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平成17年広審第21号
件名

押船第三東予丸被押バージヤマカ57外1隻・作業船いとやま遭難事件

事件区分
遭難事件
言渡年月日
平成17年9月29日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(島友二郎,吉川 進,道前洋志)

理事官
前久保勝己

受審人
A 職名:第三東予丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
B 職名:いとやま船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
いとやま・・・沈没

原因
強潮流時にバージの離接舷作業を中止しなかったこと

主文

 本件遭難は,強潮流時にバージの離接舷作業を中止しなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。

理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年6月3日13時50分
 今治港第3区
 (北緯34度06.9分 東経132度58.1分)

2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 押船第三東予丸 バージヤマカ57
総トン数 16トン 約254トン
全長 13.50メートル 29.95メートル
機関の種類 ディーゼル機関  
出力 588キロワット  
船種船名 作業船いとやま  
全長 10.20メートル  
機関の種類 ディーゼル機関  
出力 40キロワット  
(2)設備及び性能等
ア 第三東予丸
 第三東予丸(以下「東予丸」という。)は,限定沿海区域を航行区域とする一層甲板の鋼製押船で,上甲板前部のやぐら上部に操舵室を,船体中央に機関室をそれぞれ備え,バージヤマカ57と全長約41メートルの押船列(以下「東予丸押船列」という。)を形成して,専ら,C社今治工場及び同西条工場間で,鋼材や船体ブロックの輸送に従事していた。
イ ヤマカ57
 ヤマカ57(以下「ヤマカ」という。)は,1976年に建造された鋼製バージで,後部にハウスを備えていた。
ウ いとやま
 いとやまは,平水区域を航行区域とする,一層甲板型鋼製作業船で,甲板の周囲に高さ30センチメートルのブルワークを,その両舷下端に高さ6センチメートル長さ15センチメートルのスカッパーを各5個設けていた。
 船体中央部の機関室は,甲板上に機関室囲壁を備え,同壁後面の右舷側に下端の甲板上高さが約20センチメートルで,一辺が約50センチメートルの正方形をした出入口を設け,その扉は,同口の各辺より約5センチメートル大きい鉄板製で,右舷側のヒンジで外側に開くように取り付けられ,ハンドルは付いていたもののロック設備がなく,また,水密構造にはなっておらず,経年劣化で鉄板が歪み,周囲に隙間が生じていた。また,機関室の前方に2箇所の空所,後方に1箇所の空所及びストア並びに舵機室の各区画が設けられ,ストア及び舵機室区画の開口部は,さぶた状のカバーで閉鎖されていた。
 いとやまは,専ら今治工場において,船舶の離接舷時の操船援助や綱取り,オイルフェンスの展張,あるいは資材の運搬等の作業に従事し,専


3 今治港第3区及び西ノ瀬戸
 今治港第3区は,来島海峡の4つの水道のうち,最も西側の来島ノ瀬戸に面し,南方に深く入り込んだ細長い湾となっており,湾口に来島が位置し,同区内東側の愛媛県今治市に今治工場の主要施設があって,来島中磯灯標から213度(真方位,以下同じ。)910メートルにあたる,同区内西側の同市波方町大浦に,北西から南東に延びる岸壁(以下「大浦岸壁」という。)が設けられていた。
 大浦岸壁とその北東方沖合に位置する来島の間は,幅約300メートルの西ノ瀬戸と呼ばれる水道になっており,同島を挟んで来島ノ瀬戸と隣り合い,来島海峡が北流のとき,同瀬戸の潮流が西ノ瀬戸に分岐し,分岐した潮流と来島南東岸に当たって同岸沿いに流れる潮流が合流する大浦岸壁と来島との中間付近は,強潮流域となっていた。

4 バージ入替え作業
 大浦岸壁にはドックゲートを積んだ長さ40.00メートル幅15.00メートル深さ2.50メートルの鋼製バージ(以下「40メートルバージ」という。)が係留され,更に,その沖側に船体ブロックを積んだ長さ50.00メートル幅18.00メートル深さ3.00メートルの鋼製バージ(以下「50メートルバージ」という。)が係留されていたが,近々ドックゲートを使用することとなり,両バージを入れ替える必要が生じたので,40メートルバージの移動には東予丸押船列及びいとやまを,50メートルバージの移動にはタグボート愛船丸をそれぞれ使用してバージ入替え作業を行うこととした。


 A受審人は,入替えの作業手順を,愛船丸が50メートルバージを引き出したのち,東予丸押船列が,ヤマカの右舷側を40メートルバージの左舷側(40メートルバージの船首方向については,東予丸押船列の船首側とする。)に船尾端が並ぶ位置で合わせ,直径35ミリメートルの合成繊維索を船首尾に各2本取って横抱きし,いとやまを同バージの船首に直径22ミリメートル及び同30ミリメートルの合成繊維索を船首及び船尾に各1本取って右舷付けさせ,自らが指揮を執って同バージを大浦岸壁から離岸させて沖合で待機し,愛船丸が50メートルバージを同岸壁に再接岸させたところで,同バージに40メートルバージを接舷係留させることとした。(以下,東予丸押船列,40メートルバージ及びいとやまが一体となったものを「東予丸船団」という。)


5 事実の経過
 平成16年6月3日12時40分A受審人は,東予丸の船長がバージの離接舷作業に不慣れであったことから,自らが作業の指揮に当たることとし,50メートルバージの沖側に接舷係留していた東予丸押船列に,乗組員2人を伴って乗り組んだ。
 A受審人は,愛船丸の到着を待つうち,折しも来島海峡が北流7.9ノットの最強時を14時19分に控え,大浦岸壁から100メートルほど沖合では,潮目を生じて強潮流となっていることを知った。
 また,いとやまは,B受審人が1人で乗り組み,A受審人の指揮の下,バージの離接舷作業の援助のため,船首0.8メートル船尾1.2メートルの喫水をもって,同日13時00分今治工場の係留地を発し,13時05分大浦岸壁に至り,40メートルバージの船首端に接舷係留した。
 A受審人は,いとやまが40メートルバージに接舷したことを認め,間もなく愛船丸が到着したので,13時13分50メートルバージから離れ,愛船丸が同バージを南東方向に引き出したのち,13時33分東予丸の船首0.8メートル船尾2.2メートル,ヤマカの船首0.0メートル船尾0.8メートルの各喫水をもって,船首尾とも0.5メートルの等喫水となった40メートルバージの左舷側にヤマカの右舷側を合わせて接舷係留し,バージ離接舷作業の準備に入った。
 このときA受審人は,折から作業が強潮流時にあたり,いとやまが40メートルバージの船首端に接舷した状態で沖出し待機すると,同船が左舷側から強潮流を受けて甲板上に海水が打ち込むおそれがあったが,強潮流を避けて潮の弱いところで待機すれば海水が打ち込むことはないものと思い,潮流が弱まるまで作業を中止することなく,操舵室で単独の操船指揮にあたり,13時38分同バージ上に配置した乗組員に大浦岸壁との係留索を解かせると同時に,同乗組員を通じて,B受審人にいとやまの機関を後進にかけるように命じ,バージの離接舷作業を開始した。
 一方,B受審人は,A受審人から機関を後進にかけるように命じられ,機関室囲壁の後方に立って操船にあたり,機関を全速力後進にかけた。
 A受審人は,40メートルバージの船首が大浦岸壁から20メートルほど離れたところで,東予丸を右舵一杯として微速力前進にかけ,同岸壁の前面に愛船丸が50メートルバージを再接岸させるための操船水域を設けるため,その後,東予丸の舵と機関を種々使用して,東予丸船団は,西ノ瀬戸の潮流を船首方向から受けながら,大浦岸壁とほぼ平行状態で,徐々に沖合に移動し,13時44分B受審人に機関中立運転を命じた。
 13時45分A受審人は,東予丸船団が,大浦岸壁沖合100メートルばかりの西ノ瀬戸の中央付近に至り,いとやまの左舷側に当たる船首方向からの潮流が徐々に強まり,北西方向に圧流される状況になったとき,流されながら来島寄りの潮の弱いところまで行けば良いと思い,東予丸の舵と機関を使用し,同じ姿勢を保ちながら待機を開始した。
 B受審人は,大浦岸壁から離れるにつれて,徐々にいとやまの左舷側に当たる潮流の強さが増し,13時50分少し前海水が同船のブルワークを越えて一気に甲板上に打ち込み,船体が左舷側に傾斜するのを認め,急いで40メートルバージの甲板上に移乗し,A受審人に向かって合図を送りこのことを知らせたものの,13時50分来島中磯灯標から214度740メートルの地点で,東予丸船団が126度を,いとやまが216度を向いたとき,海水が機関室の出入口から同室内に流入した。
 当時,天候は晴で風はほとんどなく,潮候は下げ潮の末期にあたり,付近には北西方に流れる6ノットの潮流があった。
 その結果,いとやまは,更に左舷側に傾斜して船体後部のストア及び舵機室区画にも海水が流入し,船尾索が切断して船尾側から沈下し始めた
 A受審人は,愛船丸の来援を依頼し,同船が到着後40メートルバージに係留させ,東予丸押船列は40メートルバージから離れ,ヤマカの船首端にいとやまの船首部をロープで吊って,沈没防止を試みたが,北西方に圧流され,大浦岸壁の北西方2.3海里付近に達したところで,吊り索が切断し,いとやまは沈没した。

