日本財団 図書館




 海難審判庁採決録 >  2005年度(平成17年度) >  沈没事件一覧 >  事件





平成17年広審第12号
件名

貨物船ブルーオーシャン沈没事件

事件区分
沈没事件
言渡年月日
平成17年8月30日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(道前洋志,吉川 進,黒田 均)

理事官
前久保勝己

指定海難関係人
ブルーオーシャン船長

損害
ブルーオーシャン・・・沈没,のち廃船,二等航海士,機関長,司厨長及び司厨員が溺死
岸壁・・・多数の亀裂が生じ破壊

原因
気象・海象(台風接近)に伴う港外への避難勧告を受けた際,港外に避難しなかったこと

主文

 本件沈没は,着岸中に港長から台風接近に伴う港外への避難勧告を受けた際,港外に避難しなかったことによって発生したものである。
 指定海難関係人Aに対し勧告する。

理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年9月7日15時00分
 広島県広島港第3区
 (北緯34度20.4分 東経132度20.7分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 貨物船ブルーオーシャン
総トン数 3,249トン
全長 102.8メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 1,463キロワット
(2)設備及び性能等
 ブルーオーシャン(以下「ブ号」という。)は,1983年ドイツ連邦共和国において建造された船尾船橋型鋼製木材運搬船で,船橋楼下方に機関室,船橋楼と船首楼の間に2個の貨物倉及両倉の間に荷役用のデリックポストを備えており,係船索の太さは60及び80ミリメートルであった。

3 廿日市木材岸壁
 廿日市木材岸壁は,広島港の西端に位置して南側が広島湾に面しており,その前面の水深が8.7メートルから9.6メートルの,ほぼ東西に延びる長さ約350メートルの岸壁で,その南方には防波堤が設置されていなかったので南方からの風浪を遮ることができず,その影響を直接受ける状況であった。

4 平成16年台風18号
 平成16年台風18号(以下「台風18号」という。)は,8月28日マーシャル諸島付近で発生し,その後発達しながら西北西に進み,9月5日には925ヘクトパスカルに発達して沖縄本島南東海上を北西に進み,同日17時ころ同島を通過し,6日には東シナ海に達して針路を北東に変え,大型で強い勢力を維持したまま7日09時ころ長崎市付近に上陸したのち,九州北部及び中国地方を横断し,広島港では13時ころから南寄りの風が強まって風速毎秒30メートルばかりとなり,14時40分最大風速毎秒60.2メートルを記録し,8日09時北海道西方海上に達し,その後温帯低気圧に変わった。

5 広島地方気象台の注意報・警報発表状況
 広島地方気象台は,台風18号の接近に伴い,9月6日16時14分広島県南部に強風,波浪注意報を発表し,7日05時00分暴風,波浪警報及び大雨,洪水,高潮注意報に切り替え,南東のち南西の暴風となり最大風速が毎秒30メートル及び波高は3メートルに達し,そのピークは昼過ぎとなるので,船舶などに厳重な警戒を呼びかけ,10時05分に暴風,波浪,大雨,洪水,高潮警報に切り替えた。

6 広島港台風対策委員会規約
 広島港台風対策委員会規約の抜粋は次のとおりである。
 (目的)
第2条 広島港台風対策委員会(以下「委員会」という。)は,台風により,広島港において,海難の発生が予想される場合,これに備え,災害を防止し,船舶の安全確保に寄与することを目的とする。
 (実施事項)
第3条 委員会は,台風の来襲に際し,在港船舶に対する避難勧告の発動等について,広島港長(以下「港長」という。)の諮問に応じるほか,在港船舶の警戒体制を検討することなどについて港長に協力する。
 (警戒体制の決定)
第8条 広島港に台風の来襲が予想される場合,災害発生に備えて港長から在港船舶に対し,警戒体制が発動されるが,その区分と各船舶が措置すべき事項は次のとおりとする。
(1)第1警戒体制
 台風が中国,四国地方に接近するおそれがあると判断される場合,第1警戒体制が発動される。各船舶は次により措置するものとする。
イ 在港船舶は,台風の動向に留意して乗組員を待機させ,船舶代理店等陸上関係機関と連絡を密にして,荒天準備を行うほか,必要に応じて直ちに運航できるよう体制を整備すること。
(2)第2警戒体制
 台風が広島地方を通過する公算が極めて大きいと判断される場合,又は広島港が重大な影響を被ると判断される場合は,港長から第2警戒体制の発動,避難勧告が行われる。各船舶は次により措置するものとする。
イ 港内にある大型船舶は,原則として港外の安全な場所へ速やかに避難すること。

7 港長の警戒体制の発動状況
 港長は,平成16年9月6日18時00分第1警戒体制を発動し,更に7日05時00分第2警戒体制を発動して台風に対する警戒を呼びかけた。

