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平成17年神審第30号
件名

水上オートバイ成遊泳者負傷事件

事件区分
死傷事件
言渡年月日
平成17年7月28日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(横須賀勇一,佐和 明,甲斐賢一郎)

理事官
阿部直之

受審人
A 職名:成船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
遊泳者が2週間の通院加療を要する頭部打撲及び頸椎捻挫の負傷

原因
遊泳者との距離不十分

主文

 本件遊泳者負傷は,遊泳者との距離を十分に離さなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年8月1日12時25分
 石川県河北郡内灘町内灘海岸海水浴場
 (北緯36度38.5分東経136度37.3分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 水上オートバイ成
全長 2.84メートル
機関の種類 電気点火機関
出力 55キロワット
(2)設備及び性能等
 成は,B社が製造して平成9年5月に第1回定期検査を受けたウォータージェット推進装置を有するFRP製の2人乗り水上オートバイで,ステアリングハンドル(以下「ハンドル」という。)の右グリップに備えられたスロットルレバーの引き具合で速力を毎時40キロメートルまで調整でき,左グリップにはスタート,ストップ及び緊急停止の各ボタンがあり,ハンドルを右,または左に切ると,船体後部にあるジェットノズルから出るジェット噴流の向きが変わることにより旋回するものであった。
 成は,喫水が浅く,水深が浅い海岸線付近を航行することが可能であったが,低速で海岸線付近を進行するとその船底の形状等により船体が不安定となりやすく,0.5メートルの波高でも横波を受けると船体が傾斜して横移動しやすいものであった。

3 内灘海岸
 内灘海岸は,日本海に面した遠浅の砂浜海岸で,夏期には,海水浴客が大勢訪れるが,砂浜の波打ち際から水上オートバイをおろすことができるので,砂浜付近で水上オートバイの遊走が盛んであった。
 内灘町等では,海水浴客の安全対策として,水上オートバイを遊泳者に接近させないようにするため,海域には砂浜から沖合100メートル付近まで遊泳区域を設けてネットを張り,陸上には海水浴場と水上オートバイ積載車の乗入れ自粛区域を定めて分離柵や周知用の掲示板を設置するなどの行政指導を行っていた。

4 事実の経過
 A受審人は,友人4人と共に水上オートバイの遊走を楽しむ目的で,平成16年8月1日11時30分石川県河北郡内灘町内灘海岸に集合し,浜辺でバーベキューをしながら適宜交替で同海岸沖合400メートルの海域において遊走を繰り返していた。
 A受審人は,自ら船長として1人で操縦に当たり,船首0.10メートル船尾0.15メートルの喫水をもって,12時24分金沢港西防波堤灯台(以下「西防波堤灯台」という。)から099度(真方位,以下同じ。)1,900メートルの地点において,針路を250メートル先の遊泳区域の北西端に向く033度に定めて発進し,毎時9キロメートルの速力(対地速力,以下同じ。)で,波打ち際に沿って進行した。
 発進したとき,遊泳区域の外側の水面でも遊泳者を散見していたA受審人は,右舷船首1度150メートルのところにも遊泳中のC(以下「C遊泳者」という。)がいることを認めていた。
 ところで,遠浅の海岸に打ち寄せる波は,沖合では低くて認めにくいほどの風浪やうねりが,海岸から数十メートルのところまで進んでくると急に高くなることがある。これは,深海での波長が,約20分の1の水深のところにくると,波長が短くなるため波形勾配が急速に増すということから説明でき,このとき,水粒子の運動の水平速度が,急速に増し,波が水面を進むというよりは,水粒子が波と共に横移動する状態となることが知られている。
 こうして,12時24分半少し過ぎA受審人は,西防波堤灯台から096度1,930メートルの地点に達したとき,右舷船首2度50メートルのところにC遊泳者を認め,このまま進行すると同遊泳者との距離が約2メートルと著しく接近し,砂浜海岸に打ち寄せる横波を受けると船体が傾斜してコントロールを失い,横移動して同遊泳者と接触するおそれがある状況となったが,海上も穏やかなので,同遊泳者を右に見て替わればよいと思い,この状況に気付かず,同遊泳者との距離を十分に離すことなく続航した。
 12時25分わずか前A受審人は,C遊泳者が右舷船首21度6メートルに迫ったとき,折から高起した波高0.5メートルの横波を受け,船体が急激に右傾斜して横移動しながら,同遊泳者に向かう態勢となったので,慌ててハンドルを左にとったが,船体を立て直すことができないまま,12時25分西防波堤灯台から095度1,960メートルの地点において,船首を北東に向け,原速力のまま,その船首船底部がC遊泳者の左頭部に接触した。
 当時,天候は晴で風はほとんどなく,海上は平穏であった。
 一方,C遊泳者は,友人2人及び子供2人と水上オートバイの遊走目的で,内灘海岸に車で来たものの,混雑のため水上オートバイをおろすことができず,12時00分海水浴場の駐車場に車をおいて遊泳することにした。
 C遊泳者は,12時15分青と黒色のライフジャケットを着用して分離柵の延長線上の北東側で,子供2人を連れて遊泳を始めた。
 12時25分わずか前C遊泳者は,前示接触地点の水深約1.0メートルの地点において,沖に向かって立っていたとき,左方向からブーンという音が聞こえてきたので,左を向くと白波を立てて接近する成を認め,危険を感じ,子供の手を取って避けようとしたものの,前示のとおり,成と接触した。
 その結果,C遊泳者は,2週間の通院加療を要する頭部打撲及び頸椎捻挫を負った。

(本件発生に至る事由)
1 砂浜海岸の波打ち際に沿う針路で進行したこと
2 海上も穏やかなので,このまま進行しても遊泳者を右に見て替わればよいと思ったこと
3 C遊泳者を認めた際,同遊泳者との距離を十分に離さなかったこと
4 成が横波を受けて船体が傾斜してコントロールを失い,横移動したこと

(原因の考察)
 本件は,前路に遊泳者を認めた際,遊泳者との距離を十分に離して進行していれば,砂浜海岸に打ち寄せる横波によって横移動したとしても,同遊泳者との接触は避けられたものと認められる。
 したがって,A受審人が,前路にC遊泳者を認めた際,海上も穏やかなので,このまま進行しても同遊泳者を右に見て替わればよいと思い,同遊泳者との距離を十分に離して進行しなかったことは,本件発生の原因となる。
 砂浜海岸の波打ち際に沿う針路で進行したこと,横波を受けて船体が傾斜してコントロールを失い,横移動したことは,いずれも,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,水上オートバイの使用目的及びその性能からも,原因とならない。

(海難の原因)
 本件遊泳者負傷は,石川県河北郡内灘町内灘海岸の海水浴場に隣接した水上オートバイの発進地点から沖合の遊走海域に向かって進行中,前路の遊泳者との距離を十分に離さなかったことによって,砂浜海岸に打ち寄せる横波を受け,船体が傾斜してコントロールを失い,遊泳者に向け横移動して発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,石川県河北郡内灘町内灘海岸の海水浴場に隣接した水上オートバイの発進地点から沖合に向けて砂浜海岸の波打ち際に沿って進行中,前路に遊泳者を認めた場合,接触して負傷させることのないよう,遊泳者を十分に離すべき注意義務があった。しかるに,同人は,海上も穏やかなので,このまま進行しても遊泳者を右に見て替わればよいと思い,C遊泳者との距離を十分に離さなかった職務上の過失により,同遊泳者に著しく接近する態勢のまま進行し,砂浜海岸に打ち寄せる横波を受け,船体が傾斜してコントロールを失い,横移動してC遊泳者に接触する事態を招き,同遊泳者に頭部打撲及び頸椎捻挫等を負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。





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