(本件発生に至る事由)
1 いとやまを40メートルバージの船首端に右舷付けで係留していたこと
2 A受審人が,強潮流時であることを認識していたにもかかわらず,潮流の弱いところで待機すれば大丈夫と思い,作業を中止しなかったこと
3 いとやまの機関室扉が水密構造でなかったこと
4 西ノ瀬戸に強潮流があったこと

(原因の考察)
 本件は,A受審人が,バージの離接舷作業を,西ノ瀬戸の強潮流が弱まるまで中止していれば,いとやまの甲板上に海水が打ち込むことはなく,回避できたものと認められる。
 したがって,A受審人が,強潮流時にバージの離接舷作業を中止しなかったことは,本件発生の原因となる。
 いとやまの機関室出入口扉が水密構造になっていなかったことは,本件発生に至る過程で関与した事実であるが,相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら海難防止の観点から是正されるべき事項である。
 B受審人が,いとやまを40メートルバージの船首端に係留したこと及び中ノ瀬戸に強潮流があったことは,本件発生の原因とならない。

(海難の原因)
 本件遭難は,今治港第3区内の西ノ瀬戸において,大浦岸壁に係留されている2隻のバージの入替え作業のため,東予丸押船列が,いとやまの援助を受けてバージの離接舷作業を行う際,強潮流時に同作業を中止せず,いとやまが左舷側から強潮流を受け,甲板上に打ち込んだ海水が機関室に流入したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
 A受審人は,今治港第3区内の西ノ瀬戸において,大浦岸壁に係留されている2隻のバージの入替え作業のため,東予丸押船列が,バージの船首端に係留したいとやまに援助をさせてバージの離接舷作業を行う場合,同瀬戸の強潮流時に同作業を行うと,同船が舷側から強潮流を受けて,甲板上に海水が打ち込むおそれがあったから,強潮流を受けることがないよう,潮流が弱まるまで作業を中止すべき注意義務があった。しかるに,同人は,潮流の弱いところで待機すれば海水が打ち込むことはないものと思い,強潮流時に作業を中止しなかった職務上の過失により,西ノ瀬戸で作業中,いとやまが強潮流を左舷側から受けて甲板上に海水が打ち込み,機関室に浸水して遭難を招き,運航不能となり,同船を沈没させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては,海難審判法第4条第2項の規定により,同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人の所為は,本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。





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