に飛び込んだが及ばず,B号は,210度に向首したまま,前示のとおり衝突し,豊秀丸の船底部分が,海中で同人の右肩,左肘,左膝に接触した。
 その結果,豊秀丸及びセールボードは,ともに損傷なく,B指定海難関係人は救急車で病院に運ばれ,1箇月間の加療を要する左腓骨頭骨折,左膝靱帯損傷等と診断された。

(本件発生に至る事由)
1 豊秀丸
(1)波で船底をたたかれないよう,岸寄りの進路をとったこと
(2)左舷船首方のボードセーラー2艇を替わす際,同2艇に注目していて,正船首方の見張りを行わなかったこと
(3)B号を避けなかったこと

2 B号
(1)左舷船尾方の見張りを行わなかったこと
(2)衝突を避けるための措置をとらなかったこと

(原因の考察)
 豊秀丸が,左舷船首30度500メートルに認めたボードセーラー2艇を増速して替わす際,正船首方の見張りを十分に行っていたなら,B号に容易に気付くことができ,行きあしを停止するなどして同艇との衝突を回避でき,本件負傷は発生しなかったものと認められる。
 したがって,A受審人が,左舷船首方のボードセーラー2艇を替わす際,同2艇に注目していて,正船首方の見張りを十分に行わなかったこと及びB号を避けなかったことは,本件発生の原因となる。
 一方,当該ボードセーラーが,帆走中に左舷船尾方の見張りを十分に行っていたなら,接近する豊秀丸を余裕のある時期に視認でき,急旋回して同船の針路から離れるなり,帆走を中止するなりして同船との衝突を回避でき,本件負傷は発生しなかったものと認められる。
 したがって,B指定海難関係人が,左舷船尾方の見張りを十分に行わなかったこと及び衝突を避けるための措置をとらなかったことは,本件発生の原因となる。
 A受審人が,波で船底をたたかれないよう,岸寄りの進路をとったことは,見張りを十分に行うことを妨げる理由にはならず,原因とならない。

(海難の原因)
 本件ボードセーラー負傷は,静岡県浜名湖において,豊秀丸が,見張り不十分で,帆走中のボードセーラーを避けなかったことによって発生したが,ボードセーラーが,見張り不十分で,衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。

(受審人等の所為)
1 懲戒
 A受審人は,静岡県浜名湖において,係留地に向け西航する場合,付近海域はボードセーラーが帆走する海域であることを知っていたから,前路で帆走中のB号を見落とすことのないよう,正船首方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに,同受審人は,左舷船首方のボードセーラー2艇を替わすことに気を取られ,正船首方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により,B号に気付かないまま進行して衝突を招き,B指定海難関係人に1箇月間の加療を要する左腓骨頭骨折,左膝靱帯損傷等を負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。

2 勧告
 B指定海難関係人が,静岡県浜名湖において,セールボードで帆走中,左舷船尾方の見張りを十分に行わなかったことは,本件発生の原因となる。
 B指定海難関係人に対しては,勧告しないが,以後帆走に当たっては,見張りを十分に行って事故防止に努めなければならない。

 よって主文のとおり裁決する。





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