8 事実の経過
 ブ号は,A指定海難関係人ほか17人のいずれもロシア人が乗り組み,原木3,217立方メートルをすべて倉内に積載し,平成16年9月2日19時00分(日本標準時,以下同じ。)ロシア連邦ナホトカ港を出港し,6日06時15分船首4.85メートル船尾5.20メートルの喫水をもって,広島港廿日市木材岸壁に,右舷錨鎖6節を延出し,バウライン2本,フォアブレストライン1本,フォアスプリングライン1本,アフタースプリングライン1本,アフターブレストライン1本及びスターンライン2本をとり,船首を066度(真方位,以下同じ。)に向けて左舷付けした。
 A指定海難関係人は,着岸後揚荷役を開始し,6日17時00分1,517立方メートルの原木を岸壁に揚げて当日の荷役を終了したのち,天気予報により台風18号が東シナ海を北上中で,7日正午ころには広島港に接近して毎秒40メートルばかりの南寄りの風が吹くことを知り,船舶代理店員(以下「代理店」という。)の訪船を受け,「明日は荷役ができるかどうか分からない。命令ではないが港外に避難したほうがよい。」旨の忠告を受けたものの,バラストタンク一杯の海水1,400トンを張り,船首3.50メートル船尾5.00メートルの喫水とし,バウライン2本,フォアブレストライン3本,アフターブレストライン2本及びスターンライン1本を追加し,すべての開口部を閉鎖した。
 7日08時45分A指定海難関係人は,代理店から携帯電話により,「05時00分港長から第2警戒体制が発動されて避難勧告が出ているので,大型船であるブ号は港外の安全な場所に避難しなければならない。」との連絡を受けたが,3時間ないし4時間しのげば台風は通過するので岸壁に付けたままのほうが安全と思い,速やかに離岸して港外の安全な場所へ避難しなかった。
 10時00分過ぎA指定海難関係人は,代理店から携帯電話により,港外への避難は強制である旨の連絡を受けたが依然として避難せず,更に11時過ぎ代理店の訪船を受けて避難を促され,ようやく離岸して避難することとし,代理店にタグボート2隻の手配を依頼したところ,タグボート会社から荒天であるので派遣できない旨の回答があったので,そのまま着岸を続けた。
 ブ号は,12時には風力7,13時には風力11となって風向が南南東に変わり,14時ごろ波高が2メートルばかりとなったとき,岸壁上では打ち上げた波で揚げた原木が散乱するようになり,アフタースプリングラインが切断されてスターンラインがビットから外れ,船体動揺により左舷船尾外板が岸壁に激突し,機関室左舷側に破口が生じて浸水するようになった。
 A指定海難関係人は,部下に命じて浸水を防ぐための応急措置を講じさせている途中,再び左舷船尾外板が岸壁に激突して更に破口が生じたので,同措置の続行を断念して機関室から退避させ,船体動揺などによって乗組員が退船できない状況であったので,全乗組員に救命胴衣を着用させて操舵室に集合させた。
 ブ号は,14時40分最大風速毎秒60.2メートルの南風を受け,その後も左舷外板が岸壁に激突を繰り返して右舷側に傾斜を始め,14時41分傾斜が35度ばかりとなったときVHFにより遭難信号を発信し,15時00分広島港広島ガス廿日市シーバース灯から065度680メートルの地点において,浮力を喪失して沈没し,甲板上の構造物を海面上に出した状態で着底した。
 当時,天候は雨で風力11の南風が吹き,波高は約3メートルで,潮候はほぼ高潮時であった。

9 その結果
 ブ号は,沈没後すべての係留索が切断し,16時40分右舷側に横転し,のち引き上げられたが廃船とされ,二等航海士B,機関長C,司厨長D及び司厨員Eが溺死し,岸壁も多数の亀裂が生じて破壊された。

(本件発生に至る事由)
1 第2警戒体制が発動されて避難勧告が出され,港外の安全な場所へ避難しなければならない旨の連絡を受けたのに,3時間ないし4時間しのげば台風は通過するので岸壁に付けたままのほうが安全と思って速やかに港外に避難しなかったこと
2 11時過ぎ避難することとしたがタグボートの手配ができなかったこと
3 アフタースプリングラインが切断されてスターンラインがビットから外れたこと
4 機関室左舷側に破口が生じて浸水するようになったこと

(原因の考察)
 本件は,ブ号が揚荷の約半分を残して着岸中,台風18号の接近に伴う風浪の影響により係留索が切断されて船体が岸壁に激突し,破口が生じて浸水し,浮力を喪失して沈没したものである。着岸中の岸壁の南方には防波堤が設置されていなかったから,南方からの風浪を遮ることができないでその影響を直接受け,船体と岸壁との激突を防ぐことができない状況であり,避難勧告を受けたときに速やかに港外の安全な場所へ避難していれば,本件発生は未然に防止できたものと認められる。
 したがって,A指定海難関係人が,避難勧告を受けたのに,3時間ないし4時間しのげば台風は通過するので岸壁に付けたままのほうが安全と思い,速やかに港外に避難しなかったことは,本件発生の原因となる。
 タグボートの手配ができなかったこと,アフタースプリングラインが切断されてスターンラインがビットから外れたこと,及び機関室左舷側に破口が生じて浸水するようになったことは,いずれも本件発生に至る過程で関与した事実であるが,いずれも着岸を続けた結果であり,本件発生の原因とならない。

(海難の原因)
 本件沈没は,広島港廿日市木材岸壁着岸中,港長から台風接近に伴う港外への避難勧告を受けた際,速やかに港外の安全な場所へ避難せず,船体動揺により左舷船尾外板が岸壁に激突し,機関室左舷側に破口が生じて浸水し,浮力を喪失したことによって発生したものである。

(指定海難関係人の所為)
 A指定海難関係人が,広島港廿日市木材岸壁着岸中,港長から台風接近に伴う港外への避難勧告を受けた際,速やかに港外の安全な場所へ避難しなかったことは,本件発生の原因となる。
 A指定海難関係人に対しては,海難審判法第4条第3項の規定により勧告する。

 よって主文のとおり裁決する。





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION